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【東方SS】フルーツ属ライス科学名ジョウシキトラワレナイ

2012/9/14に東方創想話に投稿したSSです。
 


『フルーツ属ライス科学名ジョウシキトラワレナイ』



 宵闇の妖怪ルーミアが初めて守矢神社に姿を見せたのは、博麗の巫女襲撃事件(東方風神禄の一件)から数日ほど経った日のことである。
 早苗がルーミアに気づいたのは、神奈子と諏訪子に命じられて境内を掃き清めていたときだ。
 大きな拝殿の陰からこっそりと身を乗り出してこちらを見つめる金髪の少女に、眉をひそめたものである。
 そのときの早苗はルーミアについて何も知らなかったが、こんなところに来るのだから多分妖怪なんだろう、と判断した。実際、早苗や彼女の仕える神に比べれば非常に小さいながら、妖力も感じられる。
 つまり、弱い妖怪だということだ。ぱっと見た感じ敵意もないようだし、自分や神社に危害を加えられる存在だとは思えない。
 人間の子供と全く変わりなく見えるあどけない顔には、何やら期待に満ちた笑みが浮かんでいた。いや、期待と言うよりは好奇心だろうか。ともかく目を輝かせ、喜色満面といった様子なのだ。
 一体何なんだろう、と少し気になりはしたが、早苗は結局無視することに決めた。
 金髪の少女妖怪はこちらを見ているだけで近づいてくる様子がない。多分山に住んでいる低級妖怪が、興味本位で新参者の見物にきたというところだろうと想像する。
 それに、早苗は今とある事情でひどく苛立っており、見も知らぬ妖怪に構っていられる余裕など全くなかったのだ。

(今頃……)

 早苗はちらりと拝殿の方を見た。ここからでは見えないが、敷地のもっと奥の方には、祭神たる二柱の寝所を兼ねる守矢神社の本殿がある。
 今、そこには近づくなと厳命されていた。
 端的に言うなら追い出されたわけだ。少なくとも、早苗はそう解釈している。
 それを思うと、胸の奥からどす黒い何かが沸き上がってきた。怒りと悔しさ、恐れや不安に劣等感。そういったものがぐちゃぐちゃに混ぜ合わされて噴き出してくるような感じだ。
 自分がそんな感情を抱いてしまっているという事実がまた酷く自尊心を傷つけ、惨めな気分にさせてくれる。
 無駄なことだと知りつつ、それでも早苗は必死に自分に言い聞かせた。

 落ち着け、抑えろ。
 仕方ないじゃないか。

 わたしは、無様に負けたんだから。

「よー、真面目にやってんなー?」

 不意に、頭上から馴れ馴れしい呼びかけが降ってきた。それはささくれだった心を更に苛立たせてくれる無遠慮な声で、早苗は思わず舌打ちしそうになる。
 愛想のいい笑顔を作ることなど到底出来ず、苦々しい想いで空を見上げる。
 ちょうど、箒に跨がった人影が滑るように降りてくるところだった。黒白の魔女服に身を包んだ小柄な少女が、軽やかに境内に下りたって悪戯小僧のような笑みを浮かべてみせる。

「どっかの巫女様とは大違いだぜ。いや、感心感心」

 まるで長年の友達か何かのように、気軽に声をかけてきた。
 しかし早苗にしてみれば、相手の気安い態度は不躾にすら感じられる。
 なにせ彼女とはまだ知り合って間もなかったし、ここまで馴れ馴れしく話しかけられる謂われはない。と言うより、彼女は先日の一件において霊夢の後を追いかけるように山に乗り込んできて、散々に暴れ回っていたのだ。そういう経緯を考えればこの少女とは敵同士と言っても過言ではないはず。
 そういう間柄なのにあまりにも礼節に欠けた態度ではないか、という非難を込めて、早苗は聞こえよがしに咳払いして言う。

「……霧雨魔理沙さん」
「おいおい、なんだよ。ずいぶんと他人行儀だな」
「実際赤の他人でしょう」
「まあそう言われればそうだけどな」
「そうでしょう。大体ですね」
「まあ、そんなことはどうでもいいじゃないか。それよりもだな、早苗」

 会話の流れをまるで無視して、気楽に呼びかけてくる。苛立ちのあまり怒鳴り声を上げそうになったが、早苗は寸でのところで踏みとどまった。
 何やらペチャクチャと興味もないことをまくし立ててくる魔理沙の声をほとんど無視して、気を落ち着かせることに集中しようとするが、

「ん、なんか機嫌悪いのか、お前?」
「誰のせいだと……!」
「え、わたしのせいか? おいおい、ちゃんと挨拶までした客人に向かってそれはないだろう」
「あなたを客人として招いた覚えはありません!」
「へえ、この神社は招かれないと参拝も出来ないのか。霊夢のところより寂れそうだな、その内」

 いちいち気に障ることを言う女だ。早苗はぎりりと奥歯を噛む。
 早苗が感知する限り、この魔理沙という少女の力は自分やあの博麗の巫女より一段落ちるはずである。
 にも関わらず、この馬鹿にしたような態度だ。
 多分舐められているのだろう、と早苗は思う。
 それもこれも、前の一件で自分が負けたせいだ。
 早苗が敗北を喫したのはあくまで博麗の巫女に対してであって、あのとき周囲をチョロチョロ飛び回っていた魔理沙に負けたわけではない。
 だが、博麗の巫女側についているのであろうこの少女からすれば、早苗は間違いなく敗北者であり、負け犬であり、一つ劣った存在だ。
 きっと無様な自分をからかい、嘲笑して楽しんでいるに違いない。
 そう思うと怒りで全身が震えてくる。本心を言えば今すぐ叩きのめしてやりたいぐらいだが、そんなことをすれば自分の劣等感を自らさらけ出してしまうようなものだ。
 守矢の風祝にふさわしい振る舞いをすべしという自尊心が、ギリギリのところで早苗を思い留まらせる。

(それに……)

 魔理沙の駄弁を聞き流しながら、早苗はもう一度本殿の方を見やる。
 今こんな下らないことで問題を起こしたら、今度こそ二柱に見放されてしまうに違いない。
 そう考えたら、ようやくほんの少しだけ冷静さが戻ってきた。
 早苗は出来る限り抑えた口調で、

「……それで、霧雨さん」
「お、ちょっと親しさがアップしたな」
「今日は何のご用ですか? 神奈子様でしたらご多忙ですのであなたごと……いえ、あなたなん……あなたのお相手をしている暇はありませんが」
「おい、棘隠しきれてないぞ……まあいいけど」

 魔理沙は別段気にした風もなく、「んー?」と首を傾げ、

「いや、別にこの神社には用事なんてないぜ?」
「は?」
「ほら、この間の一件で河童の技術者と知り合ったんでさ。そいつといろいろ話に来たんだ。逃げられたけど」
「迷惑がられてるんじゃないですか」
「いや、見たところ単なる人見知りの恥ずかしがり屋って感じだったからな。日を改めれば大丈夫なはずだぜ」

 うんうん、と魔理沙は一人満足げに頷いている。なんて厚かましい女だ、と呆れながらも、早苗は内心失笑していた。
 まったく、これだから空気を読めない人間というのは救いようがない。せいぜいその調子で逃げ回られて徒労を重ねるがいい。

「……笑ったと思ったらなんか黒い笑みじゃないか、お前」
「気のせいでしょう。それより用がないんでしたらお帰り頂けませんか? 先程申し上げた通り神奈子様はお忙しいですし、わたしもあなたほど暇ではありませんので」
「んー、どうするかなー」

 相変わらず早苗の嫌味を気にする素振りなど全く見せず、魔理沙は辺りをキョロキョロと見回す。
 そして、何やら面白がるようにきらりと目を光らせた。

「折角だし、下見でもしていくかな。いろいろ面白そうなものありそうだし」
「……下見?」
「ああ、こっちの話こっちの話。気にするなよ」

 魔理沙は気楽に笑ってピラピラと手を振るが、早苗は非常に嫌な予感を覚える。
 さっき、確かに下見と言った。それに、面白いものがありそうだという台詞。
 この二つから考えると、この少女がやろうとしていることは、

(泥棒……? いや、まさかね)

 早苗は内心苦笑して首を振る。いくらここが外の世界とはかけ離れているからって、住人の前で堂々と宣言して泥棒の下見をやる奴がいるわけがない。
 常識的に考えて、あり得ないではないか。
 早苗がそう結論付けたとき、ふと、

「あれ?」

 魔理沙が怪訝そうに言った。

「どうかしましたか?」
「いや……そこの、社の陰にルーミアがいるみたいだからさ」
「ルーミア?」

 誰だ、と早苗が眉をひそめると、魔理沙は首を傾げて、

「ああ、宵闇の妖怪とかって、まあそんなに強くはない妖怪なんだが。この辺で見かけたことあるか? 金髪で、赤いリボンつけてる奴」
「ああ、あの妖怪ですか」

 そう言えばすっかり忘れていたが、そんな妖怪がいたのだった。魔理沙の言葉からすると、まだ拝殿の陰に隠れてこちらを見ていたらしい。

「なんなんですか、あれ。霧雨さんのお知り合いですか?」
「まあ、顔見知りではあるぜ。こんなところにいるとは思わなかったが」
「どういう意味です?」
「いつもは博麗神社の辺りにいるんだよ、あいつ。で、ときどき『お腹空いたー』とか言って霊夢に飯たかってるんだよな」
「……は?」

 何を言われたのかすぐには理解できず、早苗は眉根を寄せる。

「ちょっと待って下さい。飯をたかるって……あの、妖怪が人間に、しかも妖怪退治の専門家である巫女に、ですか?」
「そうだぜ。何そんなに驚いてるんだ?」

 唖然とする早苗を見て、魔理沙は不思議そうに目を瞬く。

「……いやいやいやいや! おかしいでしょどう考えても。なんなんですかその関係。あり得ないですよ常識的に考えて」
「そう言われてもなあ……実際そうだし」

 魔理沙は困ったように頬を掻く。どうも、嘘を吐いているわけではないらしい。頭がクラクラしてきた。

「そんな、妖怪となれ合ってるみたいな……」
「別に珍しいことでもないだろ。たまに宴会だってやるぜ、わたしたちは」
「え、宴会ですって!?」

 さらに信じられないことを聞いた。

「馬鹿じゃないですか!? 相手は妖怪ですよ!? 人間襲うんですよ、食べるんですよ!?」
「知ってるよそんなことは」
「え、じゃあまさか人肉料理とか出して……」
「出すかい。どっから持ってくるんだよそんなの」

 魔理沙は苦笑し、面白がるような目で早苗を見る。

「しつこいようだが別に珍しいもんでもないぜ。弾幕やって馬鹿騒ぎして飲んで食って終わりってのがここの流儀だ」
「意味が分かりません」
「なんだよ。お前だって知り合いと酒ぐらい飲むだろ」
「いや、わたし未成年ですし……」
「みせーねん? なんだそれ、どんな仕事だ? ああ、それとも神道の一派か? 酒飲んじゃいけない戒律でもあるのか」

 魔理沙が首を傾げる。ずる賢そうだがまだあどけなさの残るその顔立ちは、どれだけ高く見積もっても早苗と同い年か少し下、ぐらいに見えるのだが。

「っていうかさ」

 早苗が自分の常識と現実とを何とか適合させるべく四苦八苦していると、魔理沙が思い出したように言った。

「そう言うお前らだって、妖怪と仲良くやろうとしてるんだろ?」
「え?」
「ここに来る前新聞拾ったんだよ。そこに書いてあったぜ、山の上層部と守矢神社の間で交渉が始まったらしい、とか何とか」

 何気ない指摘に、早苗は息が詰まりそうになった。
 魔理沙の言っていることは事実である。今この神社には、山を支配する天狗勢の総大将である天魔が滞在している。
 訪問の目的は、神社と山の今後の関わりや協力体制について神奈子、諏訪子と会談すること。
 今頃、本殿でそのことについて話し合っているはずだ。

(わたし抜きで)

 そのことを思い出すと、早苗の胸がズキリと痛む。
 少し持ち直していた気持ちがまた暗澹たる泥沼に沈んでいこうとしたとき、

「あ、そうか」

 と、魔理沙が手を打った。

「神奈子が忙しいって言うのは、もしかしてその交渉をやってるからなのか」
「……それは!」
「あれ? でもだったら」

 魔理沙は怪訝そうに眉をひそめ、

「お前はなんでここにいるんだ? 巫女って言ったら神様に仕える」
「そんなことより!!」

 早苗は魔理沙の言葉を遮って、ほとんど怒鳴るように言った。「うおっ」とのけぞる魔理沙に向かって身を乗り出し、拝殿の隅に向かって指を突きつける。

「さっきのあの子、連れ帰ってもらえませんか!?」
「あの子って……ああ、ルーミアか?」

 魔理沙はまだどきどきしているようだったが、拝殿の方をちらりと見て、肩をすくめた。

「連れ帰れって言っても、わたしはあいつの保護者じゃないぜ?」
「でも知り合いなんでしょう?」
「まあ一応はそうだが」

 魔理沙は頬を掻き、

「なんだ? あいつがいるとなんか困るのか?」
「え。えっと、それは……」

 単に話をそらすために咄嗟に出た言葉に過ぎなかったので、早苗は何と答えたものか少し迷う。

「……だってほら、妖怪が神社にいるなんてあり得ませんよ。不浄でしょう?」

 しごく真っ当なことを言ったつもりだったが、聞いた魔理沙は一瞬目を丸くして、それから腹を抱えて笑い出した。

「なっ、なにがおかしいんですかっ!?」
「ああいや、悪い悪い」

 魔理沙は目尻の涙を拭いながら、なおも笑う。

「なんていうか、わたしとしてはむしろ妖怪って神社にいるものだって当たり前って感覚だからさ」
「はぁ!? なんで!?」
「だって博麗神社はいつも妖怪だらけだぜ? 霊夢の奴がモテモテだからな、もうたまり場みたいになっちゃってるんだよな」

 魔理沙はにやけながら言う。「霊夢の奴がモテモテだから」の部分が、何故かひどく誇らしげである。
 一方で早苗の方はそれどころではない。

(博麗神社が妖怪のたまり場、って)

 別に、それ自体は驚くに値しない。たとえば神職が敗死したり堕落したりで、神社が妖怪に乗っ取られてしまうというのはいかにもありそうな話に思える。
 だが、この場合はあの博麗神社なのだ。
 守護者たる巫女は言うまでもなく健在で、しかも彼女は自分を負かした博麗霊夢である。
 そんな神社が妖怪のたまり場と化していて、しかもご飯をあげたり楽しく宴会開いたり?

(ありえない、ありえなさすぎるでしょう、常識的に考えて……!)

 なんというか、今まで築き上げてきた価値観がガラガラと音を立てて崩壊していくような気すらする。
 そんな風に呆然としている早苗を見て、魔理沙はどうにも居心地が悪そうであった。無意味に帽子のつばを弄ったりしながら、

「あー……なんかよく知らんけど、お前らもこの山の妖怪と仲良くやるつもりだったらさ、そういう偏見は捨てた方がいいんじゃないか? 利用し合う関係だったとしても不浄だなんだ言ってたら協力どころじゃないだろ」

 早苗は答えない。なんと言っていいのか、よく分からなかった。

「……じゃ、わたしは帰るな。ルーミアにも一応声はかけておくぜ。従うかどうかは分からんけど」

 魔理沙は変に律儀に言うと、拝殿の隅に向かって歩き出す。
 が、途中で一度振り返って、

「そうそう、余計なお世話かもしれないけど一応警告しておくぜ」
「……なんです?」
「ルーミアな、一応気をつけた方がいいかもしれないぜ」
「気をつける、って」

 早苗は首を傾げる。

「何をですか? あんな弱い妖怪相手に」
「弱くても、一応人喰い妖怪だからな」

 平然と言う魔理沙に、早苗は息を飲む。
 人喰い妖怪。それはそうだろう。幻想郷の妖怪は原則的に人を食うものだと、早苗も知識としては知っている。
 だが、先程こちらを覗いていたルーミアの無邪気な笑顔と、人喰い妖怪という恐ろしげな言葉のイメージがどうにも重ならない。

(いや、それは単純すぎる見方かも。可愛い女の子の顔がガバーッと割れて化け物に、なんてモンスター映画とかだとよくあるし……)

 じゃああの子もそんな風になるんだろうか、と想像してもみるのだが、やはりどうもイメージが湧かない。
 それでまた早苗が四苦八苦していると、魔理沙は呆れたように苦笑した。

「いや、そんな深刻にならなくてもいいだろ。あいつそんなに強くないし、お前なら飛びかかられても楽に返り討ちにできるぜ。それにこの神社の敷地内なら神奈子に守ってもらえるんだろ、お前」

 魔理沙はそう言うと、「じゃあな」と手を上げて拝殿の陰に走っていく。
 そうして一分ほどの後、来たとき同様箒に乗って飛び去っていった。
 遠ざかる魔女の後ろに、何か黒い球のようなものが見えた気がした。



 霊夢のところに飯でもたかりに行こうぜ、と言うと、ルーミアはいつも通り涎を垂らして賛成し、あっさりついてきた。まったく現金な奴である。
 そうして連れだって空を飛びながら、魔理沙はふと聞いてみる。

「それでお前、なんだってあんなところにいたんだ? 早苗が気になるのか?」
「んー? んーふふふー」

 ルーミアは何やら楽しそうに、それでいてはにかむように笑った。

「うん、気になる。とっても気になるの。早苗っていうんだね、あの子」
「おう。東風谷早苗って名前らしいぜ」
「そうなんだ。外から来た巫女なんでしょ?」
「よく知ってるねえ。まあ正確には巫女じゃなくて風祝とか言うらしいけど」
「なにそれ」
「知らん」
「魔理沙は馬鹿だね」
「お前に言われたかないな」

 からから笑う魔理沙の周りを、ルーミアはグルグルと軽やかに、はしゃぐように飛び回る。元々、いつも馬鹿面で笑っている脳天気な妖怪だと思っていたが、今日の機嫌は極めつけだ。まさに有頂天というやつに見えた。

「何がそんなに嬉しいんだ、お前」

 魔理沙が何気なく聞くと、ルーミアはにっこり笑ってこう答える。

「だってあの子、とってもいい匂いがするんだよ」

 それはもう、食べちゃいたいぐらいに。
 そう言い放つルーミアの口元で、鋭い犬歯がギラリと光った。



 魔理沙が行ってしまったあと、早苗はしばらく境内でぼんやりしていたが、やがてため息と共に箒を片づけた。
 いろいろと衝撃的なことを聞かされたりして、余計に気疲れしてしまった。そろそろ交渉も終わっているかもしれないと思い、本殿に向かってノロノロと歩き出す。
 その途中で、向こうから見慣れた影が二つ向かってくるのに気がついた。

「あー、久々だけどやっぱり面倒くさいね、こういう交渉事は」
「初日からそんなこと言わないでよ、諏訪子。昔みたくあっちこっちのいろんな立場の連中が欲望陰謀てんこもりで表から裏からひっきりなしに接触してくるってのよりは随分マシでしょ」
「まーね。でもさ、あの天魔ってジジイ絶対ロリコンだよね。わたしの足チラチラ見てたし」
「滅多なこと言わないでよ、当たってたら嫌だし……」

 そんなことを言い合いながら、神奈子と諏訪子が歩いてくる。いろいろと不適切な会話の内容については聞こえなかった振りをしつつ、早苗はちらりと周囲を見回したが、周囲に二柱以外の人影は見当たらない。

「神奈子様、諏訪子様」
「ああ、早苗」
「お疲れさん。掃除終わったの?」
「はい、一応は」

 本当は途中で投げ出してきたも同然なので、早苗はちょっと罪悪感を覚えながら頷く。
 ただ、掃除を命じた諏訪子の反応は「ん、結構結構」という至極どうでも良さそうなものだった。やっぱりあれは自分を会談から遠ざけるための方便だったんだ、と早苗は確信を深め、またズキリと胸を痛める。

「天魔様はお帰りになったんですか?」
「うん。お疲れでしょうし形式ばった見送りは不要ですとか言って、あっという間に飛んでいったよ」
「さすがに天狗の頭領だけはあるよね。あんなナリして速いのなんの」
「……あの、神奈子様、諏訪子様」

 早苗は強い不安を抱きながらも、意を決して言った。

「ご無礼を承知でお願いします。次の会談からはわたしもご一緒させて下さい。守矢の風祝として、ちゃんと状況を把握しておきたいですし」

 早苗がそう言うと、神奈子と諏訪子はちらっと目配せし合い、それぞれちょっと違った表情で答えた。

「いや、心配しなくても大丈夫だよ、早苗。こういう面倒くさいのはわたしたちがやるから、ね?」

 困ったように、神奈子。

「そうそう。それにこの郷なら直接話が出来るから、早苗の仲介は必要ないしね」

 素っ気ない口調で、諏訪子。
 早苗はなおも食い下がる。

「でも、やっぱりこういう場にも慣れておかないと……今は無理でも、将来は神奈子様と諏訪子様のお役に立ちたいですし」
「うん、それはね、いつかはそういうこともやってもらうと思うけど、今はまだ早いから」
「時期尚早ってやつね。それに今回のはぶっちゃけあんま面白い話でもないから、早苗は他の仕事やっててよ」

 いつかって、いつですか。本当にそんな日が来るんですか。
 他の仕事って、なんですか。本当に必要な仕事なんですか。

 早苗は重ねてそう尋ねたいという衝動を、必死に堪えた。
 相手は神様で、自分は彼女たちに仕える風祝だ。
 これ以上は失礼になる。分を弁えなければ、と思った。

「……申し訳ありません、出過ぎたことを申し上げました」
「ああいや、いいんだよそんな頭を下げなくても」

 早苗が深々と頭を下げると、神奈子が慌ててなだめにかかった。

「別に早苗の助けが要らないって言いたいわけじゃなくてね。時期が来たらたくさん働いてもらうから」
「そうそう、早苗は守矢神社の顔だからね。アイドル的な感じでガッポガッポ信仰稼いでもらわなくちゃ」
「……努力します。では、夕餉の支度に取りかかりますので」

 早苗はなんとかそう言うと、二人の顔を見ずに母屋へ向かう。
 無礼な態度だと思ったが、胸が苦しすぎて二柱の顔を見ていられなかったのだ。



 そうして気疲れの多かった一日も、ようやく終わりを迎えた。
 早苗は母屋にある自室で、布団の中に横たわっている。
 周囲に人工の照明がないせいか、それとも別の要因によるものか、幻想郷の闇は外の世界のそれよりもずっと深いように思える。
 目を開けていても、見慣れた天井はぼんやりとしか見えない。
 そんな深い暗闇の中で、早苗は幾度か寝返りを打ち、ため息を吐いた。
 どうにも息苦しくて、眠れない。
 目を閉じると、いろんな考えが頭に浮かんでグルグルと渦を巻くのだ。
 やはり自分は見放されているのではないか。
 今はもう負けてしまって用済みになった風祝をどう処分するか、代わりをどこから見つけてくるかと話し合っている段階なのではないか。
 長年修行を積み努力を重ねてきた自分に代われる存在などそうそういるはずがない、と胸を張りたいところだが、本当のところ全く自信がなかった。
 何せ、自分は無様に負けたのだ。
 その事実が、今まで以上に重く心にのしかかる。

(……神奈子様と諏訪子様のお役に立つために、何もかも投げ打ってこの郷に来たのに)

 だから、負けることは許されないのだと思っていた。
 危険な妖怪が我が物顔で空を飛ぶ異郷の地、と聞いたときは恐ろしくもあったが、同時に神奈子たちが自分も連れていくと言ってくれたことが誇らしくもあった。
 敬愛する偉大な神様のために持てる限りの力を振るい、邪悪な怪異を討ち滅ぼして信仰を集める。
 それは、外の世界での何もかもを犠牲にしてでも従事するべき、崇高な使命に思えたのだった。

(それなのに負けて……しかもなんだかこの郷、わたしが想像していたのとは随分違うみたいだし……)

 昼間魔理沙から聞いた話は、敗北に打ちひしがれていた早苗の心に新たな不安を与えていた。
 妖怪退治を使命にしているはずの博麗の巫女がその妖怪となれ合っているらしいとか、人を食うような奴とも仲良くしているとか。
 もちろん、今後は妖怪の信仰も集めないといけないから、という神奈子の言葉は聞いていたから、幻想郷には話の通じる妖怪もいるんだろうな、ぐらいは考えていた。
 良い妖怪と悪い妖怪、みたいなのがいて、自分たちはきっとその良い妖怪を助けて信仰を集めるんだろう、とか。
 だが今日の話を聞いた限りだと、そもそもその良い妖怪とか悪い妖怪とかいうイメージ自体がこの郷にはそぐわないようであった。
 何せ、人喰い妖怪と一緒に飲めや歌えやの宴会をするぐらいだ。
 良い妖怪だから仲良くするとか悪い妖怪だから退治するとか、そういう単純な図式からは想像もできない現実ではないか。
 少なくとも、早苗の常識では理解することすら出来そうもない。

(ううん……もしかしたら、それこそが知っていて当然の常識だったのかも)

 もしそうだったら、と考えると、早苗は背筋が震えた。
 自分たちが手塩にかけて育ててきたはずの風祝が、知っていて当然のことを全く知らず、ごくごく浅い見識しか身につけていなかった。しかも、大して真面目に修行を積んでいるわけでもなさそうな土着の巫女なんぞにあっさり負けた。
 これでは、落胆されて当然ではないか。
 むしろ、これでもまだ失地回復のチャンスがあるなどと思う方がおかしいとすら思えてくる。

(じゃあ、やっぱりわたしはもう……?)

 その先を想像するのが恐ろしく、早苗は目を閉じ耳を塞いで体を丸める。
 だが、そうしたところで自分の内に渦巻く疑念や不安からは逃れられない。
 むしろ瞼の向こうに広がる暗闇から更なる恐怖がにじみ出してくるようにすら感じられて、早苗はもう息も出来ないほどに苦しくなった。



 翌朝の目覚めは最悪だった。
 いや、ほとんど一睡も出来なかったのだから、そもそもそれを目覚めと呼んでいいものかどうかが分からないのだが。
 そんな状態でも長年の習慣がなせる業か、早苗は半ば機械的に朝のお勤めを果たした。朝食の最中も日常の祭儀の最中も、恐ろしくて二柱の顔をほとんど見られなかったが。
 そうして正午も近い時分、早苗は昨日と同じように箒を持って境内に立っていた。
 ただ、一応箒を動かして掃除していた昨日と違って、今日はもう動く気力すら湧かない。方便だったとしても命ぜられたことなのだから、という使命感と、こんなことをしている場合ではないのに、という焦りとが心の中でぶつかりあって、早苗の思考を麻痺させている。
 終わりの見えない葛藤に重いため息を吐きだしたとき、早苗はふと、自分を見つめる視線に気がついた。

(あの妖怪、また来てる)

 今度は拝殿の床下に這いつくばって隠れているようだ。影の中に赤い目が浮かび上がり、じっと自分を見つめている。
 表情はよく見えないが、昨日と同じく期待に満ちた視線が肌で感じられる、ような気がした。

(何なんだろう)

 早苗は少し気味悪く思ったが、結局無視することにした。
 何を考えているんだか知らないが、所詮低級妖怪のやることだ。不審な行動を見せたら即座に叩きのめしてやればいい。
 そう考えて、また内心の葛藤に意識を向ける。
 本当に、自分は一体どうするべきなのだろう。このまま見捨てられるのはもちろん嫌だが、どうすればまた二柱の信頼や期待を取り戻せるのかがさっぱり分からない。
 自分が優秀で使える駒なのだということを証明してみせればいいのかもしれないが、そもそもそんな機会がないのだ。
 それともいっそ勝手に外に出て、その辺を歩いている妖怪を手当たり次第ぶっ飛ばして退治してみようか?

(いやいや。辻斬りや通り魔じゃないんだから)

 そんなことをする巫女がどこにいるのか。常識的に考えて有り得ない話ではないか。
 大体、勝手にそんなことをしてまた何か余計な問題を起こしたら、それこそ評価が地に落ちる。
 要するに、やれることは何もないのだ。せいぜい、神奈子と諏訪子が気まぐれを起こして、もう一度だけ自分にチャンスを与えてくれるよう願うことぐらい。

(万一そんな奇跡が起きたとしても、また失敗してしまったら)

 想像が際限なく悪い方向へと向かっていく。
 重苦しい気分で首を振ったとき、早苗は例の少女妖怪がまだ先程と同じ場所にいるのに気がついた。
 先程と全く変わらず、社の床下からじぃっとこちらを見つめている。

(一体……?)

 さすがにここまでくると気になってきた。
 ルーミアはやはり目を輝かせてこちらを見ているだけで、近づいてくる気配は全くない。
 ただ観察しているだけなのか? だが、一体何のために?

(何かを待っているの? でも、何を?)

 そう考えたとき、ふと昨日の魔理沙の言葉が思い浮かんだ。
 弱くても一応人喰い妖怪だからな、と。

(まさか、わたしの肉を狙って……!?)

 背筋がぞっとした。外の世界で育ってきた現代人である早苗にとって、喰われるかもしれない、自分を喰おうとしている者がいるという感覚は初めて味わうものだ。
 それはなかなか不快で、不安を掻き立ててくれる感覚である。たとえ相手が自分であれば何の問題もなく対処できる程度の力しか持っていないとしても、だ。

(いや、本当にそう……?)

 ふと、早苗の心に疑念が湧いた。
 本当に、あのルーミアという妖怪は弱い力しか持っていないのか、と。
 意識を集中して感じ取れる妖気は、確かにごくごく弱いものである。
 しかし、そうだとすればおかしいことが一つあった。
 それは、ルーミアがここにいるという状況そのものである。この守矢神社は妖怪の山山頂にあり、山中においては天狗勢の一員である白狼天狗たちが、その千里眼で常に哨戒を行っている。なおかつ天狗自体が排他的な種族であり、余所者の侵入、通行を許可することは滅多にないとのことだ。
 魔理沙の話によれば、ルーミアは山の妖怪ではないらしい。いや、山の妖怪であったとしても、現在天魔が神奈子たちと会談の場を設けているこの神社の敷地内には立ち入らぬよう布告が出されているはず。現に、境内には他の妖怪の姿は見られない。
 なのに、ルーミアはここにいる。彼女が本当に弱い妖怪であるのなら、どうやって監視の目を潜り抜けて侵入したというのか。しかも、二日続けて。
 これらのことから、導き出される答えはただ一つ。

(あの妖怪は、本当の力を隠している……!)

 箒を握る手に汗が滲んだ。疑いは早苗の中で確信に変わりつつあった。よくよく目を凝らして見れば、ルーミアの髪に結ばれている赤いリボンはお札のようにも見える。となれば、あれは呪具か何かだろう。きっとあれで本当の力が周囲にばれないように隠しているに違いない。
 そのとき、暗がりに這いつくばるルーミアと正面から目が合った。
 少女の口の端が大きく持ちあがり、明らかに人のそれとは違う鋭い牙が露わになった。赤い目がぎらりと光る。

(ひっ……!)

 悲鳴が口から漏れなかったのは、堪えたからではなく息が詰まったからだ。緊張によるものか恐怖によるものか、心臓が痛いほど胸の内で暴れ出す。

(お、落ち着いて、落ち着かないと……!)

 早苗は慌ててルーミアから目をそらし、掃除を続ける振りをしながら気息を整えた。
 危ないところだった。これ以上近づかれる前に奴の正体に気づけたのは全く幸運というべきだ。
 だが、どう手を打つべきか。

(まずは神奈子様たちにお伝えして)

 そう考えかけたとき、早苗の脳裏を過ぎったのは霊夢と魔理沙の姿である。
 そうだ、昨日魔理沙が言っていたではないか。自分たちはあれが人食い妖怪であると理解しつつも仲良くやっていて、宴会までしていると。
 今になって思えば、あれは一種の挑発のようなものだったのではないか? きっと魔理沙はルーミアが危険な妖怪であることを知っているのだ。その上で、自分を焚きつけてみせた。

 こいつの正体に気づけるか? そしてその上でなお、自分たちと同じように余裕のある態度を保てるのか、お前に?

 そんな嘲り声が聞こえる気がする。
 そうなると、宴会というのも隠語だったのだろう。喰うか喰われるか、飲むか飲まれるか、それが幻想郷の流儀。気を抜けば一瞬で終わりの死の饗宴。
 レッツパーリィ、というわけだ。

(……駄目だ! 神奈子様たちには言えない……!)

 早苗は心の中で首を振り、覚悟を決めた。
 これは自分一人で対処すべき問題だ。自分が霊夢たちと同等、あるいはそれ以上に上手くやれる人間であることを示すために。

(そうだ。こんな危険な妖怪を一人でどうにか出来れば、神奈子様たちももう一度わたしに期待して下さるかもしれない……!)

 八方塞がりの闇に思えた前途に、一筋の光明が差した気がする。久しぶりに、体に力が戻ってきた。
 早苗が「絶対に負けたりしない」という決意を込めてキッとルーミアを見ると、向こうはきょとんとして目を瞬く。
 なんという演技力。やはり侮れない奴だ、と早苗は激戦の予感に身を震わせるのだった。



 そうして早苗とルーミアの戦いが幕を開けた。
 戦いと言っても、早苗はカウンター狙いの待ち態勢で、ルーミアは自分の好きなタイミングで奇襲を仕掛けられるという、圧倒的に不利な状況である。元々極度のストレスにより疲労が溜まっていた早苗にとっては、途方もなく苦しい戦いとなった。
 それでも、早苗は果敢にルーミアを挑発した。居眠りをした振りをしてみたり、相手に意識を集中したままぼんやりした風を装ったり。
 しかし、ルーミアはそういったフェイントのことごとくを見抜いているらしい。屋根に伏せてみたり石燈籠の陰に潜んだりと毎日隠れ場所を変えながら、早苗の誘いには乗ってくる素振りを全く見せない。
 ただ例のキラキラと目を輝かせた笑顔で、早苗のことをじっと見つめているだけだ。
 そんな風にルーミアは明らかにこの状況を楽しんでいる様子だったが、一瞬たりとも気を抜けない早苗の方は肉体的にも精神的にも少しずつ追い込まれつつあった。
 いつ襲撃があるか分からない上に誰にも頼れない以上、夜だって気を抜くわけにはいかない。この三日ほど、早苗はほとんど一睡もしていなかった。
 かくして、戦いは終わる気配すら見せずに続いている。
 だがこのままでは先に自分が倒れるということを、早苗は嫌と言うほどよく知っていたのである。

 母屋の玄関に力なく座りこみ、早苗は深々と息を吐いた。頭痛と嘔吐感と鉛のように重い倦怠感が絶え間なく精神を苛み、立ち上がる気力すら起こらない。
 そんな状態でもまだ、ルーミアは仕掛けてこない。今日は木の影から顔を出していた。頭だけでなく尻も出していたのはきっとこちらを挑発していたのだろうと思う。しかし今の早苗には反発する気力すら残っていないのだ。

(このままじゃ追い詰められるだけ……いっそ打って出るべきか。でも、勝てる見込みはない……)

 そして、負けたらそこで全てが終わりだ。そう思うと、どうしても自分から行動を起こすのを躊躇ってしまうのだった。

「早苗?」

 不意に、後ろから呼びかけられた。苦痛を堪えて振り向くと、そこに諏訪子が立っている。
 諏訪子は早苗の顔を見て、かすかに眉をひそめた。

「どうしたのよ。朝から思ってたけど、この二、三日ますます調子悪くなってるみたいじゃん」
「……申し訳ありません。不甲斐ないです……」

 羞恥と情けなさから、早苗はしょんぼりと肩を落とす。
 諏訪子は困ったように「あー」と言いながら、早苗の隣に腰を下ろした。

「一体どうしたの。なんかあった?」
「いえ……諏訪子様こそ、会談の方はよろしいんですか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。天魔のジジイがしきりに「合法」とか呟いてる以外は特に危険なことはないよ。交渉自体はもう山を越えたから、神奈子に押し付けてブラブラしてんの、あたしは」

 諏訪子が幼げな顔に悪戯を告白するような笑みを浮かべて言う。それを見ると、早苗は少しだけ気が軽くなった。
 早苗は昔からあまり羽目を外したことがない、いわゆる「いい子」という奴だったが、諏訪子はそんな早苗をこの笑顔で誘って歩いて、いろんな遊びを教えてくれたものだ。

(懐かしいな……そうだ、だからわたしはお二人のそばにいたくて)

 じわりと滲み出てきた感慨に、早苗が我知らず浸っていると、

「あのさー、早苗」

 と、諏訪子があらぬ方を見ながら探るような声で呼びかけてきた。

「もしかして、最近ちょっと変わったことがあったりして、それで悩んでる?」
「え……ど、どうして分かるんですか?」
「え? どうしてっていやえーと……そりゃ分かるよ、早苗凄い調子悪そうだし」

 諏訪子はそう言ったが、何かを誤魔化すような口振りからして、もっと詳しく事情を把握していることが窺えた。
 だが、よく考えれば当然かもしれない。早苗が気づけたことに諏訪子が気づいていないはずはないし、きっと何もかも把握しておられるのだろう。

(じゃあ今の言葉は、もしかして、わたしに助言を下さろうと……?)

 早苗は思わず泣きそうになってしまった。
 自分はまだ、完全には見捨てられていない。
 いや、もしかしたらここ数日極限状況に耐えているのを見て、ほんの少しだけ見直して下さったのかも、と。

「実は、そうなんです」

 早苗はちょっと躊躇いながら告白した。

「こういう状況に置かれるのは初めてで、どう対処したらいいのか……情けない話、こちらから手を出すのも怖くて」
「なるほどねえ。まあ確かに初めての経験だろうし、躊躇うのは分かるよ」

 諏訪子はちょっと難しそうにそう言い、腕を組んで何事か考え始めた。
 少し経って「うん」と一つ頷き、早苗に言う。

「よし、じゃあ特別に助言してあげよう」
「は、はい!」

 早苗は緊張して背筋を伸ばす。諏訪子は特にもったいつけることもなく、何か思い出させようとするように指を立てた。

「早苗、昔一緒に見たテレビ番組覚えてる? ほら、動物がたくさん出てたやつ」
「動物、テレビ……ああはい、よく覚えてます」

 早苗は一つ頷く。あれは確か、早苗が小学校に上がって間もない頃だ。
 何故そんな昔のことを覚えていたのかと言えば、その番組のコーナーの一つがとても印象的だったからだ。
 そのコーナーというのは、ある狼の群れをカメラが追いかけたドキュメンタリーであった。

「あれは感動的でしたね」
「だよね。でさ、あの番組の中に、この状況を打開するヒントがあるんじゃないかと思うんだけど」
「あの番組の中に……?」

 どういうことだろう、と思ったが、その疑問を口に出すことなく、早苗は一人で考え始める。きっとこれも自分の実力を測るための試練だろう。
 狼の群れの生活を追ったあのコーナーで、特に印象に残っているのは一頭の大きな鹿を相手に繰り広げられた狩りの光景である。
 一匹狼という言葉からして、狼という動物には孤高のイメージがあるが、実際のところ基本的には群れという単位で生活する動物である。
 その狩りもまた綿密に役割分担がなされていて、獲物を追い回す役、吠え声で威嚇する役、逃げ道を塞いで誘導する役など、見事な連携で獲物を追い詰めるのだ。
 そうして休むこともできずに一晩中追い回された獲物は、とうとう力尽きて狼に喰われてしまうというわけである。
 その賢く洗練されたやり方に、当時の早苗は畏敬の念を抱いたものだ、が。

(それと今回の件にどういう関係が……?)

 早苗は困惑して諏訪子を見たが、この気さくな神様は何も言わずにじっと早苗を見つめるだけだ。答えを待ってくれているらしい。
 何とかその期待に答えねばと悩み続けた早苗は、ふと気がつく。

 執拗に獲物を追い回す狼と、休むことも出来ずに疲れ果て、ついに狩られてしまう獲物と。
 
 この構図、何かに似ている。

(そうだ、今のわたしの状況にそっくり!)

 つまり、狼がルーミアで、獲物が早苗である。
 だとすると、諏訪子の言いたいことも分かってくる。

(つまり、あの妖怪はわたしにプレッシャーをかけて、動けなくなるほど疲れ切るのを待っているということ……!)

 ようやく敵の意図に気づき、早苗は愕然とする。
 つまり、待ちの姿勢で敵の奇襲を誘うという意図はとっくに見抜かれていたのだ。それどころかルーミアはこちらの狙いを逆手に取り、消耗して力尽きるのをただひたすら待っている。
 なんという恐ろしい妖怪だろう。危うく敵の罠にはまってしまうところだった。

「……その様子だと、分かったみたいね」

 諏訪子の言葉に、早苗はこくりと頷いた。

「やはり、こちらから動かなければ駄目ということですね?」
「そうそう。良かった、ちゃんと伝わったみたいで」

 諏訪子は満足そうに頷いたが、早苗はやはり不安だった。

「わたしに出来るでしょうか」
「大丈夫だよ、早苗なら。だって、わたしたちの風祝だもの」

 諏訪子はそう言って、励ますように早苗の肩を叩く。叩かれた部分がじわりと熱くなるのを感じた。それは、今の早苗にとっては一番嬉しい言葉だった。

「ま、頑張りなよ、早苗」
「はい、諏訪子様!」

 立ち上がって頭を下げる早苗に、「じゃ、わたしは神奈子の様子見てくるから」と言い置いて、諏訪子は本殿の方に歩いて行った。

「……よし」

 早苗は決戦を挑む決意を固めた。これ以上遅れればこちらが不利になるばかり、先手必勝、善は急げである。
 だが、まだ準備が足りないと早苗は思う。こちらから仕掛けるのなら最初の一撃で最大限のダメージを与えられるように準備を整えなければ。
 そう考え、術符やその他の役に立ちそうな呪具をかき集めるべく母屋に上がる。
 しかし廊下を歩いている途中、早苗は不意に目まいに襲われた。ぐらりと体がよろめいて、柱に寄り掛かってしまう。
 気付けばひどく体が重い。光明を見出したためかそれともまだ見捨てられていないことが分かったためか、緊張が緩んでしまったらしい。三日完徹した分の疲労が一気に襲ってきて、意識が朦朧としてくる。

(こんなときに……!)

 早苗は強い焦りを覚えたが、こんな状態で挑んでも勝ち目はないと判断できる程度の冷静さはまだ残っていた。
 仕方なく、体を引きずるようにして一番近くの部屋に入る。そこは庭に面した一室で、開け放たれた縁側からは柔らかな日の光が注いでいる。
 早苗は壁に寄り掛かるように座りこみ、大きく息を吐た。

(少し休んでからあの妖怪のところへ行こう。少し……休んだら……)

 抵抗しようもなく瞼が下がり、早苗の意識は睡魔に飲まれて深い闇へと落ちていった。



 闇の中で、夢を見た気がする。
 それはずっと昔、まだ幼い子供だった頃。
 泣きじゃくって帰ってきた自分を、神奈子と諏訪子が慰めてくれている。
 あのとき泣いていたのは、確かどこかの神様が消えるところを見てしまったからだ。
 神奈子たちに比べるとずっと力の弱い神様で、時代の波に飲まれてフッと消えてしまったのだ。
 幼い早苗には、その神様がどうして消えたのか、細かい理屈までは分からなかった。
 ただ神様というのはあんな風に忽然と消えてしまうのだという事実だけが頭にあって。
 それで、恐ろしくなった。

「ふたりもいつか消えちゃうの、わたしを置いてどこかへ行っちゃうの?」
「そんなことはないよ。わたしたちはいつまでも早苗と一緒だよ」
「早苗がわたしたちを見続けてくれるならね」

 神奈子と諏訪子は優しく、しかしどこか寂しそうな声でそう答えてくれたのだ。
 その言葉に従って、早苗は努力を続けてきたのだと思う。
 自分が頑張れば神奈子たちのそばにいられる、消え去る運命なんてはねのけられる、置いて行かれたりしない、と。
 ずっと一緒だと言ってくれた神様たちのそばにいたかった。
 だから全てを捨て去って、こんなところまでついてきたのだ。



「う……?」

 夢の気配が遠ざかる。早苗は暗闇の中で目を開く。
 ひどく落ち着いた気分だった。夢の中で神奈子に抱きしめられ、諏訪子に頭を撫でられたときの感じがまだ続いていて、まるで揺りかごの中にいるような。
 うっすらと微笑み、もう一度眠ってしまってしまおうか、と闇の中で目を閉じかけたとき、

(……あれ?)

 早苗はふと、違和感を覚えた。
 今、自分は闇の中にいる。目を閉じても開いても、視界には深い闇が広がるばかり。
 眠っている間に夜になってしまったのだろうか。
 いや、違う。肌に日差しの暖かさを感じる。まだそこまで時間は経っていないはずだ、と感覚が訴えている。
 ならば、何故こんなに暗い?
 それに、闇と共に自分を包み込んでいる、この懐かしい匂いは。

「……神奈子様、諏訪子様?」

 その気配が二柱のものとよく似ている気がして、早苗はおそるおそる呼びかける。
 ぴくり、とすぐそばで動く気配がある。
 それこそ肌が触れ合うほどの間近に、何かがいた。
 妖気を感じる。
 この数日間自分を見つめていた、あの妖気だ。

「早苗?」

 見知らぬ声に耳元で呼びかけられた瞬間、早苗の体がぞわりと粟立った。

(喰われる……!?)

 根源的な恐怖に突き動かされ、早苗は無我夢中で持てる限りの霊力を解き放つ。それは渦巻く風となり、早苗のそばにいた何かを吹き飛ばした。
 瞬間、視界の闇がぱっと晴れた。何かが壁に激突する音、「ぎゃん!」と、小動物のような悲鳴。
 眩しい日の光が目に刺さり、早苗は一瞬顔をしかめた。
 やはり、時間はそれほど経っていなかった。まだ昼の日差しが差し込む部屋の中、早苗の風に巻き込まれた物が畳の上に散乱している。
 壁際にあの少女がいた。金髪の妖怪が苦しそうに顔を歪め、ぐったりと倒れ込んでいる。
 眠っている間に近づかれたのか、と早苗は慄然としたが、ふと違和感を覚える。その割に、何かされたような形跡は全くない。

(どういうこと……?)

 困惑していると、ルーミアが小さく呻いて目を開けた。
 慌てて身構える早苗を、少女はぼんやりと見つめる。それから急に、はっとしたような顔で立ち上がり、

「……ごめんなさい」

 小さく呟き、泣きそうな顔で駆け出す。縁側から空に飛び立ち、少しふらつきながら飛び去っていった。
 一人残された早苗は、ルーミアが飛び去った方向を見つめて動くこともできずにいた。
 あの妖怪は自分を狙っていたのではないのか? なのに眠っている相手に何もせず、一体何をやっていたのだろう。
 状況が理解できずに混乱していたら、ばたばたと走ってくる音がして、

「早苗っ!?」

 と、諏訪子が部屋に飛び込んできて、部屋の惨状に目を丸くした。

「諏訪子様……」
「急に霊力が膨らんだもんだからびっくりしたよ。何があったの、一体」
「あの、妖怪が……そばに来ていて……」

 しどろもどろになって説明すると、諏訪子は「妖怪?」と小さく首を傾げた。

「……妖怪ってもしかして、あの金髪の奴?」
「そ、そうです」

 やはりご存じだったんだ、と思う早苗の前で、諏訪子は怪訝そうに首を傾げる。

「え、じゃあさっきの霊力ってあの弱っちい奴にぶつけたの? 何があったか知らないけど、あんな全力で殺しにかかるほどの相手でもなかったんじゃ」
「え……で、でも、あれは本当の力を隠した危険な妖怪で」
「……は?」

 諏訪子が目を丸くして、まじまじと早苗の顔を見つめる。
 どうしたんだろう、と不安に思う彼女の前で、帽子を被った神様は苦笑いを漏らした。

「ちょっとちょっと早苗、しっかりしてよ。調子悪そうだとは思ってたけど、そんなに参っちゃってたの?」
「え……あ、あの、どういうことでしょうか?」
「それを聞きたいのはこっちだよ」

 諏訪子は肩を竦めて、

「力を隠した危険な妖怪、って。まあ確かに何かしらの封印はかけられてるっぽいけど、それを考慮したとしても大して危険な妖怪じゃないでしょ、あんなの」
「は……」
「駄目だよー、この郷には妖怪なんてゴロゴロいるんだからさ。相手の力量ぐらいしっかり見抜けないと、この先でやってけないでしょ」

 たしなめるような諏訪子の言葉に、早苗は強い衝撃を受ける。
 この先やっていけない、という言葉が、頭の中で幾度も響き渡る。
 先程まで見えていたはずの光明が急速に萎み、未来の全てが闇に飲まれていくような気がした。
 早苗はその奥底まで、悲鳴を上げながら落ちていくのだ。

(……終わった)

 最後のチャンスだったのに、自分はまた失敗してしまった。
 全身から力が抜け、早苗はガクリと肩を落とした。
 ポタポタと、畳の上に涙の粒が落ちる。

「……っ」
「えぇっ!? ちょ、さ、早苗!? どうしたの、なんでいきなり泣いてんの!?」
「す、諏訪子様……!」

 気づくと早苗は、諏訪子の小さな体にすがりついていた。風祝たるものがなんてみっともない、とは思うのだが、あまりにも大きな恐怖と不安のために、そうせずにはいられなかったのだ。

「み、みすてないでください」
「……え?」
「わ、わたし、がんばりますから、いっしょうけんめいがんばりますから」
「……早苗」
「みすてないで、おいていかないで……」

 子供のようにしゃくりあげながら、早苗は何度もお願いしますと口にする。
 抱きついた諏訪子の体からは困惑が伝わってきたが、やがてふと、その困惑が労るような気配に変わる。

「よしよし」

 穏やかな声と共に、諏訪子の小さな手が早苗の頭を優しく撫でる。

「大丈夫だよ。わたしたちはずっとそばにいるからね。何も怖がらなくていいんだよ」

 諏訪子の声は、昔と全く変わらない。
 懐かしい匂いに包まれて、早苗はしばらく声を上げて泣き続けた。



「落ち着いた?」
「は、はい……」

 三十分ほど後、ようやく泣きやんだ早苗は、気恥ずかしい想いで頷いた。
 諏訪子は隣で胡座をかいて、からかうようなにやけ顔で早苗を見ている。

「あはは、目が真っ赤だよ、早苗」
「うう、め、面目ないです……」

 顔が熱くなってきて、早苗はますます肩を縮める。
 諏訪子はそんな早苗を見てしばらく笑っていたが、やがて「さて」と呟き、何とも言えない微苦笑を浮かべてみせた。

「じゃあ、何があったか話してくれる? 正直何がなんだか分かんなくてさ」
「……はい。分かりました」

 そうして、早苗はここ数日のことを包み隠さず説明し始めた。

 博麗の巫女に負けたのがショックだったこと。
 それが原因で二人に見放され、だから会談から外されたのだと思ったこと。
 そんなときにルーミアのことに気がつき、本当の力を隠して自分を狙っていると思ったこと。
 諏訪子の助言を聞いてこちらから攻撃しようと思ったが、疲労のために眠ってしまったこと。
 そして目が覚めたらルーミアがすぐそばにいて、喰われるかもしれないという恐怖から咄嗟に霊力を解放したこと。

 そういった早苗の説明を、諏訪子は黙って聞いていた。
 が、途中からなんとも言えず決まりの悪そうな顔になり、説明が終わる頃には明らかに居心地悪そうに身じろぎしていた。

「……それでさっきこの先やっていけないと言われて、今度こそ見放されたと思って……」
「……うん、分かった。事情はよく理解したよ」

 諏訪子はそう言い、深々とため息を吐く。

「まさか、そんな風に受け取ってたとは……わたしたちが悪いのかなあ、これ。いや、でもなあ」

 そんな風にしばらくブツブツ言っていたが、やがて「うん」と頷き、ちょっと真面目な顔で早苗に向き直った。

「よし、それじゃあまず一つ一つ誤解を解いていこうか」
「は、はい」
「まず博麗の巫女に負けた件だけどね、これについてはわたしたちは全然気にしてないし、むしろあれがきっかけで天狗と話し合う機会が出来たから良かったとすら思ってるよ」
「え……で、でも」
「いや、負けた早苗が悔しいと思うのは当然だけどね。でもそれでわたしたちがあんたのこと駄目な奴だと思うことはないから」
「だけど」
「あのね、早苗」

 食い下がろうとする早苗をなだめるように、諏訪子がぽんと膝に手を置く。

「わたしたちはずっと早苗のそばにいて、あんたが頑張ってるのを見て来たんだよ? なのに一回負けたぐらいのことで見捨てるはずがないでしょ」
「……本当ですか?」
「本当だって。まあなんだ、早苗は昔からお利口さんで、でっかい失敗することもあんまりなかったもんね。巫女としての力を競う相手なんてのも外じゃいなかったし、ショック受けるのも当然か」

 納得したように言ったあと、諏訪子は少し申し訳なさそうに微笑む。

「でも、これはわたしたちも悪いね。たまには負けるのもいい経験だろうなんて軽く考えて、早苗がそんなに落ち込んでるなんて思ってもみなかった。天狗との会談に参加させなかったのも、ちょっと心の整理する時間あげようぐらいにしか考えてなかったんだけど、逆効果だったみたいね。ごめん」
「い、いえそんな、恐れ多いことで……!」

 早苗は慌てて頭を下げながら、また泣きそうになっていた。
 ただ、今度のは嬉し涙だった。見捨てられていなかったどころか見守ってもらっていたと知って、胸が暖かくなってくる。

「それで次に、あのルーミアって妖怪の話なんだけど」
「は、はい」

 そちらも気になる点ではあったので、早苗は居住まいを正す。
 諏訪子はまたちょっと難しそうな顔をして、

「さっき言った通り、あれが本当は強い妖怪だとかいうのは完全な誤解だよ」
「でも、山の妖怪でもないのに天狗の監視を潜り抜けてここまで……」
「あー、それなんだけどね……」

 諏訪子は何か気まずそうな顔で頬を掻き、

「実はそれ、わたしがあの妖怪の通行見逃してくれるようにって頼んだんだよね。天魔通じて」

 一瞬、何を言われたのかよく分からなかったが、

「……えぇっ!? 諏訪子様が!?」
「そう、わたしが」
「ど、どうしてそんな……?」
「いやだから、さっきそれ関連のヒント出したじゃないの」
「ヒント……え、もしかしてさっきの、動物のテレビ番組を思い出せっていう……」
「そうそう、それだよ」

 諏訪子は頷き、首を傾げる。

「感動的でしたよね、とか早苗が言うもんだから、伝わってるもんだとばっかり思ってたんだけど」
「……ええと、ちなみにあの番組のどのコーナーのことを言ってたんですか?」
「ほら、虐待だかなんだかが原因で心を閉ざした少年が、子犬との触れ合いを通じて人間性を取り戻していくっていうドキュメンタリーがあったじゃないの」
「あ、ああ……」

 確かに、あったような気がする。
 当時の早苗としてはそれほど強い印象は受けなかったのだが。

「いやー、あれは良かったね。あそこまで心閉ざした人間相手だと神様でもなかなか癒すのは難しいからさ。それを子犬使って人間がやったっていうのが感動的でさー」
「ちょ、ちょっと待って下さい」

 また混乱してきたので、早苗は一度頭を整理することにした。
 今までの話を総合すると、諏訪子がやろうとしていたことというのは。

「……もしかして、あの妖怪を子犬に見立ててわたしの心を癒そう、とか……?」
「おー、よく分かったね! そうそう、そうなんだよ。こういうの何て言うんだっけ。アニマルファック?」
「アニマルセラピーですか、もしかして」
「さすが早苗、お利口さんだ!」

 諏訪子が上機嫌に指を鳴らす。早苗は乾いた笑いを漏らしそうになった。
 蓋を開けてみれば何という真相だろう。つまり自分はこの三日間、完全に一人で空回っていたというわけだ。

「天狗との交渉も始まって、今後は妖怪との接触も増えていくだろうし、早苗にもやっぱり慣れてもらわなくちゃと思ってさ。落ち込んだ気分も癒されるかもしれないし、一石二鳥みたいな」
「それなら最初から説明して下さっても……」
「わたしやらせって嫌いなんだよね。水曜スペシャルの探検隊だけは別だけど。あそこまで行くとやらせという名の演出っていうか、芸術だよね」
「そうですか」
「腕白でもいい、たくましく育て!」
「知りませんよ」

 早苗が冷たく言うと、さすがに諏訪子もちょっとたじろいで、ぽりぽりと頬を掻いた。

「……ところで早苗は、わたしがあの番組の何を引き合いに出したと思ってたわけ? 他に感動するコーナーなんてあったっけ?」
「ありましたよ。覚えてないんですか?」
「んー……あ、ケツから機関銃みたいにクソばらまく河馬とか? まさに自然の脅威」
「違います! 狼ですよ、狼!」
「狼? ああ、そんなコーナーもあったっけ。でも群れなきゃろくに餌も取れない孤高(笑)の動物の何に感動したの?」
「ああもう……!」

 あまりの噛み合わなさに、早苗は地団駄踏みそうになった。ここ数日自分は何をやっていたんだろうと思うと、あまりの馬鹿らしさに泣きそうになってくる。
 そんな早苗を見て、諏訪子は嬉しそうに笑う。

「ま、何にしてもこれで悩みは解決したね?」
「……はい。ご迷惑おかけしました」

 ため息混じりに頷いたとき、早苗はふと気づく。
 まだ、解決していない疑問が一つあった。

「あの、諏訪子様。諏訪子様は先程、あの妖怪の通行を許可するように天狗に頼んだって言ってましたけど」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、ここに来るように言ったのも諏訪子様なんですか?」
「いや、違うけど」

 諏訪子はあっさりと言い、肩を竦める。

「気晴らしに散歩してるとき、あの妖怪がコソコソ山に上ろうとしてるの見つけてさ。何やってんのって聞いたら『神社に巫女見に行くの』って言ってたから。これだけ弱けりゃ早苗のアニマルファックの相手にはちょうどいいかなと思って」
「アニマルセラピーですからね」

 一応訂正しつつ、早苗は首を傾げる。
 つまり、ルーミアが守矢神社に来ていたこと自体は、他の誰でもなく彼女自身の意志によるものだったということだ。
 一体何が目的なのだろう。やはり自分の肉を狙っていたのか?
 しかしそれにしては、眠っていた自分を食べなかったことといい、不可解な点がいくつもある。
 それに、先程去り際に見せた悲しげな表情と、「ごめんなさい」という言葉。

「……あの妖怪は一体なんなんでしょうか」
「さあ、分かんないね」

 諏訪子は気楽に肩を竦める。

「まあ何でもいいんじゃないの。もし襲いかかってきても早苗なら楽に撃退できるでしょ」
「でも人喰い妖怪らしいし、やっぱり危険なんじゃ」
「人ぐらいわたしだって喰ったことあるよ。泣き叫ぶ生け贄の女の手足を一本ずつもいでこうバリバリと」
「……」
「うんそんな露骨に引かれるとさすがにちょっと傷つくなー、なんて」

 ともかくさ、と諏訪子は続ける。

「気になるんだったら、やっぱり自分で聞いてみるしかないんじゃない?」
「アニマルセラピーですか?」
「何でもいいんだよ、理屈は。ともかく、この先どういう心構えで妖怪やこの郷と向き合っていくのかは、やっぱり早苗が自分で決めることだと思うし」
「わたしに出来るでしょうか」
「大丈夫だよ、早苗なら」

 不安を口にする早苗に、諏訪子はにっこり笑いかける。

「だって、わたしたちの風祝だもんね。そうでしょ?」
「……そうですね。ありがとうございます、諏訪子様」
「ま、このぐらいは当然だよ。あたしゃ神様だからね。さてと」

 どっこいしょ、と呟き、諏訪子は立ち上がる。

「じゃあわたしは神奈子のところに戻るよ。まだ交渉続いてると思うし」
「え、そうだったんですか」
「うん。さっき早苗が霊力解放したとき、会談放り出して飛び出しかけてさ、あの馬鹿。わたしが止めたからいいようなものを、自分から弱点晒すような真似してどうするんだか……」

 ぶつくさと呟き、背伸びしながら部屋の外へ向かう。
 出て行く直前ちらっと振り返り、

「じゃ、後は一人で頑張りなよ、早苗」
「……はい、諏訪子様」

 頼りになる神様の小さな背中に向かって、早苗は深々と頭を下げた。



 それからまた少し経ち、早苗は境内に出てきていた。辺りは夕暮れの光に染まりつつある。
 ここ数日掃除をさぼっていたおかげで、境内のあちこちに枯れ葉や虫の死骸が落ちている。明日からまたきちんと掃除しなければ、と思う。
 早苗は拝殿の正面階段に座り、静かに目を閉じた。
 そうして待っていると、ごく弱い妖気が躊躇いがちに近づいてくるのが感じられた。目を開け、呼びかけてみたくなるのを堪えて、早苗は妖気がすぐそばまで近づいてくるのを待つ。
 そして次に目を開いたとき、金髪の少女は目の前にいた。
 この数日早苗を見つめていたときの喜色に満ちた笑みはすっかり影を潜め、代わりに何か怖がるような、怯えるような表情がある。

「こんばんは」
「……こんばんは」

 礼儀正しく挨拶を返してくる声にも、なんだか元気がない。
 やはり先程のことが心に引っかかっているのだろう。早苗は出来る限り優しい声で呼びかけた。

「ルーミアさん、でいいんですよね」
「えっ」

 ルーミアはびっくりしたように顔を上げ、目を丸くして早苗を見る。

「わたしの名前、知ってるの」
「はい。霧雨……魔理沙さんから聞きました」
「そうなのかー」

 名前を知ってもらっていたというのが嬉しかったのか、ルーミアの顔に少し笑顔が戻ってくる。
 良かった、と安心しながら、早苗は自分の隣をぽんぽんと叩く。

「ここに座ってお話しませんか?」
「いいの?」
「ええ、もちろん」

 早苗が頷くと、ルーミアの顔がぱっと輝く。
 彼女は飛び込むように早苗の隣に座ると、無邪気に笑ってこちらの顔を見上げてきた。
 よく見れば可愛らしい顔をしている。唇の隙間から覗く人間離れした犬歯はやはり恐ろしげだが、間近で見るとそれも彼女のチャームポイントに思えてくる。
 ただ、それでも人喰い妖怪ではあるのだ。
 もしかしたら失礼に当たるのかもしれないと思いつつも、早苗は念のため言っておくことにした。

「一応、わたしを食べないようにってお願いしておきますよ?」
「うん、大丈夫だよ、早苗は食べちゃいけない人類だもん」

 ルーミアはごく当たり前のように頷く。そういう区別があるんだな、というのも初めて知った。どういう基準なのか少し気になるところだ。
 やはり、話してみなければ分からないことも多いのだろうか。

「わたしの名前は魔理沙さんに聞いたんですか?」
「うん。東風谷早苗って、素敵な名前だよね!」
「ありがとうございます」
「あ、そうだ」

 と、ルーミアはふと思い出したように言い、申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「さっきは驚かしちゃってごめんね」
「ああ……そう言えばあのときって、何をしようとしていたんですか?」

 食べちゃいけない人類、なんて言うぐらいだから、早苗を食べようとしていたわけではないのだろう。
 ルーミアはちょっともじもじしながら言う。

「今日は早苗が境内にいないな、と思ってこっそり見に行ったら、眠ってて。でもなんだか寝苦しそうだったから、暗くしてあげたらもっと良く眠れるかなーって」
「ああ、それで……」

 目を覚ました直後、周囲が一切光のない闇に包まれていたことを思い出す。

「あれはあなたの能力だったんですか」
「うん、夜より暗くできるんだよ」
「それはすごいですね」
「でも、わたしも何も見えなくなっちゃうんだけど」
「……間抜けですねえ」

 早苗が苦笑すると、ルーミアも歯を見せて笑う。何とも言えず和む笑顔だった。頭を撫でてやりたくなる。
 しかしこうして話していると、不思議に思うことがあった。

「ねえ、ルーミア」
「なに?」
「わたしの勘違いかもしれないけど、あなたは随分とわたしのことを好いてくれているみたいね」
「うん、大好き!」

 それは全く躊躇のないまっすぐな表現で、早苗は少々照れを感じる。
 だがだからこそ、ルーミアの好意が本物であることもよく分かった。

「どうして、そこまで好きになってくれたの?」
「それはね、早苗がわたしたちのことを選んでくれたから」
「選ぶ?」

 どういうことだろう、と思っていると、不意にルーミアが立ち上がった。

「早苗、もっと近くに行ってもいい?」
「え? ええ、どうぞ……きゃっ」

 ルーミアが膝の上に飛び乗ってきたので、早苗は小さく悲鳴を上げてしまった。
 驚き戸惑う早苗の膝の上で、ルーミアは「えへへ」とはにかんだように笑う。
 それから早苗の両腕を抱き寄せてそこに顔を埋めると、すんすんと匂いをかぎ出し、満足そうに息を吐いた。

「うん、やっぱりいい匂いがする」
「匂い……?」
「そう。わたしたちを見てくれる人の匂い」

 そう言うルーミアの声は、少しだけ寂しそうだ。

「昔は、外の世界にもたくさんいたんだけどね。どんどん少なくなって、わたしたちのこと見えない人ばっかりになっちゃったんだって」
「それは」
「なのに早苗は、外の世界でも神様とか妖怪のとかのことが見えて、しかも自分で選んでここに来てくれたんでしょ?」
「……ええ、そうよ」
「だから好き!」

 ルーミアは幸せそうに言って、また早苗の腕に顔を埋める。
 そのときふと、早苗は懐かしい匂いを嗅いだ気がした。
 先ほど、闇の中で目覚めたときにも感じた気配が、すぐそばにある。
 それは、早苗の愛する二柱の神様のものにもよく似た気配だった。

(ああ、そういうことなんだ)

 早苗はようやく気がつき、小さく微笑んだ。
 自分からもルーミアを抱きしめ、彼女に向かって呼びかける。

「ねえルーミア。あなたの力、もう一度見せてくれない?」
「ん、うん。いいよ」

 ルーミアが頷いた瞬間、彼女の体から闇が広がった。瞬く間に広がり、早苗とルーミアをすっぽり包んでしまう。
 それは、一切の光を通さぬ完全な暗闇だった。
 人間ならば誰でも恐怖を覚えるであろう状況に、しかし早苗は安らぎを感じていた。
 目を閉じ、ルーミアの柔らかな金髪に顔を埋めて大きく息を吸いこむ。
 とても、懐かしい匂いがした。

「……ルーミア。さっきは吹き飛ばしちゃってごめんね」
「ん、いいよ。わたしも勝手に上がっちゃって、悪かったし」
「あ、だから謝ってたのね」
「うん。それにね、これが霊夢だったらもっと酷い目に遭ってたと思うし」
「そうなの? やっぱり乱暴な人なのね」
「でもご飯くれるし、相手してくれるから好きだよ。霊夢のことも」
「そう。好きな人がいっぱいで、ルーミアは幸せね」
「うん。早苗は幸せ?」
「ええ、とっても」

 答えて、早苗は子供のように笑う。完全に閉ざされた暗闇の中、ルーミアの匂いと温もりを感じていた。
 闇がもたらすのは恐怖や不安だけではない。それは心を静めて落ち着かせて、豊かな想像を生み出す余裕をくれることもある。
 ルーミアの匂いを懐かしく思うのは、きっといくつもの幻想がこういう暗闇の中で生まれ、育まれてきたからではないかと思った。
 もしかしたら、早苗の愛する二柱もまた。

(神奈子様、諏訪子様……)

 闇の中に二人の姿が浮かぶ。
 久方ぶりに味わう安堵感に包まれながら、早苗はまた緩やかな眠りに飲まれそうになる。
 このとき完全に寝入ってしまわなかったのは、腕の中のルーミアがなにやらもぞもぞと動き始めたからだった。

(なに……?)

 うとうととまどろみながら、早苗は心の中で首を傾げる。ルーミアは何をしているんだろう、と思ったとき、あの懐かしい匂いがぐっと近づいてきて、不意に、

 ちゅっ

「……!?」

 まさに一瞬の出来事。
 唇に、湿った温もりを感じた。

(ちょ、わたし、初めて……!)

 混乱する早苗だったが、ルーミアの暴挙はそれで終わらなかった。
 肌に感じる息づかいと水っぽい温もりとが、頬から顎へと伝わり落ちてきて、次第に首へと、

「ルーミア!」

 叫んだ瞬間、パッと闇が晴れた。
 早苗の首に吸いついていたルーミアがさっと身を離し、目を丸くして早苗を見上げる。

「わ、びっくりした」
「それはこっちの台詞よ!」

 早苗は混乱しながら怒鳴りつける。もぞもぞと何をやっているかと思ったら、ルーミアは早苗の腕の中で向きを変えていたのだった。
 その上体を伸ばして早苗の唇やら頬やら首やらにちゅっちゅちゅっちゅと。

「……どういうつもりなの?」
「ん、えーとねえ……」

 ルーミアは可愛らしく首を傾げて、

「おいしそうだから、味見しておこうと思って?」
「味見どころかつまみぐいでしょうがー!」

 早苗が叫ぶと、ルーミアは舌を出して「てへっ」と笑う。
 怒るべきか否かと迷っている内に、ルーミアはするりと腕を抜け出した。「あ、ちょっと」と慌てて立ち上がる早苗の前でくるりと回り、また嬉しそうに笑う。

「ごちそうさま、早苗! 今日は楽しかった、また来るよ! じゃあねー!」
「まちなさ……ああ、もう!」

 逃げ足だけは速いのか、境内から飛び立ったルーミアはあっという間に空へと飛んでいく。
 辺りはもう夕日が沈んですっかり暗くなっており、周囲に闇を展開したルーミアを見つけるのは不可能に思える。
 やられたなあ、と早苗はさっき吸いつかれたところを手で押さえる。まだ湿り気と温もりが残っていて、ちょっとドキドキした。

「まったく、ちびっこいくせになんというテクニシャン……わたしも対抗して、いたづらするべきなのかしら」

 首を傾げてぶつぶつ呟きながら、早苗は境内を歩き出す。
 鳥居の向こうに、闇に包まれていく幻想郷が見える。
 外の世界なら眩しいほどの街の灯が見えたものだが、この郷ではちらちらと光っているのが少し見えるだけだ。

(古来から、人間は暗闇を恐れてきた。でも、暗闇の方ではどうだったんだろう)

 早苗はふと、そんなことを考えた。ルーミアの笑顔が脳裏を過ぎる。
 暗闇の方では人間に怖がられてしょんぼりしていたのかもしれない、なんて馬鹿げた想像が頭に浮かんだ。
 それは馬鹿げているけれども、今なら不思議とあり得そうなことにも思えた。
 暗闇は怖いものである。しかしそれは暗闇の奥に潜むものが怖いのであって、暗闇そのものが怖いわけではないのかもしれない、と。
 以前は考えてもみなかったことが、次々頭に浮かんでくる。
 妖怪と宴会している、なんていう魔理沙の言葉も、今なら少しは受け入れられそうな気がした。

(本当、変なところだなあ、この郷って)

 だがそんな郷で、自分はこれから生きていくのだ。
 今日のように、いろんな物との出会いがあるだろう。そのたび驚き、考えを改め、少しずつ変わっていく。
 そんな未来の自分が、暗闇の向こうに見えるような気がした。
 前途が開けていく開放感に、早苗は腕を広げて思い切り体を伸ばす。

「幻想郷では、常識に捕らわれてはいけないのね……!」

 闇に混じる懐かしい匂いを吸い込みながら、早苗は自分が幻想郷の人間へと変わり始めているのを感じるのだった。



 <了>
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今までに見た東方SSで一番おもしろく、そして感動がありました

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