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【東方SS】藤原妹紅、喰われて候

2010/9/30に東方創想話に投稿したSSです。
 


『藤原妹紅、食われて候』



 ああ、そうだよ。
 あいつは私を喰ってたよ。

 ……あいつが妖怪だったのかって?
 さあ、どうだろう。少なくとも私は人間だと思ってたがね。
 あいつは変な力は持ってなかったし、体力も人並みだった。
 怪我だってしたし病気にもなったし、おまけに今度は死んじまったっていうじゃないか。
 どっからどう見ても、立派な人間だろ。

 ……ちょいと、人の肉が喰いたいって欲望を持ってただけさ。

 しかしそうか、ついにお亡くなりか。
 蓬莱人の生き肝を喰ったらそいつも不老不死になる、なんてのはやっぱり嘘だったんだなあ。
 残念かって? さあ、どうだろう。
 ……良かったと思うよ。少なくとも、あいつにとってはね。

 ……ああ、あいつの一番のお気に入りは肝だったよ。
 何回喰われたかって? さあね、記録なんかしてないし、そもそも数えてすらいないし……
 よく分からんね、正直なところ。

 ……陰? 
 いや、ここのところは喰われたことないね。
 乳房もだ。顔も手足も喰われたことないっけなあ、確か。
 うん、あいつが興味あったのはわたしの腹の中身だけだよ。
 大体喰われたことあるんじゃないかねえ。胃も腸も、名前知らない臓器も……

 そもそもあいつ、見たがらなかったしね。乳房やら陰やら。
 あいつがわたしで満たそうとしたのは食欲だけさ。女として相手したことは一度もないよ。
 むしろその辺は遠慮してたな。紳士的だったよ、あいつ。

 ……そっちの方がよっぽど変態的だって?
 うん、あるいはそうかもしれないね。

 あいつとの出会いか。
 さて、いつ頃だったか……こんな体じゃ時間の感覚が曖昧でね。
 でも少なくとも、あいつがまだ若い時分だったのは確かだよ。
 ちょうど、そう、向こうの方から……えらく暗い顔で、トボトボ歩いてきてね。
 そりゃ、びっくりしたよ。
 迷いの竹林のこんな奥まで普通の人間が入ってきたの、初めてだったもの。
 案外、どこぞの兎が悪戯したのかもしれないね。
 わたしと会ったのが幸運だったのかどうかは分からないけど。

 ……何しに、か。
 さあ。聞いたことなかったからなあ。
 でも多分、死にに来たんじゃないかと思うよ。
 自殺だよ、自殺。
 家族に迷惑かけたくないから、ってさ。

 わたしと出会った頃には、もう既に限界に来てたのさ。
 そう、食人衝動だ。
 どうしても喰いたくてたまらなかったんだってさ、人を。
 ……いやだから、人間だったって。あいつは。
 たまたまそういう……性癖?
 そう、そういう性癖を持ってただけだったんだろうよ。
 あんたにだって何かあるだろ、人に言えない性癖ぐらい。

 ……そうか。
 そういうのは、一人で。
 せめて、家の中だけにしとけよ。

 で、ええと。何の話だっけ。
 ……ああ、あいつの食人衝動ね。
 そう。子供の頃から、たまにそういう欲を感じることはあったらしいよ。
 我慢してたんだよ。我慢して我慢して……ある日とうとう、抑えきれなくなった。
 もちろん、そんなこと誰にも相談できるわけがない。
 そんなことがばれたら最後、どうなるか。
 自分だけじゃない、家族にまで害が及ぶかもしれないんだ。
 話せないよな、そりゃ。

 それでもう里にはいられないって思って、ここに迷い込んだんだろう。
 妖怪にでも喰われればいい、とかって、自棄になってたのかもね。

 わたしと会って、あいつはびっくりしてた。
 でもわたしだってびっくりしてたさ。
 普通の人間と会ったのなんて、いつ以来だったか。

 ああ、あいつは逃げようとしたよ。悲鳴上げてね。
 ……さあ、どうだったんだろうねえ。
 こんなところにいる女が怖かったのか。
 それとも、その女を喰ってしまうかもしれない自分が怖かったのか。
 聞いたことはないさ。興味がなかったからね。

 わたしは追いかけたよ。すぐに捕まえた。
 何故って?
 ……まあ、なんとなくだよ。
 いや、ひょっとしたら寂しかったのかもね。
 久しぶりに普通の人間と会ったから、話がしてみたかった。
 それだけの話かもしれない。ただ単に。

 で、とりあえずこのボロ屋の中に引っ張り込んで、落ち着かせてね。
 あいつはなかなか口を割らなかったよ。
 でも優しく話しかけてやったら、その内ぽろぽろ涙を零しながら話してくれたさ。
 辛かったこと、苦しかったこと、何もかも、すべて。

 ああ、信じたよ。
 私みたいなのに比べれば、ずいぶん常識的な話だったもの。

 話し終わったあいつは、わたしに礼を言って出ていこうとしたんだ。
 話を聞いてくれてありがとうございました、これで心おきなく、なんて言ってね。
 わたしは引き留めたよ。
 嫌がって暴れるあいつを思い切り抱きしめてね。
 怒鳴ろうが喚こうが、離しはしなかった。
 絶対離してたまるもんかって思ってたよ。

 それでその内、あいつの声が獣の唸りみたいな感じに変わっていった。
 目が異様に輝いて、口の端から涎が垂れて。
 表情といい目の色といい、半ば正気を失ってたね。
 でもまだ、理性の一欠片ぐらいは残ってたらしい。
 あいつはなかなか事に及ぼうとしなかった。
 ギリギリのところで踏みとどまっていたんだね。

 だからわたしは言ってやったのさ。
 いいよ、って。

 それから先はまあ、あんまり聞きたい話でもないだろう?
 喰われたよ。物凄い勢いでね。
 そりゃそうさ、何年分も溜に溜めてきた欲望だもの。
 さすがに人間の歯だから、骨までは喰えてなかったがね。

 で、どんぐらい経ったかなあ。
 そうそう、そこの窓からぼんやり朝日が差してきた頃だったかな。
 指についた肉片を舐め取ってたあいつの目に、ちょっとずつ理性が戻ってきてね。
 次の瞬間ハッとして、わたしを見た。

 そのときわたし、腹の中ほとんど空っぽだったけどさ。
 命はともかく気を失いそうで辛かったんだけど、ギリギリで踏ん張ってた。
 だって、その後何が起きるか、ある程度は予想できてたからね。

 案の定、あいつはひどく狼狽したよ。
 ああ、わたしはなんてことを。ついにやってしまった、なんてね。
 それで血塗れのまま、ボロボロ涙を零し始めてね。
 しばらくしたら涙を拭って、無表情でこっちに背を向けた。
 ああこりゃやばい、と思ったね。
 あれは死にに行く表情だ、ってすぐ分かったから。

 だからわたしは、相当辛かったんだけど、なんとか声を出したのさ。
 待て、ってね。
 よく声なんか出たなって、今でも思うよ。
 奇跡だったね、それこそ。

 声が出たのも奇跡なら、あいつに届いて振り返ってくれたのも奇跡だった。
 そりゃもう、驚いてたよ。空飛ぶんじゃないかってぐらいの勢いで戻ってきてね。

 生きていらっしゃるのですか。すぐに医者を。

 なんて言うもんだから、

 いや、いい。このままでいい。
 いいからそばにいろ。

 そう言ってやったよ。
 ああ。わたしは医者いらずだからね。放っときゃ直るんだ。
 ……医者なんて言うから嫌なこと思い出しちまったよ。
 お姫様よりゃマシだけどさ。

 で、戸惑うあいつの横でじっとしてたら、その内傷が再生してね。
 ああ、すっかり元通りさ。
 あいつに喰われた腹の中身も、全部ね。

 あいつはそりゃあびっくりしてたさ。
 わたし? ……ほっとしてた。

 ああ良かった、逃げずにいてくれた、ってね。

 今度はわたしが打ち明け話する番だった。
 あいつは身じろぎ一つしなかったよ。
 聞き終わったら、床に頭こすりつけて言ったよ。

 申し訳ございませんでした、ってさ。

 だからわたしは言ってやった。
 そしたらあいつはすぐに言い直したよ。

 ありがとうございました、ってさ。

 ああ。凄くいい気分だった。
 普通の人に面と向かってお礼を言われるなんて、いつ以来だったか。
 背中を向けてさよなら、だったら、嫌ってほど経験あったけど。

 それからわたしたちは、一つ約束ごとをしたのさ。
 もしまた今度人が喰いたくてたまらなくなったら、ここに来てわたしを喰うように、って。

 あいつはもちろん渋ってたよ。そんなご迷惑をかけるわけにはいきませんって。
 だからわたしは言ってやった。
 それならそれでもいいが、他に腹の中身を喰わせてくれる奴なんかいるのか、って。
 わたしを喰えばこうして正気でいられるんだから、そうしておけって言ってやった。

 あいつはしばらく迷ってたけど、また頭を下げて言ったもんさ。
 ありがとうございます、って。

 ああ、実にいい気分だった。
 最高だったよ、正直。
 天にも昇る気持ちってやつさ。

 ……本当に昇れたらもっと幸せだったのになあ。

 それから先の話?
 まあ、聞かなくても大体分かると思うけど。

 うん。続けたよ。
 あいつが喰って、わたしが喰われて。

 あいつの食人衝動は一生治まらなかったさ。
 ついこないだだって、ヨボヨボになってもわたしを喰いに来てたんだもの。
 最後の方はもうほとんど歯がなかったから、わたしが自分の肉千切ってやってたけど。
 まあ爺ちゃんが突然孫を甘噛み、とかよりはマシだったんじゃないかね。

 ……そうだね、いたらしいね、家族。
 普通に結婚して、普通に子供作って、普通に年くって。
 そんな普通の人生だったって、最後に言ってたよ。
 わたしにお礼言いながらね。
 あなたのおかげで最後まで人間でいられました、ありがとうございます、だってさ。

 ……よしてくれ、あいつは人間だよ。普通の人間だ。
 だって、あいつは最後まで食人なんかやらんかったもんな。

 喰ったのは化け物だけさ。

 人を喰うよりは人道に外れちゃいまい。
 閻魔様だって、きっと許してくださるさ。

 ああ。これでわたしの話はおしまいだ。
 他に話すようなことなんか、何もないよ。
 喰って、喰われて。それを繰り返してただけさ。

 つまらなかったかい?
 まあ、やってることが異様な割には、至極平穏な話だからね。
 あいつは上手く隠してたみたいで、誰かにバレることはなかった。
 不思議と、ここに来るとき妖怪に襲われるようなこともなかったみたいだしね。
 ……仲間と勘違いされてた、か。
 なるほど、それはあるかもしれないね。
 あいつは人間だったんだから、誤解もいいところだけど。

 話せることはこれだけだよ。
 それとも他に何かある?

 ……なぜそこまで親切にしてやったのか、って?

 ……。

 ……自分のためだよ。
 ……誰かの役に立ちたかった。
 ……誰かに、喜んでほしかったんだ。

 だって、そうだろ。

 誰にも迷惑かけずにあいつの欲望を満たしてやれるのは、わたしだけだったんだ。
 わたしがあいつに喰われてやれば、あいつは人間として人間の中にいられる。
 あいつを人間にしてやれるのは、世界中にたった一人、わたしだけだ。
 そう思ってたんだ。

 ……いいじゃないか、しみったれた話は!

 あいつは幸せに生きて幸せに死んだ。
 人間の中で人間として生きて、何人かの人間に愛されて、何人かの人間を幸せにした。

 それだけの話さ。
 いいじゃないか、それで。

 ……。

 ……ありがとう。

 ……違うよ! 泣いてなんかないよ!
 これはあれだよ、ほらあの……

 ……蓬莱汁だよ。

 なんだそりゃって?
 ……そんなことわたしが知るわけないだろ、ばか。

 ……あ、そう。帰るかい。
 それがいい。もう話すことなんかないし。
 今の話も、話さない方がいいよ。
 ほら吹きどころか、死人を悪く言う人でなし呼ばわりされるのが関の山だからね。

 ……ああ。
 あんたがどこでこのこと知ってここに来たのかも、聞かないでおく。
 少なくとも、あんたにはわたしの助けなんか必要なさそうだからね。

 ……だから泣いてなんかないよ、ばか。

 ……。

 ……うん、それじゃあね。
 もう会うこともないだろうけど。

 さよなら。

 ……。

 ……。

 ……。

 ……ああ。また一人ぼっちか。

 ……あいつ、最後に会ったときなんて言ってたっけ。
 ……ああ、そうだ。

 生まれ変わったらまた会いに来ます。

 ……そんなこと言ってたっけ。

 馬鹿野郎が。二度と会いたくないよ。
 今度は変な性癖持たずに生まれてこいよ。
 そしたら今度は、こんな変なのと関わり合いにならずに済むんだから。

 ……。

 ……ああ。
 ……また、誰にも喜んでもらえない生活に逆戻りか。

 ……ああ。



 さびしいなあ。



 <了>
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