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【東方SS】へ

2009/5/10に東方創想話に投稿したきったねえSSです。
 


『へ』



 ぶふぉっ

 やってしまった、と妖夢は思う。
 しんと静まり返った境内、用を足しに行こうと立ち上がりかけた、中腰の姿勢のまま固まっている自分。
 集まった視線は大半が同情である。変なタイミングでやけに音が響いてしまったため、誰もが驚いて無視することも笑うことも出来なくなってしまったらしい。
 実際、いつもなら適当に流すか、思い切りからかうかしてくれるであろう面々も、今は目を丸くして絶句している。それだけ音が大きすぎたということだ。タイミングが良すぎたということだ。宴会のざわめきが不意に途切れる、そのわずかな瞬間に差し挟まれた異音。ほとんど芸術的と言ってもいい。狙ってやるにはあまりにも困難すぎる、奇跡的な偶然の産物。注目を集めるには十分すぎる条件だ。

(不覚……! 何故わたしは……!)

 一人苦悩する。
 原因はいくつか考えられた。最近腹の調子がちょっと悪かったこと、そんな中でも幽々子の従者として宴会に参加しなければならないストレス、そして秋が来たためにやたらと張り切った豊穣の神様が皆に振舞ったイモ料理の数々。大変美味だったためについつい食べ過ぎてしまった。そして溜めすぎてしまった。

(せめて実や汁が出ていないだけまだマシと考えるか……! 否、問題はそんなことではない!)

 顔を歪め、唇を噛む。
 羞恥心と酔いのせいで、思考が覚束ない。
 冷静だったとしてもこの状況で何ができるだろう? せいぜい何事もなかったように立ち去って微妙な空気だけを残していくか、「この上は腹を切ってお詫びを!」とか痛々しい冗談を披露してますます同情を集めるかのどちらかしかない。
 助けられる者は誰もいない。幽々子も珍しくおろおろしているし、紫ですら唇を噛んで何か考えあぐねているようだ。
 そんな微妙すぎる空気の中、立ち尽くす自分。この居たたまれなさを見るがいい。というか正直、もう今すぐ死にたい。

(やはり腹を切るしか……)

 覚悟を決めて刀に手をかける。
 だがその瞬間、助けは意外なところからやってきた。

 ぷふぅー。

 先ほどの妖夢のものに比べれば、あまりにも可愛らしすぎる音。
 誰もが驚き注目したその先には、正座して目を閉じ、真面目くさった顔をした氷精が一人。
 沈黙の中、静かに目を開きながら何を言うかと思えば、

「あたいの勝ち」

 何を持って勝ちとしたのかは不明である。
 だが彼女の行動は、その場に爆発的な笑いをもたらした。誰もが腹を抱えて転げ回り、目に涙を溜めて引きつった笑い声を響かせ続ける。先ほどの沈黙が嘘のようだ。所詮は酔っ払いということか。

(……助かった?)

 ふらふらと座り込んでしまった妖夢の肩を、誰かが抱く。振り向くとそこに、優しい微笑みを浮かべた幽々子がいた。

「幽々子様……」
「良かったわね、妖夢」
「ええと」
「……それはそれとして、我慢はよくないと思うわ」

 その言葉で、自分がそもそも何故立ち上がりかけていたのかを思い出す。妖夢は周囲が笑い転げているのをこれ幸いと、こそこそ場を抜け出した。



 ぷふぅぅぅぅぅぅっ

 用を足して境内に戻ってきた瞬間、耳に聞こえたのはそんな音。
 何があったと見てみれば、イモを片手に立ち上がって顔を突き合わせたチルノと橙が、恥も外聞もなく怒鳴り合っているではないか。

「あたいの勝ちだね!」
「いーえ、わたしの勝ちですー!」

 その横では大妖精と藍が石畳を叩いて大激論を交わしていた。

「チルノちゃんの音の方が可愛かったですよ!」
「いや、橙の音の方が上品だった! 見ろ、かほりも実に素晴らしいじゃないか!」

 唾まで飛ばして何を深刻に言い合っているのか、今の妖夢にはさっぱり理解できない。
 何より理解できないのは、周囲でも気難しげな顔をした酔っ払いたちが、今のはどっちが勝ちだの負けだのと真面目に議論を交わし合っていることだった。
 普段は真面目な閻魔様までも「いやいや甲乙つけ難し……ヒック」などと真剣な表情で呟いている。
 説明を求めてこそこそと幽々子のところへ戻ると、困った微笑を浮かべながら教えてくれた。
 なんでも、あのあと大爆笑が余韻を残しつつも収まり、「よくやったチルノ!」「空気読んだチルノに乾杯!」だのという流れになったそうな。
 チルノは最初ぽかんとしていて何が何やら分からない風だったが、みんなが口々に自分を褒めるものだから次第にいい気になってきたらしい。

「まあね、あれだから。あたいったらサイキョーだから、あんなオサムライなんか目じゃないもんね」

 と、得意満面に胸を張り始めたそうな。要するに結局なんで褒められているのかよく分かっていないわけで、そのズレッぷりがますます周囲の笑いと悪ノリを誘う。その内魔理沙辺りが「いやー、負けたぜ、この分野じゃチルノがチャンピオンだな!」だのと言い始め、ますます調子に乗ったチルノが「まーね、あたいったらサイキョーだから!」と胸を張ったところでまたも大爆笑が湧き起こった。
 そこまでならまだ良かったのだが、見ていた藍が赤いしたり顔で、

「いや、実際大したものだ。少しでもタイミングがずれていたら、もっと居たたまれない空気になっていたはずだ。チルノには空気を読む才能があるのかもしれん」

 うんうんと頷きながら言い始めたのだからさあ大変。

「へん、なんですかあんなの。わたしの方がもっと凄いですもんね」

 と、嫉妬心を煽られた橙が藍の隣でくだを巻き始めた。
 ちなみに二人とも、現時点でかなり深酒をしている上に、橙にはマタタビまで振舞われていたそうな。たまたま宴会の規模がかなり大きかった故に、参加者一同……特に豊穣の神様がかなり張り切ったものらしい。
 ともかく、その橙の発言によっていい気分に水を差されたチルノ、不機嫌そうな表情で猫の前に歩み出て、

「ちょっとなによ橙、あたいのに何か文句でもあるってーの?」
「あんなん大したもんじゃないってのよ。ああこれだから学のない妖精は嫌だ」
「なんだとこいつーっ!」
「やるかこらーっ!」

 取っ組み合いになりかけた二人の間に「待ちなさい!」と割って入ったのは、誰を隠そう幻想郷の閻魔様たる四季映姫・ヤマザナドゥその人である。
 顔を真っ赤にした閻魔様、ヒックヒックと酔っ払い特有のしゃっくりを絶えることなく繰り返しながら、

「この喧嘩、この四季映姫・ヤマザナドゥが預かりました」
「えー、なによ、なんなのよそれーっ!」
「邪魔すんな閻魔ーっ!」
「お黙りなさい。いいれすか、そもそもの発端を考えてみなはい。腕力で白黒つけようとするのは論理的におかひいのれす。因果は正しく整然と並べられなければなりまへん。因果応報れす」
「つまり?」

 首を傾げる二人の前、赤い顔の閻魔はこっくりこっくりと首を傾けながら、手に持った棒でびしりとある人物を指さした。

「秋穣子。おイモの準備をお願いします」

 閻魔様を責めてはいけない。彼女もまた酔っ払いなのだ。
 なんでも、出席したはいいものの普段通り真面目な鉄面皮を崩さない彼女を、周囲は敬遠していたらしい。そこで空気を読んだ龍宮の使い永江衣玖、お猪口を片手にすすすっと近寄り、

「お初にお目にかかります、閻魔様。私永江衣玖と申します」
「こんばんは。あら、あなたは龍宮の使いね。なかなか真面目な仕事振りだと聞いています。実に結構」
「ありがとうございます。まあ、お近づきの印に、どうぞ一杯」

 そんな具合に空気を読んで、次々次々酒を注ぎ、どんどんどんどん閻魔様に飲ませていったそうな。
 結果。

「こまちぃーっ! こまちわいないんれすかーっ!」
「小野塚さんなら今回は欠席なさっているとのことですが。大事な用があるとかで」
「へーんだ、なにが大事な用れすか! わらひはちゃんと知ってるんれすよぅ、こまちわねー、宴会でも説教されるのは嫌だ―って、適当な用事作って逃げたんれすよぅ。なんれすか、わらひだってこんなところで説教始めるほどお堅くはありませんですものね!」
「そうですね、空気を読むのは大事なことですね」
「そもそもれすね、わらひはこまちのためを思って言ってあげてるのれすのにね、あの子ときたら」

 愚痴愚痴愚痴愚痴。よほど溜まっていたものらしく、閻魔様は自分で次々と酒を注ぎながら、衣玖に対してひたすら愚痴を吐き出し続ける。衣玖もそのときそのときで非常にいい相槌を入れて、しかも嫌な顔一つしないものだから、閻魔様もますます愚痴っぽくなっていく。その乱れっぷりは「千年に一度見られるかどうかのレベルだわ……! 彼女、やるわね」と、紫をして衣玖の空気読みっぷりを絶賛するほどのものだったとかなんとか。
 ともかく、普段ならばこんな下品すぎる馬鹿騒ぎを諌めるべき立場であるはずの閻魔様からして、そんな調子なのである。普段から酔っ払って奇行三昧を繰り広げる幻想郷ののんべえ少女どもが、この機を逃すはずがなかった。悪ノリにノリに乗って、「やれやれいいからやっちまえ」と、手を叩いて二人を煽りたてた。
 かくして始まるチルノと橙の一騎討ち。穣子と静葉の秋姉妹が傍らにつき、可憐な少女たちに次々とタイミングよく、わんこそばのごとくイモを手渡し続ける。二人は睨みあったままテンポよくそれを平らげ、まるで示し合わせたように、

 ぶふぉっ
 ぷふ、ぷふぅっ

 と、夜の境内に音を響かせるのであった。
 始めは爆笑と共にその勝負を見物していた酔っ払いどもだが、騒ぎの中心たるチルノと橙の保護者二人が

「チルノちゃんの音の方が独創的でしたよ!」
「橙の音の方が芸術的だった!」

 と熱い激論を交わし始めたために、それに引きずり込まれるようにして真面目な顔で議論し始めたのだという。
 げに恐ろしきは酔っ払いのテンションである。

「止めなくていいんでしょうか」
「止められるならやってみなさいな」

 いくらか冷静さを保っている妖夢と幽々子も、場を収めることは早々に諦めた。
 そんなわけで騒ぎはますます混迷を深め、裁定を下し白黒つけるべき閻魔様も「うーむ、甲乙つけ難し……」とむにゃむにゃ呟くばかりなものだから、勝負はいつまで経っても終わらない。
 その内、チルノと橙のイモを食べるペースにも蔭りが見え始めた。

「うぷっ……な、なかなかやるわね、あんた……!」
「うぷっ……あ、あんたこそ、ね……!」

 しかし、互いを睨みつける二人の瞳からは未だ光が失われることはない。こうなればイモで腹が破裂するまで終わらないだろう。
 そんな二人の間に、

「ちょいと待ちねえ、お嬢さん方」

 と、割って入る影が一つ。
 酔っ払い特有の赤い顔にやたらと渋い笑みを浮かべた、ミスティア・ローレライであった。
 突然の闖入者に、チルノと橙はもちろん周囲の酔っ払いたちからも罵声が上がる。

「なんだよミスティアー」
「今いいとこだったのにー」
「ちんちんは引っ込んでろよー」

 突き出される拳、湧き起こるブーイング。しかしミスティアは涼しい顔でそれらを受け止め、

「まあ待ちねえ皆の衆。わたしは何も、この名勝負に水を差そうってわけじゃあねえんだ」
「じゃあなんなのさ」
「だが閻魔様の仰る通り、甲乙つけ難いのも事実だ……ならそろそろいがみ合うのをやめて、この能力で持って新たな芸術を生み出してみようとは思わんか、えぇ?」
「新たな芸術ってなにさ」
「あれだよ」

 と、ミスティアが手で指し示す先には、それぞれ手にイモを持った、赤い顔のプリズムリバー三姉妹が。
 三人はミスティアの頷きに合わせてそれぞれにイモを頬張ると、ライブの時のような幸せそうな表情で、

 ぷっ
 ぷっ
 ぷっ
 ぷっ
 ぷっ
 ぷっ
 ぷーっ
 ぷっ、ぷーっ

「こ、これは……!」

 聞いた魔理沙がごくりと唾を飲み干し、

「芥川龍之介の河童……!」

 おぉぉぉぉぉ、と酔っ払いどもから感嘆のどよめきが上がる。
 それを満足げに見渡したミスティア、茫然としているチルノと橙に向かって深い微笑みを浮かべ、

「さあ、二人とも、片手にイモを持ち、空いたいたもう片手で相手の手をつかむんだ。ロックはラブ・アンド・ピースだぜ、ひっく」

 ミスティアの言葉に応じて、二人は躊躇いがちに相手に向かって手を伸ばす。
 そしてその手と手が触れ合った瞬間、

 ぷーっ

 音が、重なり合った。

「ブラヴォーッ!」

 突然赤い顔のアリスが立ち上がり、滂沱の涙を流しながら開催を叫んだ。

「友情だわ素晴らしいわ感動したわ、今度これで人形劇作るわ―っ!」
「おいおい、それじゃあ人形に一つ機能を追加しなけりゃならないぜアリス」

 肩を竦めた魔理沙の言葉に、またも境内がどっと湧く。

「さあみんな!」
「立ちあがって一緒に音を奏でましょう!」
「世界は弾幕と音楽で繋がれる、イェア!」

 三姉妹の言葉に従って、その場にいたほとんどの酔っ払いが一斉に立ち上がった。
 その光景を見て、秋穣子が大きく体を震わせる。

「うおぉ、感じる、感じるぞ、この場に満ちる豊穣の力を……! 今ならやれる! うりゃぁっ!」

 ぶおっ

 一際大きな音ともに、空から大量のイモが降り注いだ。もちろんいい焼き加減のサツマイモである。秋姉妹の神徳スゲー、と妖夢は投げやりに称賛した。
 それから先は大合唱である。誰もが肩を組みイモを食い、あるいは食わせて音を奏で続ける。神も天狗も吸血鬼も魔法使いも人間も関係ない、奏でられる音の前ではあらゆる境界が意味をなさないのだ。ビバ・ラブ・アンド・ピース・アンド・イモ。

「ああ見て幽々子、楽園よ、夢にまで見た楽園が今わたしの目の前に……!」
「そう、よかったね」

 縋りついて赤い顔で泣き喚く紫に、幽々子は投げやりな同意を与えた。
 重なり合い、響き合う無数の音。こうした芸術の下では、新たな芸術が芽吹かずにはいられないものである。

「やるよ、輝夜!」
「任せて、妹紅!」

 ぶふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 ほとんど爆音と化した勇猛な音とともに幻想の夜空を彩るのは、蓬莱人が生み出すファイヤー・アート。本人の腹筋と括約筋の具合によって色も形も自由自在である。誰もが感嘆の声を上げる中、勢いについていけずに素面だった月の頭脳が一人涙を拭っていたそうな。

「その音、人間や妖怪だけのものだと思ったら大間違いだよ!」

 勇ましい宣言とともに、大量の蛙を従えた洩矢諏訪子が細い手を指揮棒のように振り上げる。
 そのとき、人々は奇跡を目撃する。

 ぷふぉーっ

「おおおおおっ!」
「蛙、蛙から……っ!」
「奇跡や、諏訪子様の奇跡やーっ!」
「ふはははは、苦しゅうない、信仰せい信仰せい」

 いい気になって胸を張る諏訪子に、慌てて歩み寄る影が一つ。

「ちょ、やめなって諏訪子、いくらなんでも下品すぎっ……!」

 守矢神社に祀られるもう一柱の神、八坂神奈子さんであった。普段は豪胆な彼女だが、今は酔いとは別の理由で顔を真っ赤にしている。どうやら彼女もこの雰囲気に乗り遅れたらしい。
 そんな神奈子を見る人々の視線は冷ややかであった。

「あーあ」
「白けるよなー」
「空気読めよ」
「いや、空気とかそういう問題じゃ……」
「神奈子様……」

 焦って反論しようとする神奈子に、静々と歩み寄る影。
 守矢神社の風祝、常識に囚われない早苗さんである。天の助けを得たとばかりに、神奈子が早苗に向きなおる。

「ああ早苗、あんたからも何か一言言ってやって」
「これをどうぞ」

 にっこり笑って早苗が差し出すのは、湯気を上げる一つの焼き芋。
 愕然とする神奈子に向かって、愛しき風祝が満面の笑みと共に放った言葉は、

「私、是非とも神奈子様の音を拝聴したいです!」

 我敵中ニ孤立セリ。そんな言葉を、妖夢は神奈子の顔に見た。

「ああ早苗、あんた、酔っ払ってもあんまり顔色が変わらないタイプだったんだ……!」
「なんのことですかー? はい、おイモをどうぞ」

 早苗は押しつけるようにイモを差し出す。周囲の酔っ払いどもも「イーモ、イーモ!」と手を叩きながら囃し立てた。
 そんな歓声の中、今度は真っ青な顔で立ち尽くして神奈子、突然目に涙を溜めて唇を噛むと、耐え切れなくなったようにその場でふるふると首を振り始めた。
 守矢のもう一柱たる洩矢諏訪子はそんな神奈子に歩み寄り、

「おいおい神奈子よぅ、何恥ずかしがってんだよー。あんた風雨を司る神なんだ、それはもう素晴らしい音を奏でられるはずだよ」
「い、いやよ! あんなの、貞淑な日本女性のやることじゃないわ……!」
「なーにが貞淑な日本女性だよ、オメーだって布団の中じゃ乱れまくりだったくせによぅ」
「酷い! そんな下品な音、夫神にだって聞かれたことないのにっ!」

 わっと顔を覆って泣き出す神奈子に、ひたすら絡む赤い顔の諏訪子。そんな二人を、周囲の酔っ払いどもはいつまでも温かく見守り続けるのであった。

「……収集がつきませんね、もう」
「そうねえ」

 ため息をつく妖夢の隣、泣きすぎて眠りこけた紫に膝枕していた幽々子が、苦笑交じりに溜息をついた。

「でも、こういうのも悪くはないんじゃないかしら」
「ええー……」
「こんな面々が、こんな馬鹿騒ぎをしていられるなんてね……ここが平和な証拠だわ」

 幽々子は穏やかな声で呟きながら、すうすうと寝息を立てている紫の髪をそっと撫でている。
 それを見ていると、まあ確かに悪くはないのかもな、と妖夢も少し思い始める。
 そもそも事の発端は自分のミスだし、何よりも飲みの席だ。こんな馬鹿騒ぎの思い出は、朝日とともに綺麗さっぱりなくなってしまうことだろう。
 そう思えば、ほぼ素面でこの場に居合わせるという苦行にもなんとか耐えられそうな気がするのだった。

「うーっし、それじゃー、そろそろ真打の登場といこうかい」

 宴もたけなわとなりつつあった境内の中央で、小さな影が不敵に立ち上がる。それを見た酔っ払いどもの口から、驚きの声が漏れ出した。

「萃香だ……! 鬼の伊吹萃香だ!」
「酔っ払いの権化とも言われるあの萃香が!」
「奴め、一体どんな音を奏でるつもりなのか……! 目が離せないぜ!」

 固唾を飲んで見守る酔っ払いどもの前で、勿体付けるようにイモを頬張った萃香、居並ぶ面々をじっくりと見回して、

「まあ、なかなか楽しませてもらったよ。滅多にないほど盛り上がる、実にいい宴会だったと思う。だがね」

 にやり、と小さな唇がつり上がった。

「お前らの音には、足りないものがあるよ」
「ほう。そりゃなんだ?」
「力、さ。この素晴らしき音色をあまねく世界に行き渡らせる、圧倒的なパワーが足りないね」
「お前なら届けられると?」
「もちろん。まあ見とけ、お前らに鬼の音を聞かせてやんよ」

 そうして瞬く間にイモを五つほど平らげると、萃香は勢いよく手を上げて、天に向かって指を突き立てた。

「さあこのよき日の幕引きだ、お前ら、耳の穴かっぽじってよーっく聞きやがれっ! この伊吹萃香が奏でる、世界で一番力強い鬼の音をね!」

 萃香は力をため込むように「ぐぐぐっ」と数秒ほども唸ったあと、月も砕けよとばかりに咆哮を上げた。

「ミッシングパワー!」



 ――以上、『大気汚染異変』の顛末である。

 <了>
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