スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【東方SS】滝壺へ飛び込む様は犬のよう

サバトラさんの誕生日にお送りした文SSです。
サバトラさんの作品である『東方シリーズで俳句集2』中の一句を題材としております。
 


『滝壺へ飛び込む様は犬のよう』
作・aho


「わっほおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!」

 あらんかぎりの声で絶叫しながら、犬走椛が一直線に落下していく。
 飛び立った滝の上から滝壺までは、まさしく目も眩むような高さ。これが人間だったなら、下手をすると死ぬ可能性もある危険な行為である。
 しかし、そこはさすがに白狼天狗という名の妖怪だ。盛大な水柱を上げながら突っ込んだ椛はすぐに水面から顔を出し、ぶんぶん飛沫を飛ばしながら、この上なく愉快そうに笑う。

「うはーっ、気持ちいぃーっ!」
「やっぱ夏はこれに限るねー!」

 椛の叫びに、近くでプカプカ浮いている他の白狼天狗や河童たちも口々に同意する。
 降り注ぐ日差しの下、濡れた髪と清らかな川面が眩しく光り輝く。そんな、まさに夏真っ盛りな光景を、射命丸文は滝の上から冷ややかに見下ろしていた。

(獣みたいにはしゃいじゃって……犬そのものね、全く。恥ずかしくないのかしら)

 きゃあきゃあと華やかな声を上げて水を掛け合っている椛たちに、フン、と鼻を鳴らす。
 いくら休暇中だからと言って、公衆の面前でああもはしゃぎ回るとは。

(ま、白狼天狗なんて所詮こんなものか)

 皮肉っぽく笑って小さく肩を竦めたとき、ふと、

「あれーっ、文じゃーん! そんなとこで何やってんのよー!」

 聞き覚えのある声が眼下から飛んできて、文はずっこけそうになる。
 よくよく見てみると、水面に浮かんではしゃいでいる妖怪たちの中に、見知った顔が混じっていた。

「あんたも来なさいよ! 冷たくてチョー気持ちいいよーっ!」

 能天気にブンブンと手を振るその姿に、口元が引きつる。
 緩やかに波打つ髪を二つに束ねたその少女の名前は、姫海棠はたて。
 先ほど文が冷ややかに見下ろしていた、犬走椛と同じ白狼天狗……ではなく、文と同じ鴉天狗である。
 遥か頭上の文の表情が見えているのかいないのか、はたては両手を口に添えてまた叫ぶ。

「ちょっとーっ、聞こえてんでしょー!? なに無視してんのよーっ!」

 文は黙り込んだまま歯軋りした。
 一瞬、誘いに乗って飛び込んでしまおうか、という誘惑に心が動かされかけたが、長年の経験で培われた鋼の自制心で何とか踏み止まる。
 腕を組んだまま視線を巡らせてみれば、滝周辺の岩場には団扇を手に涼んでいるいくつもの影がある。
 その中には、文と同年代の鴉天狗たちも幾人か見受けられた。
 彼らは岩場に座ったままゆったりした態度で涼を取っており、椛たちのように滝壺に飛び込む様子はない。
 眼下で遊ぶ天狗たちを微笑ましそうな目で見つめており、それだけで十分涼しくなる、といった落ち着き払った風情であった。

(そう……あんな風にはしゃぐ訳にはいかないのよ私達は。歳甲斐もなく……!)

 基本的に妖怪は人間と比べて途方もなく長生きをするものだが、彼らの間にも当然ながら若いとか年寄りとかいう概念がある。中でも天狗は人間同様社会的な性質を持っているが故に、殊更その傾向が強い。
 そこへきて、文は妖怪の山に住まう天狗たちの中でもかなりの古株であり、一方椛やはたてはかなりの新参、若者である。
 だから今はたての誘いに乗って「イヤッホゥ!」と滝壺に飛び込むというのは、大人が子供に混じって歳甲斐もなくはしゃぐということであり、有り体に言ってかなり恥ずかしい行為なのだ。
 たとえ先ほど椛を馬鹿にしていたのがほとんど強がりや自戒みたいなもので、今、文の身心が冷たい水を求めているとしても、だ。

(……でも取材だとか何とか言って後で体験記事でも書けば体裁は……いやいや)

 ゴクリと唾を飲み込みながら、文は苦悶する。
 熱い日差しに焦がされ続ける額から、汗が一筋滑り落ちた。

(ダメダメ、私はあのはたてみたいなガキじゃないのよ、幻想郷を華麗に飛び回るキャリアウーマン、つまりは大人のオンナ! いい歳こいて水遊びなんかしてたら山中の笑い者だわ!)

 そもそも取材中だったのに、あまりの暑さに休憩とか何とか言ってこんなところに涼みに来たのが間違いだったのだろう。

(せめて椛だけなら我慢できたのに、よりにもよってあのはたて……あれっ?)

 気付いたら、眼下の水面からはたての姿が消えていた。
 と同時に、背後に気配。

(しまっ――)
「えいっ」

 振り向いたときにはもう遅い。
 年相応に可愛い子ぶった声を上げながら、はたてが満面の笑みで文を突き飛ばす。
 文の体はあっさりと岩場から離れ、滝壺に向かって落下し始めた。

(ええいクソッ、油断した……っ!)

 見る見る内に上から下へと流れていく景色の中に、目を丸くした同年代の天狗たちの顔が見える。

(どうする射命丸文……! 飛べるんだから馬鹿正直に落ちる必要がないとは言え、突き飛ばされてから飛び上がったんじゃ不意打ち喰らったのがバレバレでかえって恥ずかしいし、ここは敢えて突き飛ばされてあげた体を装った方が大人っぽってああもう水面が目の前に――っ!)

 頭から滝壺にダイブ。轟音の間から、驚き混じりの歓声が聞こえてきた気がした。
 轟々と唸る滝壺深くへ沈みながら、念のため取材道具は岩場に置いておいて良かった、とまずは内心ほっと一息。
 同時に、身に纏わりついていた熱と汗の不快感が一気に冷たい快感へと転じ、文は水の中で小さく体を震わせる。
 体裁も外聞も何もかも投げ出してこのまま水の中をたゆたっていたい、という気持ちに全身を支配されかけるが、そういうわけにもいかない。
 文は黙ったまま、逆さに打ち出された銛のごとく一気に水上へ飛び出した。

「お、出てきた出てきたっ」

 照りつける太陽を頭上に、にやけた顔でこちらを見下ろす小娘が一人。

「ぷぷっ、文ってばぼんやりしすぎーっ! どーよ、気持ちいーっしょ!」

 水面すれすれに浮きながら満面の笑みで言うはたてに、文もまたにっこりと笑い返し、

「ええとっても気持ち良いわ……ありがとうはたて、さんっ!」

 言いながら、はたての足をがっしりつかんで全力で水中に引っ張り込む。「ちょ、まっ」と抗議の声が聞こえたが、当然無視した。
 いきなり沈められてじたばたともがくはたての頭を押さえつけつつ、あらんかぎりの声で怒鳴る。

「このバカ女! せっかくひとが我慢してたのを台無しにしてくれちゃってこのっ!」
「ガボッ、ガボッ……ぷはぁっ! ……なぁにが我慢よこの気取り屋!」

 やっとのことで飛び出したはたてが、怒鳴り返しながら睨んでくる。

「あんたがあんまり暑そうだったから、突き落とされたって言い訳出来るように気を遣ってあげたんでしょ!? 感謝しなさいよ!」
「ハァ!? きづかいぃ!? あんたみたいなガキには千年早いってのよこの引きこもりの脳みそ空っぽ鳥頭!」
「あんですって!? そういうあんたは石頭でしょうが! 恥知らずの癖に人目気にしてんじゃないわよ自意識過剰ババァ!」
「なんだとこのアマッ!」
「やんのかコラーッ!」

 暑苦しい日差しの中に輝く滴を盛大に飛ばしながら、声を限りに罵り合い、取っ組み合う。
 周りの白狼天狗や河童たちは止めるどころか「やれ、やれ!」と煽りつつ、二人を見て愉快そうにゲラゲラと笑った。

 ◆

「いやはや、なんともはや」
「元気なもんだね、若いのは」

 岩場に座った二人の天狗が、眼下の馬鹿騒ぎを見ながら苦笑を交わす。
 二人とも、文と大体同年代の天狗であるが、視線に冷ややかな色はない。

「羨ましいねえ、本当」
「真似できんねえ、本当」

 今も元気に郷中を飛び回る、活力に溢れた少女の姿を見下ろしながら、隠居じみた年寄り達はしみじみとした声で呟くのだった。

 <了>







あとがき

というわけでサバトラさん誕生日おめでとうございます。
ここまで読んで下さった皆様もありがとうございます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いであります。

他の人が書いたSSを題材にするというのは初めての経験で緊張しましたが
サバトラさんからは好意的な感想を頂けてほっとしました。
以前自分の誕生日を祝って頂いたお礼ができました。
いやあ良かった、本当に良かった!

問題は最初に出したとき誕生日の日付を間違っていたことだ……
興味のある方はリンク先(サバトラさんのブログ記事)へどうぞ。
全く恥ずかしいやら申し訳ないやら……!

なお、サバトラさんの東方俳句ですが、題材にした一句の他にも素晴らしい作品がいくつも創想話に掲載されております。
こちらも是非ご覧下さい。後書きの解説を読む前に情景や意味を想像して答え合わせしてみると面白いですよ!

創想話リンク
東方シリーズで俳句集
東方シリーズで俳句集2
関連記事
スポンサーサイト

コメント

No title

貴方のBBAは本当に愛らしいです

No title

たまにはこっちも覗いてみるもんです。あなたの新作に出会えてよかった
若いっていいですね

本当に、若いっていいですねえ……

コメントの投稿


非公開コメント

文字を大きく・小さく
    ジャンル(+クリックで展開)
    登場キャラ(■クリックで展開)
    プロフィール

    aho

    Author:aho
    ―――――――――――――
    東方創想話
    イコレート(ゲーム製作)
    pixiv
    SS速報VIPにて活動中
    ―――――――――――――
    pixivID:63347
    twitter
    ―――――――――――――
    SS速報VIPトリップ:
    aho◆Ye3lmuJlrA

    ―――――――――――――
    誤字脱字カテゴリ分類間違い等
    見つけて下さった方はweb拍手、
    コメント、メールフォーム等で
    ご連絡頂けると幸いです

    最新記事
    月別アーカイブ

    2037年 02月 【1件】
    2017年 04月 【1件】
    2015年 08月 【1件】
    2015年 03月 【5件】
    2015年 02月 【3件】
    2014年 06月 【1件】
    2014年 02月 【2件】
    2014年 01月 【4件】
    2013年 12月 【4件】
    2013年 10月 【2件】
    2013年 08月 【1件】
    2012年 09月 【5件】
    2012年 02月 【2件】
    2011年 09月 【2件】
    2011年 03月 【3件】
    2011年 02月 【1件】
    2010年 12月 【28件】
    2010年 10月 【3件】
    2010年 09月 【7件】
    2010年 08月 【4件】
    2010年 07月 【5件】
    2010年 06月 【2件】
    2010年 05月 【2件】
    2010年 04月 【3件】
    2010年 03月 【2件】
    2010年 02月 【3件】
    2010年 01月 【1件】
    2009年 12月 【2件】
    2009年 11月 【2件】
    2009年 10月 【1件】
    2009年 09月 【5件】
    2009年 08月 【1件】
    2009年 07月 【4件】
    2009年 06月 【3件】
    2009年 05月 【1件】
    2009年 03月 【4件】
    2009年 02月 【1件】
    2009年 01月 【2件】
    2008年 12月 【4件】
    2008年 11月 【4件】
    2008年 10月 【4件】
    2008年 09月 【2件】

    最新コメント
    最新トラックバック
    カウンター
    メールフォーム

    名前:
    メール:
    件名:
    本文:

    検索フォーム
    リンク
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。