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【東方SS】紫様がすっげぇ真剣な顔でセーラー服見てた

東方の八雲紫SSです。
2010/7/26に東方創想話に投稿しました。

本文は下記リンクよりどうぞ。
 

 
  
『紫様がすっげぇ真剣な顔でセーラー服見てた』



 藍が深刻な顔でそう切り出したとき、霊夢は思わず手に持った湯呑を取り落としてしまった。
 博麗神社母屋の居間。絶句する魔理沙、眉根を寄せるアリス、困惑する早苗に囲まれて、霊夢は一人呆然と目を見開いている。

「……あ……」

 やがてぎこちなく下を見て、畳の上に零れたお茶を虚ろな目で見やる。

「……お茶、こぼしちゃった。拭かなくっちゃ」

 上の空で呟きながらふらふらと手をさまよわせ、ちゃぶ台の上に畳んであった手巾を無造作につかむ。無表情のまま、油の切れた機械のような仕草でのろのろと畳を拭き始めた。

「……霊夢」

 藍は静かな声で呼びかける。霊夢は無反応のまま畳を拭いている。

「聞け、霊夢」

 答えはない。霊夢はもうお茶を拭きとり終わった畳の上で、なおも手巾を往復させる。
 藍はため息混じりに、

「霊夢、信じられないのは分かるが――」
「うるさいっ!」

 突如、霊夢が叫び声を上げた。持っていたお茶塗れの手巾を藍の顔にべちゃりと叩きつけ、勢いよく立ちあがりながら罵声を浴びせる。

「ふざけたこと抜かしてんじゃないわよこのクソギツネ、目玉が腐ったんなら今すぐ抉り取ってやりましょうかっ!?」
「だが、事実だ」

 藍は沈痛な声で告げる。

「間違いない。紫様はさっき、自室のタンスから取り出したアレを実に深刻そうな顔で――」
「黙れぇっ!」

 悲鳴のような怒声と共に霊夢が藍に飛びかかりかけたので、魔理沙は慌てて彼女を羽交い締めにした。

「落ち着けっ、霊夢!」
「離せっ、離しなさいよっ! このクソギツネ、仕事のし過ぎで頭がイカレたに違いないわっ! 今すぐバラバラに切り刻んで、二度とふざけた台詞吐けないようにしてやるっ!」
「っ……落ち着けって言ってるだろ!」

 魔理沙は霊夢の顔を自分の方に向けさせ、彼女の頬を思い切り張り飛ばした。乾いた音が響き渡り、霊夢は呆然とした顔でその場にへたり込む。
 そんな友人を見下ろしながら、魔理沙は沈痛な面持ちで言った。

「……お前にだって、分かってるはずだ。藍は間違いなく正気だし、そうである以上、こんな馬鹿げた嘘を吐くメリットがこいつにあるはずもない。アリスだってそう思うだろ」
「……そうね」

 アリスは重苦しいため息を吐き出しながら、額を押さえて声を絞り出す。

「とてもナンセンスで、信じ難いことではあるけれど……藍が言っている以上、間違いはない、と思う……」
「でも、でも……!」

 霊夢は畳の上にへたりこんだまま、幼い少女のように泣きじゃくる。

「わ、わたし……ゆ、紫がそんな酷いことするなんて、信じられない……」
「……そうだな。お前はずっとあいつをパートナーにして異変を解決してきたし、いろいろ世話にもなってきたんだもんな。信じられないのは……信じたくないのは、分かる」
「で、でも……わたし、紫と一緒にあの夕陽に誓ったのよ。ず、ずっと一緒に、幻想郷を守っていきましょうねって……!」
「……そうか。霊夢、お前、紫とそんな約束を……それは辛いな」

 霊夢の傍らで彼女の背を擦りながら、「でもな」と魔理沙は表情を引き締めた。

「事実は、事実だ。認めなくちゃならない。今の紫はお前が知ってる紫じゃない。今の奴は……クレイジーだ」
「そんな、そんなのって……!」

 わっと泣き出す霊夢を抱き締めてやりながら、魔理沙は躊躇いがちに藍を見る。

「しかし、藍……正直言って、わたしも霊夢と同じ気持ちだぜ。確かにあいつは胡散臭い奴だが、幻想郷を愛する気持ちだけは本物だと思ってる。そんなあいつが、まさか……」

 二、三度と首を振り、縋るような口調で、

「なあ、何かの見間違いってことはないのか? お前が見たっていうそれ……紫がタンスから取り出して両手で持っていたっていうそれは、間違いなく……その、アレだったのか?」
「ああ」
「……外の世界の学校の、アレか。村紗的な意味の方じゃなくて?」
「間違いない。兵士ではなく学生のものだ。わたしもまさか、あんな代物が郷に持ち込まれていようなどとは思いもしなかったがな……」
「マジかよ……」

 魔理沙は苦しげに呻く。

「外の世界の連中は一体どうしちまったんだ。非核三原則はどうなったんだよ……!」
「魔理沙、今はそんなことを言っても始まらないわ」

 眼鏡をかけて手元のメモ帳に何かを書きつけていたアリスが、冷静な声で指摘する。

「今、ざっと計算してみたけれど……もしも紫がアレを装備した場合、間違いなく」
「間違いなく?」
「幻想郷は、滅亡するわ」

 静かな断言。しん、とその場が静まり返る。
 重苦しい沈黙が支配する中、魔理沙はごくりと唾を飲んで問いかけた。

「……その計算は、確かなのか」
「残念ながら、ね。計算を百回ほどやり直しても全く同じ答えに辿り着くんだもの。否定しようがないわ」
「だろうな」

 藍もまた、疲労に満ちたため息と共に同意する。

「わたしもここに来るまで、何度も試算してみたのだ。間違いない」
「クソッ……どうしてこんなことに……!」

 魔理沙は畳を殴り付け、そうしてからふと顔を上げる。

「おい、藍」
「……何か」
「一つ、確認したいんだが……」

 躊躇うように何度か口を開けたり閉じたりしたあと、

「その……例のアレの、色はどうだった? つまり、ラジウムかポロニウムかっていう意味なんだが……」

 藍は数瞬苦しげに目を閉じたあと、努めて淡々とした声で告げる。

「……布地は白。襟は……赤だ」
「赤、だと……!」

 魔理沙が顔を歪めて呻く。

「プルトニウムか……! よりにもよって!」
「その上スカーフは」
「止めろ、聞きたくない!」
「さすが紫、やることが徹底してるわね……」
「嘘よ、そんなの……」

 魔理沙が耳を塞ぎ、アリスが顎の汗を拭い、霊夢が壁際に座りこんで身を丸める。

「なんてこった……奴はいつから準備を……」
「そんなことより、何か対策を」
「無意味だ。本気になったあの方から逃れられる者などいようはずがない」

 誰もが深刻な顔を突き合わせる中、不意に、

「あ、あのー」

 と、それまで黙りこんでいた……もっと言うなら置いてけぼりを喰らっていた早苗が、ぎこちない笑みを浮かべながら手を上げた。

「なんだ、早苗」
「いえあの、なんていうか、ちょっと話が見えないんですけど……」

 早苗は理解できないといった顔で首を傾げ、

「皆さんが今話してるのは、紫さんのことなんですよね? いえ、よくは分からないんですけど。つまりなんですか、紫さんが着たがってるってことですよね。ええあの、セー」
「早苗!」

 魔理沙が鋭く制止する。早苗が驚いたように目を見開いた。

「えっ……な、なんですか、魔理沙さん」

 魔理沙は困惑する早苗に詰め寄ると、焦燥感の入り混じった早口で非難する。

「馬鹿かお前は……! 汚染が怖くないのか……!」
「は……いや、汚染って」
「いいか早苗。命が惜しければ、例のアレのことはこれから……そうだな、プルトニウム的な物体と呼ぶんだ。いいな?」
「……いや、何を言ってるんですか魔理沙さん」

 早苗は呆れ顔で、

「全く意味が分からないんですけど。だって、あれでしょ。紫さんがセー」
「早苗ェ!」
「……紫さんが、プルトニウム的な物体を身につけるとかなんとか。そういう話なんでしょ」

 拗ねたように唇を尖らせて、早苗が言う。
 大きくため息を吐きながら、

「一体何の冗談なんですかこれは。プルトニウム的な物体を紫さんが身に付けたところでどうなるっていうんですか。どうなるわけもありませんよ。全く、馬鹿馬鹿しい。メルヘンやファンタジーじゃないんですから……大体失礼じゃないんですかそういうのって。たかがプルトニウム的な物体のことで。神奈子様だってこっそり着てたことありますよ、わたしのプルトニウム的な物体を。スケバンみたいな感じである意味似合いすぎてたんで、生温かくスルーしましたけど」
「……そうか」

 早苗の言葉を聞き終えた魔理沙は、深々とため息を吐いた。
 そして、彼女をじろりと睨みつけながら、

「じゃあ早苗。お前は平気だって言うんだな。あくまでも紫とプルトニウム的な物体の危険性を認めないって言うんだな」
「だから当たり前ですって。なんなんですかもう。あ、ひょっとして皆さんでわたしをからかって」
「なら早苗。一言だけ言ってやる」

 魔理沙は早苗の肩をつかみ、

「想像してみろ」
「は?」

 早苗は一瞬眉をひそめたが、やがてその顔は驚愕に染まり、次いで見る見る内に青ざめていった。

「いや……」

 震える声と共に魔理沙の手を払い、よろめくように畳に尻もちを突く。

「早苗?」
「い、いや……こ、こないで……」

 何か恐ろしいものが迫ってきているかのように、両腕で顔を庇いながらぶるぶると首を振って後ずさりながら悲鳴を上げた。

「イヤーッ! 来ないで、来ないでぇっ! 助けて、お母さん、お母さーんっ!」

 涙を流しながら両腕を振り回す早苗の狂態に、アリスが鋭く息を飲む。

「ッ……魔理沙っ!」
「ああ、汚染だっ! 衛生兵、衛生兵ーっ!」

 魔理沙が叫んだ瞬間、畳を吹き飛ばして床下から飛び出してきたガスマスク装備の鈴仙とてゐが、暴れる早苗を羽交い締めにして、親指ほどの太さの注射針を持つ注射器を、彼女の首筋にぶすりと刺した。薬液注入。早苗はうっ、と小さく呻いて白目を剥き、ぶくぶくと泡を噴き出しながら痙攣し始める。そんな彼女をきびきびとした動作で担架に乗せ、鈴仙とてゐは綺麗な敬礼を残してえっほえっほと駆け去っていった。
 その後ろ姿を見送った魔理沙は、大きく息を吐いて額の汗を拭う。

「ふぅ、危うく犠牲者が出るところだったぜ……」
「危ないところだったわね……」

 アリスもまた、ほっと胸を撫で下ろす。そうしてからふと、

「ああ、魔理沙。今もう一度試算してみたんだけど」
「……なんだ。悪いニュースならもう腹一杯だぜ」

 うんざりした様子の魔理沙に、アリスは首を振る。

「残念だけど、聞いてもらわないわけにはいかないわ。さっきの計算なんだけどね、考慮されていない要素があるの」
「なんだ、それは」
「……もしもね、紫が身につけようとしているのがプルトニウム的な物体だけじゃなくて、オプション兵装まで完備していた場合……」
「……オプション兵装、というのは……」

 藍が深刻な顔で口を挟む。

「……もしかして、通学鞄やローファーと言った類の……?」
「察しがいいわね」

 アリスは一つ頷いて眼鏡を直しつつ、

「……もしもオプション兵装まで完備していた場合、数式のある要素が指数関数的に増大するわ」
「指数関数的に増大って……何がだ。係数か?」
「いえ、乗数よ」
「冗談だろ」

 魔理沙が顔を引きつらせるが、アリスは眉ひとつ動かさず、

「これが冗談を言っている顔に見える?」
「……見えないし、そんな状況でもないな……くそっ」

 魔理沙が頭をかきむしる。

「もうどうすることもできないってのか……!」
「……一応、各所に通達はしておいた」

 藍が呟くように言う。

「状況を知らせて、対策をするように、と……」
「どんな対策ができるってんだ、こんな状況で……!」
「永遠亭では、八意女史に鈴仙の服を着せて対抗すると……」
「馬鹿げてる。そんなんで防げるはずがない」
「そうね。彼女の場合は普通に似合うもの。所詮は宇宙人の浅知恵か……」

 アリスがため息を吐き、「で?」と他の二人を見やる。

「どうするの、あなたたちは」
「どうって、何がだ?」
「これからのことよ」

 アリスがちらりと部屋の外を見ながら言う。

「……この気配だと、目標がここに到達するまでにはまだ時間がかかるわ」
「だろうな。紫様はこだわりのあるお方だから……」
「しかし、アリス」

 魔理沙は眉をひそめる。

「奴が真っ先にここに来るっていう証拠はあるのか? まずは……そう、親友である幽々子がいる、白玉楼辺りを落としにかかるんじゃ……」
「いえ、それはないわね」
「どうして言い切れる?」
「だって、ここには霊夢がいるもの」

 アリスが目を向けると、壁際で膝を抱え込んでいた霊夢がびくりと震えた。
 それを見て、魔理沙がため息を吐く。

「……考えるまでもない、か。嫌なもんだな、分かっちまうっていうのは……」
「仕方のないことよ。それで、どうするの?」

 アリスは眼鏡の奥の瞳を細めて、探るように二人を見る。

「今ならまだ逃げられるかもしれないわ。地底や天界なら助かる可能性も……」
「保証はないし、あったとしてもわたしは逃げないよ」
「……どうして?」
「霊夢がいるからな」

 照れもなく言い切った魔理沙を見て、アリスは苦笑を漏らす。

「あんたって本当に予想通りの女よね」
「そういうお前は逃げないのか」
「さて、ね。どうしようかしら。この世の終わりをこの目で見る、というのも悪くない選択肢だと思うわ」
「悪趣味な奴だぜ」
「お互い様でしょ」

 歴戦の友らしい笑みを交わし合った後、「さて」と魔理沙は霊夢に顔を向けた。

「霊夢」

 呼びかけると、彼女は壁際で膝を抱え込んだままびくりと震えた。
 普段の様子からは想像も出来ないほど弱々しく心細げな表情で、魔理沙を見る。
 抱きしめてやりたくなる衝動を抑えながら、魔理沙は淡々とした声で問いかけた。

「お前は、どうするんだ」
「どう、って……」

 怯えるように言う霊夢に、魔理沙は敢えて容赦なく言葉を重ねる。

「お前がやるべきことは分かってるはずだ。博麗の巫女としてどう振る舞うべきなのか、ってことはな」
「それは……」
「わたし個人の意見を言わせてもらえば」

 一瞬の躊躇いを振り切り、魔理沙は強い声で言う。

「……分かっているのなら、その通りにするべきだ。残酷なことを言っていると思うか? でもな霊夢、これは間違いなく最良の選択肢なんだぜ。お前だって知ってるだろ。あいつが……紫が、この郷をどれだけ愛していたのか。何故あいつがこんなことをするのか……おかしくなっちまったのかは、正直言って分からない。でも、昔のあいつの想いを知っているなら……止めてやるべきだ。友達として、な。分かるだろ、霊夢?」
「……分かんない」

 霊夢はふるふると首を振り、小さく鼻を啜りあげた。

「分かんない。そんなの全然、分かんない……!」
「霊夢……」

 呼びかける魔理沙の声から逃げるように、霊夢は膝の間に顔を埋めてしまう。
 そんな友の姿は、魔理沙にとって辛いものであると同時に喜ばしいものでもあった。昔から他人に無関心でどこか浮世離れしていた霊夢が、誰かに対してここまで深い愛情を抱いていたのだ。友人として、嬉しくないはずはない。

(こんな形で知りたくはなかったけど、な……)

 小さく嘆息したあと、魔理沙は無理に笑みを浮かべた。

「よし、分かった」

 霊夢に近づき、彼女の肩をポンと叩く。手の平に震えが伝わるのを感じながら、

「分かった、じゃあ霊夢は何もしなくていい。あいつの相手はわたしたちがする」
「え……」

 霊夢が驚いたように顔を上げた。
 その表情を見て、魔理沙は苦笑し、

「おいおい、そんな顔するなよ。わたしだってお前とそう大差ない数の修羅場をくぐってきたつもりだぜ」
「でも、今回は!」
「分かってる」

 悲鳴のような霊夢の声を、魔理沙は穏やかに遮った。

「今回の危険度は段違いだ。今のあいつと相対するぐらいなら灼熱地獄に裸で突っ込む方がまだマシってもんだ。でもな、霊夢」

 魔理沙は励ますように笑いかける。

「大丈夫だ。今までだって何とかなってきたんだ。今回だって、きっとなんとかなる。なんとかしてみせる。お前ほどじゃないけど、わたしだってあいつに対してそれなりに愛着持ってるんだぜ?」
「……」
「だから、そんな顔すんなって」

 魔理沙は苦笑し、自分の胸を叩く。

「任しとけ。あいつが来たら一発ぶん殴って言ってやるさ! お前には腹巻と股引の方がずっとよく似合うってな!」
「それはさすがにちょっと違うんじゃない?」
「そうか?」

 呆れたようなアリスに照れ笑いを返したあと、魔理沙は再び霊夢に向き直る。気まずそうに目をそらす彼女の肩を、またポンポンと叩いた。

「だからお前は安心して待ってろよ、な。お茶でも湧かしてさ」
「魔理沙……」
「さて、と」

 戸惑っている様子の霊夢にくるりと背を向けて、魔理沙はアリスと藍に向き直る。
 それから頭を掻きつつ、

「とは言ったものの、実際どうしたもんかな。あいつが正面から来るのなら、境内で待ち構えるのがセオリーだろうが」
「どうかしらね。ここに来るのは間違いないと思うけど」

 首を傾げるアリスの言葉に、藍も一つ頷く。

「何せ、紫様だからな。あの方の力を持ってすれば、高高度からの突入も隙間を利用したピンポイント爆撃も思うがままだ。こちらには成す術がないと言ってもいい」
「今この瞬間にでも、紫がプルトニウム的な物体を装備して突然現れる可能性もあるってことか……やれやれ、ぞっとしない話だな」

 首を振る魔理沙の横で、アリスが思案げに腕を組む。

「せめて、情報が得られればね……誰かいないものかしら、死をも恐れず偵察を敢行してくれる勇者は」
「あのなあ、そんな命知らずな愛郷者がどこにいるって……」
「ここにいるぞ!」

 ぼやくような魔理沙の言葉に、複数の声が答えた。三人が驚いてその方向を見ると、いつの間に現れたのか、博麗神社の庭に見知った顔がずらりと並んでいた。
 皆、顔には不敵ながら頼もしい笑みを浮かべている。

「お前たち……!」
「水臭いじゃないか、魔理沙」
「わたしたちだって、幻想郷を守りたいという気持ちは同じだよ」
「そうそう。あんまり役には立てないかもしれないけど」
「あたいったらさいきょーだもんね、ちょちょいのちょいってやつよ!」
「幻想郷が駄目になるかならないかなんです、やってみる価値はあると思います!」
「ま、わたしに任せておきなさい。紫ぐらい片手で捻ってやるわ」
「総領娘様、どうして皆さんたかがセーラー服でこんなに大騒ぎしてらっしゃるんでしょうか?」
「ま、友人の過ちを正すのも高貴なる者の役目ってやつさ」
「さすがですわ、お嬢様」
「知は力。情報さえ把握すれば、やり様はあるはずよ」

 各々に気合の入った声を上げる、たくさんの友人たち。
 彼女ら一人一人の顔を、魔理沙は呆然と見回す。

「お前たち……一体、どうして……」
「そんなの決まってるじゃん」

 にとりがにっこり笑いながら言う。

「わたしたちが盟友だからだよ、魔理沙」
「そういうことそういうこと」
「いつも通りぱぱっと片付けてさ、今夜も楽しい宴会と行こうよ」
「わたし、この異変が終わったら里で店を開くんだ」
「いいねえ、じゃあそこでみんな揃って宴会しようよ!」

 明るい声で笑い合う彼女らの顔に、死線に臨む緊張感や恐れは欠片もない。
 皆が皆、心の底から信じていた。自分たちの結束を。力を合わせればどんな敵にだって負けはしないと。
 たまらず、魔理沙は帽子のつばを引き下げて表情を隠す。

「……ちぇっ、くっさい奴らだぜ、全く」
「そりゃお互い様でしょ、魔理沙」
「うるさいよ、もう」

 唇を尖らせる魔理沙に、再び明るい笑い声が上がる。
 そんな和やかな空気を、緊迫した声が打ち破った。

「A88より緊急連絡!」

 紙を手に走り込んできたのは、インカムをつけた犬走椛である。耳慣れぬ言葉に、魔理沙は眉をひそめる。

「A88?」
「ハッ。警戒対象BBAの偵察に出ている天狗のコールサインです」
「……文か! どうしたんだ!?」
「はい。BBAが博麗神社近くの道に出現したのを偶然発見したとのことです!」
「来やがったか……!」

 奥歯を噛む魔理沙。その場に緊張が走る。ちらりと後ろをに目をやると、居間の壁際に座りこんだままの霊夢がぎゅっと己の肩を握りしめるのが見えた。
 魔理沙は胸の痛みを感じながら椛に目を戻し、

「それで、文はどうなった!? 無事なのか!?」
「ハッ。状況報告のために一時帰投するとのことで……」
「来たよ!」

 にとりの声に顔を上げると、鎮守の森の向こうの空から、黒い影が物凄い勢いで突っ込んでくるのが見えた。
 それを見た魔理沙は、慌てて声を張り上げる。

「衛生兵、滅菌用意! 総員退避っ!」

 その声に、集まっていた面々が慌てて両脇に退く。
 一瞬後、洋風の軍服に身を包んだ射命丸文が土煙を巻き上げながら庭に降り立った。すかさず太いホースを抱えたガスマスク装備の鈴仙とてゐが走り込んで来て、ノズルから真っ白な液体を容赦なく噴射した。
 文は微動だにすることなく、濡れた黒髪からポタポタと消毒液を垂らしながら魔理沙を見る。

「悪いな、文」
「いえ、当然の措置です」
「それで、状況は?」
「はい。それが、奇妙なことに……」

 文の表情に困惑が入り混じる。

「警戒対象BBAは、普段の姿のままでした」
「なんだって? じゃあ、プルトニウム的な物体は……」
「影も形も見えず。誤報、だったのでしょうか……?」

 困惑する文の背後で、その場に集まっていた面々がざわつき始めた。誤報、という言葉に、安堵の吐息を漏らすものもいる。

「なんだ、間違いだったんだ」
「そうだよね、あの紫さんがそんなイカれたことを仕出かすわけが……」
「待った!」

 緩みそうになった空気に、鋭い声が割り込んだ。
 何かと思って見ると、八雲藍がこれ以上ないほど青ざめた顔で立ちつくしている。

「やられた……! そういうことだったのか……!」
「なに……なんだ、どうしたんだ?」

 困惑する魔理沙に、藍は頭を掻きむしりながら叫ぶ。

「あの方の狙いは、最初からこれだったんだ!」
「どういうことなんだ、藍。ちゃんと説明してくれ!」
「分からないか!? 今この場には、幻想郷の実力者たちが多数揃っている……! その上ここはどこだと思う? そうだ、博麗神社だ! 外と内の境界にして幻想郷の要。しかも先日の地霊騒動で地下とも繋がっているし、裏山には魔界へのゲートだってある。こんな場所でプルトニウム的な物体を装着しようものなら……!」
「まさか……!」

 アリスがはっとした様子でメモ帳を取り出し、物凄い勢いでそこに何かを書きつけ始める。
 そして数秒ほど後、愕然とした様子で口元を押さえた。

「なによ、これ……! これじゃ、幻想郷どころか天界も地底も魔界も外の世界も、みんなまとめて……!」
「やられた……! 紫の奴め……!」

 歯軋りする魔理沙の前で、恐怖は一気に伝播した。さすがに勇気ある友人たちも、ここまでの事態は想像していなかったのだろう。恐慌に駆られて逃げ出そうとする者、逆に興奮しきって唸り声を上げている者、あまりの事態に我を忘れて泣き叫ぶ者。誰もが正気を失っている。

「魔理沙……」
「なんてこった……世界は、ここまでなのか……!」

 魔理沙もまた、アリスの隣で己の無力さを噛みしめるしかない。
 そうして、膨張しきった混乱が今にも爆発しそうになった、まさにその瞬間。

「静まりなさい」

 その声は、静かに。だが、世界の何よりも力強く、その場に響き渡った。
 瞬間、誰もが息をするのも忘れ、呆然とした表情で声の方向を見やる。集まった面々だけではない。魔理沙もアリスも藍も同様であった。
 彼女らの視線の先……先程まで弱々しく身を丸めていたはずの霊夢が、凛とした表情を浮かべてそこに立っていた。
 静かな足取りで歩み出てくると、背筋を伸ばして縁側に立ち、友人たち一人一人の顔をじっと見つめ回した。

「何を怖気づいているの? あなたたちは今この世界に何が起こりつつあるか知っていながらここに集まったはずでしょう? ならば、こうなる覚悟だって出来ていたはずよ」
「で、でも、霊夢……!」

 半泣きになったリグルが、怯えた声を上げる。

「こ、ここまで大事になるだなんて、わたしたち……!」
「……怖いのは、わたしも同じよ」

 霊夢の声がかすかに震え、友人たちは息を飲む。

「ううん。今この場所で一番怖がっているのは、ひょっとしたらわたしかもしれない。だって、わたしは知っているもの。紫のこと。彼女がどれだけ……。そう、あの人とアレがどれだけ恐ろしいか。一番よく知っているのは、わたしだもの」
「じゃあ、どうして!」
「好きだからよ」

 霊夢は躊躇いなく言い切る。

「わたしは、あの人のことが好きだから……だからこそ、この命を賭けてでも、紫のことを止めて見せる! あの人を、歴史に名を残す大罪人になんか絶対しない! だって、わたし」

 息を詰まらせる霊夢の目から、一筋涙が零れた。

「わたし、約束したんだもの。ゆ、紫と、この郷を守るって……! 約束は、守らなくっちゃ……!」
「霊夢……!」

 とうとう堪え切れなくなり、魔理沙は自分が最も誇るべき友人を両手で力の限り抱き締めた。霊夢は泣いていたが、魔理沙もまた自分の涙を止める術を知らなかった。

「ごめん、霊夢……! お前にこんな辛いことを……力のないわたしたちを許してくれ、霊夢……!」
「いいの、いいのよ、魔理沙。心配かけてごめんね。わたし、紫の分まで頑張るから」

 神々しさすら感じる笑みを浮かべて、霊夢は魔理沙を抱き締め返す。
 その表情を見ていた藍が、眩しそうに目を細めた。

「霊夢、お前……まるで紫様のように笑うようになったな。あの方の志は、今や完全にお前に受け継がれたようだ」
「ふふ……藍、わたしだって、伊達に腋出して飛んでるわけじゃないのよ?」
「そうだな。そうだったな。スマン」

 小さく息を吐く藍にもう一度微笑みかけたあと、霊夢は表情を引き締めてその場の友人たちを見回した。

「では、覚悟はいいわね、皆。怖い者はすぐにこの場を離れなさい。誰も笑いはしないわ」

 霊夢は厳かな声でそう言ったが、動く者は誰一人としていなかった。皆、先程までの恐慌が嘘だったかのように、ただ決意に満ちた表情で真っすぐに霊夢を見つめている。

「すまんな。みんなの命をくれ」

 魔理沙の言葉に答えて、その場の全員が一斉に敬礼を返した。



 晴れ渡った空を、のん気な鳥たちが鳴き交わしながら飛んでいく。
 神社の周囲はしんと静まり返っていた。静寂に包まれた空気の中、動く者と言えば母屋の居間でいつものように茶を啜る霊夢ぐらいのものである。
 その背後、アリスと共に押し入れに隠れた魔理沙は、襖の隙間から外を窺ってごくりと唾を飲み込んだ。

「……いやに静かだな。これから世界が滅びるとはとても思えないぜ」
「嵐の前ほど静かなものよ」
「らしいな。霊夢の奴、大丈夫かな……」

 湯呑を持つ霊夢の手が震えているのを見つけて、魔理沙は唇を噛む。今から友人に辛い役目を負わせようとしている自分の無力さが、改めて腹立たしく思える。
 そのとき、アリスが耳元で囁いた。

「全員配置についたみたいね」
「そうか。紫の位置は?」
「もうすぐよ……来たっ!」

 アリスの声と共に、周囲の空気に一層強い緊張が走る。
 静寂の中、彼女はゆらりとした足取りでやって来た。いつものように隙間を使って唐突に現れるのではなく、一歩一歩、庭を横切って縁側から中へ上がり込んできたのだ。
 その表情は、何やら非常に緊張しているようではあった、が。

「いつもの格好だな……」
「油断しちゃ駄目。彼女なら視認できない速度で衣服を変えることぐらい訳ないわ」

 アリスの指摘に、魔理沙は小さく頷いて答える。
 霊夢の方に、動きはない。ちゃぶ台の前に座ったまま、お茶を飲んでいる。動けないのかもしれなかった。

「……霊夢」

 固い声で、紫が言う。魔理沙は心臓が締め付けられるような緊張を感じて、ぎゅっと拳を握りしめる。

(神様仏様ご先祖様……! 誰でもいい、わたしたちを守ってくれ……!)

 祈る魔理沙の視線の先で、紫は立ったまま霊夢に声をかける。

「……今日は、大事な話があって来たの」
「……なに、紫」

 答える霊夢の声は、魔理沙でなければそうと分からぬほど、かすかに震えていた。
 そんな巫女の前で、紫はごくりと唾を飲み、覚悟を決めたように目を閉じて、

「あのね、これっ!」

 言った瞬間、空間に裂け目が出来て、その向こうに白い布地が。

(今――ッ!)

 彼女らは一斉に飛び出す。押入れを蹴破って魔理沙とアリス、畳を吹き飛ばして鈴仙とてゐ、光学迷彩を解除しながらにとりと天狗勢、天井裏から萃香と天子、壁を破ってレミリアと咲夜……その他にもたくさんの人妖たちが、手に手に武器を持って紫に突進する。剣が、刀が、槍が、拳が、爪が、牙が。ありとあらゆる武器が紫を貫かんと空を裂き、そして、

「これっ、着てくれないかしらっ!?」

 ――ぴたりと止まった。

「……はい?」

 呆然と首を傾げる霊夢、紫を狙って獲物を突き出したまま固まる人妖たち。
 彼女らの前で、紫は白い布地に赤い襟のセーラー服を持ったまま、気恥ずかしげに頬を染めて目を瞑りながら首を振りつつ、

「い、いえ、違うのよ」

 と、何やら必死に弁解を始めた。

「別にあなたに着てもらうために特別に誂えたとか用意したとかそういうことは微塵もなくてね、たまたま何のきっかけでだか忘れたけど手に入れていたものを箪笥の奥底にしまっていたのを今日たまたま思い出して、まあこのまま箪笥の肥やしにしておくのも勿体ないし折角だから霊夢にでもあげちゃおうかなーとかそういうどうでもよさげな理由で持ってきたのであって、決してあなたに着せて霊夢が外の世界で生まれてたらどんな感じだったかなーと妄想しようとかそういうことを考えていたわけではなくて本当にただ何となく持ってきただけなのよ理解していただけるわよね理解していただけたわよねだってわたしたちってパートナーみたいなもんだし……って、あ、あら?」

 一人で喋りまくったあとで初めて自分がたくさんの人妖たちに囲まれていることに気付いたらしく、紫は周囲を見てぱちくりと目を瞬いた。

「み、皆さんお揃いで、何をしてらっしゃるのかしら……?」
「……紫様」

 沈黙する一同の中、紫の式である藍だけが、ぎこちなく片手を挙げて発言する。

「あら藍ったら、こんなところで何をしてるの?」
「……そのご質問にお答えする前に、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「なあに?」
「あの……その、それ」

 と、セーラー服を指さしてゴクリと唾を飲み、

「……それ、ご自分でご着用なさろうとしていたわけではありませんので……?」
「え、わたしが?」
「はい」

 頷く藍と固唾を飲んで見守る人妖たちの前で、紫は照れたように苦笑し、

「いやあね、藍ったら」

 と、微笑みながらセーラー服を見下ろした。

「わたしみたいなお年寄りが、こんな若い子の服を……なんて。いくらなんでも年甲斐のない――」
『申し訳ございませんでしたアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』

 全幻想郷が土下座した。



 <了>

(東方創想話版リンク)


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コメント

おめでとうございます!

いまさらですが、ブログ開設おめでとうございます!
恥ずかしながら、新作と同時に知りました・・・
新作のほうも相変わらずの冴えで、楽しく読ませていただきました。
これからも頑張ってください!

No title

>>メイルさん
ありがとうございます。

新作も楽しんで頂けたようで良かったです。
個人的には結構投稿するの怖かったんですが、割と好評なようでほっとしています。

では、今後ともよろしくお願いします。

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