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【ゼロ魔SS】伝説の男

昔某所に投稿したゼロの使い魔のSSです。
 


『伝説の男』



 最近、才人は不意に殺気のようなものを背中に感じることがある。
 異世界ハルケギニアに召喚されて以降幾度も戦闘に巻き込まれた経験が、そういった感覚を鋭敏にしているらしい。
 たとえばベンチに座ってルイズやシエスタと談笑しているときや、図書館でタバサと一緒に読書しているときなど、突如として背筋に悪寒が走り、心臓の鼓動が速くなることがあるのだ。

「またどっかの悪者にでも狙われてんのかな」

 ぼやくように呟く才人に、背中のデルフリンガーが笑い混じりの声を返す。

「いやあ、違うと思うね」
「違うって?」
「ああ。殺気感じるときっつーのは、要は女の子といちゃいちゃしてるときなんだろ。嫉妬されてんのよ相棒は」
「嫉妬、ねえ」

 才人としては複雑な気分である。
 彼の周囲の女の子達は確かに美少女揃いだし、仲良く談笑しているのも事実だ。
 しかし、あくまでも才人としてはルイズ一筋の気持ちなのである。
 ルイズ本人が態度をはっきりさせないせいで言いそびれているという事情はあるものの、シエスタやタバサやティファニアと一緒になろう、という気持ちは、今のところ全くない。

(俺に嫉妬してる暇があるなら自分らで口説いてみろっつーの)

 陰から嫉妬混じりの視線を送ってくる連中に少々侮蔑的な感情を抱きつつ、才人は大きく嘆息した。

 翌日、ベンチに座ってルイズやシエスタと談笑しているとき、才人はまたしても例の殺気混じりの視線を感じた。

(ああもう、うざってえなあ)

 少々苛立ちながら後方を振り返る。いつもならば誰の姿も発見できないのだが、この日は違った。塔の影に、誰かの姿が消えるのがちらりと見えたのである。

(ちょうどいいや、追いかけてって一言言ってやる)

 ルイズとシエスタに「ごめん、ちょっと用思い出した」と簡単に言い置いて、才人は走り出す。たとえガンダールヴの力なしでも、この学校のひ弱なお坊ちゃんたちに体力で負ける訳がない。そう考えていたので、才人はあえて自分の足だけで先程の生徒を追いかける。
 だが、予想に反して、生徒はなかなか捕まらなかった。それどころか、何故か才人だけに向かって逆風が吹きつけてきたり、突然地面に出っ張りが出現してすっ転んだりして、差が広がる一方だ。

「ちくしょう、何だってんだ」
「誰かが魔法でサポートしてるみてえだね。明らかに罠だよこれは」

 背中でデルフリンガーが警告する。才人の胸が怒りで熱くなった。

「ケッ、一人じゃ勝てねーから集団でボコろうってことかよ。そんなだからモテねーんだ。上等だ、何人相手だろうが全員ぶっ飛ばしてやるぜ」

 下げたくない頭は下げない信条で、なおかつ割と喧嘩っ早い才人である。もはや罠がどうだとかは気にせず、ひたすら前方の背中を追いかけ続ける。
 そして、二人はついに学院の敷地内から抜け出し、周囲に広がる森の奥にまでやってきた。妨害はこのときになってもまだ続いていたため、才人はやはり前方の生徒に追いつくことができずにいる。

「あの野郎、一体どこに行く気なんだ」
「安心しなよ相棒、そろそろ追いかけっこも終わりみたいだぜ」

 デルフリンガーの言葉どおり、前方の生徒は森が少し開けたところに立っていた掘っ立て小屋に駆け込んでいくところである。

「なるほど、あそこでモテねー男どもが俺をぶちのめそうと待ち構えてるって訳だ」
「どうすんだい相棒」
「もちろん突っ込む。で、俺の意思をはっきり伝えてやらあ」
「俺はルイズ一筋だってか」
「おうよ」
「相棒の普段の態度考えると、とても信用されるとは思えねえがね」
「お前までそんなこと言うのかよ。俺は誠実で一本気な男だぜ」
「言うだけなら誰だってできらあね。ま、やってみなよ」

 いつも通り軽口を叩きあいながら、才人は慎重に掘っ立て小屋に足を踏み入れる。デルフリンガーは既に彼の手の中である。さすがに、突然魔法が飛んでくるかもしれない状況で、ガンダールヴの力を使わない訳にはいかなかった。
 掘っ立て小屋は見かけどおり狭く、中は木こりのものらしい道具がぎゅうぎゅうに押し込んであるだけであった。先程の生徒の姿も見えない。

「どこ行ったんだ、あいつ」
「下見なよ、相棒」

 デルフリンガーの言葉に従って床を見下ろすと、小さな寝台の下に石造りの下り階段が口を開けていた。

「隠し階段か」
「地下に広い施設がありそうな感じだね」
「で、その奥には魔王が待ち構えてるって訳か。RPGのやりすぎだぜ全く」
「RPGってなんだね」
「こっちの話だよ。ともかく、下行って連中と喧嘩すりゃいい訳だな」

 才人はゆっくりと階段を下り始める。壁に魔法のランプが灯されているため、地下に降りていくにも関わらず、周囲はずっと明るいままである。その内に、階段の終わりが見えた。一枚の木の扉がある。

「あの向こうにラスボスが待ち構えてるって訳だな」
「ラスボスってのが何なのかは知らねえけど、まあそうだろうね」
「そんじゃ、突撃するとすっか」

 才人は勢いよく扉を蹴破り、地下の部屋に突撃した。

「オラオラお前ら、誘いに乗って出てきてやったぜ。どっからでもかかって」

 言いかけた才人は、唖然とした。地下の部屋はちょっとした広場ぐらいの広さがあり、そこに多くの人間がひしめき合っていたのである。
 魔法学院の生徒だけではない。騎士らしき者や、町人らしき者までいる。身分から年齢までバラバラな者達が、皆一様に踏み込んできた才人を凝視しているのである。

(オイオイなんだこりゃ、どうなってるんだ)

 さすがの才人も内心冷や汗を流しながら硬直するしかない。どうせマリコルヌ辺りの悪戯だろうと高をくくっていたところもあり、まさかこれほどの人数が揃っているとは予想もしていなかったのだ。
 一体何をどうすればいいのか分からずに止まってしまった才人の目前で、不意に群集が真ん中から割れて、その向こうから一人の少年が姿を現した。

「ようこそサイト」
「ってやっぱりお前かよマリコルヌ」

 少々うんざりしつつ、才人は悪友に呆れた声をかける。
 いつも通り小太りなマリコルヌは、ふっくらした頬に深い皺を作りながら笑った。

「まあそう言うなよ。大方予想はついていたんじゃないのかい」
「そうだけどよ。こりゃ一体何の集まりなんだ」

 相手の態度に敵意が感じられないことに少し驚きつつも、才人はマリコルヌに問いかける。

「彼らは僕の同志たちさ」
「同志って、何の」
「君の周囲に集う女の子達の」

 やっぱりそれ関連かよ、とまたもうんざりする才人のことなど気にした風もなく、マリコルヌは向かって左から順々に、群集を手で示していく。

「紹介しよう。まず彼らがルイジスト、その隣がシエスタン」
「オイ、俺に分かるように説明しろよ。ルイジストってなんだ」
「ルイズファンの集まりだよ」
「なに?」

 才人は目を剥いて、群集の内向かって左端辺りの男たちを見やる。すると彼らは皆笑顔を浮かべながら、手に手に何かを掲げて、才人に見せた。それは絵画だったり彫り物だったり彫像だったりしたが、どれも才人がよく知るルイズの姿を表現したものばかりであった。

「なんだ、まさかこいつら」
「そう。ルイズに恋焦がれている男たちなのさ」
「そんなバカな」
「バカな、じゃないんだよ。ルイズも君もあれこれと活躍して、少々有名になっているからね。美少女である彼女にファンが出来るのは当然のことなのさ」
「なるほどねえ。それにしても」

 才人は改めて、群集一人一人を見回した。そして、結論付けるように頷いた。

「どいつもこいつも、モテなさそうな顔した連中ばっかりだな」
「事実だ」
「認めるのかよ」

 マリコルヌは才人に背中を向けると、群集を見回すようにゆっくりと首をめぐらせた。

「彼らは皆、容姿に自信がなかったり口下手だったりで、マトモに女の子に相手にしてもらえない男たちばかりだ。君の周囲に集まる女の子達の姿を象った物を愛でることだけが、彼らにとって唯一の喜びなのだよ」
「要するにキモヲタな訳だな」

 懐かしいフレーズだなあと思いつつ、才人はしみじみ頷いた。
 やはり、どこの世界だろうと勝ち組と負け組は存在するのだなあと、思い知った気分である。

「で、改めて紹介しよう。向かって左から、彼らがルイズを信奉するルイジスト、隣がメイドのシエスタを愛して止まないシエスタン、隣がちびっ娘タバサに心を奪われたタバシスト、その隣がアンリエッタ女王陛下に忠誠を尽くすアンリエスト、最後、向かって右端が、ハーフエルフのティファニアに狂うティファニアンだ」
「頭が痛くなってくるぜ、いろんな意味で」
「ちなみに僕はルイジスト会長だ」
「アホか」

 才人は首を振りつつ、またかすかに緊張を取り戻した。

「で、お前らの目的はなんだ。モテねー連中が寄ってたかって俺をボコろうってか」

 挑発的な物言いをするのには訳がある。たとえこの連中が何人だろうがメイジ混じりだろうが、こんな狭い場所で一斉に襲い掛かってこようとすれば、大混乱の内に自壊するのは目に見えている。それを狙ったのである。
 が、その予想に反して、こちらに振り返ったマリコルヌの顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「そんな訳ないだろう。それどころか、僕らは君に深く感謝しているのだよ」
「感謝?」

 予想もしない言葉を聞いて、才人は眉をひそめる。

「どういうことだよ」
「簡単な話だ。僕らの女神たちの魅力的な表情を引き出せる人間は、君しかいないということだよ」
「そうそう」
「あんたのおかげで、明るい表情や怒った表情、エロい表情まで堪能させてもらってますぜ」
「いよっ、さすがトリステイン一強い騎士様!」
「尊敬するぜシュヴァリエ!」

 周囲の男たちが口々に歓声を飛ばしてくる。その内、群集の中から一人の細い男が出来て、才人に何やら水晶玉のようなものを差し出した。

「これ見てくださいよシュヴァリエ」
「なんだこりゃ」
「私の開発したマジックアイテムです。あ、ちなみにわたしはティファニアンなんですけどね」

 んなこと聞いてねえよ、と思いつつも、才人は水晶玉を覗き込む。そして、絶句した。
 そこに映し出されていたのは、才人のよく知るハーフエルフの娘、ティファニアの姿であった。
 笑っている顔、困惑している顔、泣いている顔……千変万化する表情が、鮮明な映像となって映し出されている。

「これは一体」
「私の女神様の御姿を永遠に留めておけるアイテムです。ああ、私の愛しいティファニア様」

 うっとりと呟きつつ、男は水晶玉に口づけする。こいつキメェ、と身を引く才人の肩を、マリコルヌがぽんと叩いた。

「これは彼が発明したんだよ」
「マジッスか」
「ああ。彼のティファニアン魂が、ついにあのいけないおっぱいを永遠に記録することを可能としたのだよ!」

 おっぱい言うな、と心の中で突っ込みながらも、才人は驚嘆していた。

(要するに、ティファニアの写真撮りたい一心で、今まで誰もなし得なかったことを成した訳だ、こいつは)

 キモヲタの情念スゲェ、と唸る才人に、マリコルヌは「さて」と再び背中を向けた。

「サイト。今日君をここに誘い込んだのは、もちろんこんな与太話をするためじゃあないんだ」
「じゃあなんだ。俺をボコるつもりじゃないんだろう」
「ああ。ここに君を呼んだのは、君の意思を確認するためだ」
「俺の意思、っつーと」
「つまり、君が一体、誰のことを一番に愛しているのか、ということだよ」

 やはりそう来たか、と才人は唇を噛み締める。話の流れである程度分かっていたことではある。

「君は僕らの女神様たちに魅力的な表情を浮かべさせてくれる、大した男ではある。が、我々は同時に不安なのだよ。君が一体、誰を選ぶのか、とね」

 地下室の空気が、徐々に危険な色合いを帯び始める。やはり最近感じていた殺気はこの男たちのものだったのだ、と才人は再確認する。
 そして、同時に理解した。ここで自分がどう答えるかで、今後の運命は大きく変わるだろうということを。

(要するに、こいつらは自分好みの美少女が幸せそうにしてりゃいいわけだ。ってことは、ここで俺が選んだ女の子のファンは俺に味方し、それ以外の女の子のファンは『俺の○○ちゃんを悲しませるヤローめ』って理屈で俺に敵対する、と)

 才人の背中を嫌な汗が流れる。モテない野郎どもは、皆凄まじい殺気を放っている。様々な死闘を潜り抜けた才人にも、圧迫感を与えんばかりである。土下座して逃げ出せるなら逃げ出したい気分だった。

(怖ぇ、マジ怖ぇ、キモヲタ怖ぇ)

 内心震え上がりながらも、才人は必死にこの場を潜り抜ける方法を考える。

(俺の気持ちはルイズ一本だ。いやだがしかし、ここに来てシエスタも捨て難いという気分になっている。だがタバサの捨てられた子犬のような目を想像すると心が痛むし、アン様に対してもあれこれと中途半端なままだ。ティファニアにだって、あの森から引っ張り出してきちまった罪悪感みたいなものがある訳だし)

 ぐるぐるぐるぐる思考は巡るが、一向に答えは出てこない。

「さて、それでは君の答えをお聞かせ願おうか」

 才人に背中を向けたまま、マリコルヌが堂々とした口調で問うてくる。彼自身も自らルイジストだと名乗っているだけあって、その背中から放たれる殺気だけでかみ殺されそうな錯覚すらある。

(狼だ。こいつらはモテねーキモヲタという名の狼なんだ)

 ガクガクと震える才人に、周囲の男たちが一斉に声を上げる。

「さあ、シュヴァリエの答えは」

 才人はいよいよ追い詰められ、カラカラに乾いた口を開く。

「俺は」

 自分が何を言おうとしているのか理解できないまま、才人はついに、答えを口にした。

「全員、選んじゃおうかなー、なんて」

 その瞬間、地下室に沈黙が下りた。

(やっちまったぁぁぁぁぁぁっ!)

 才人は心の中で頭を抱える。よりにもよって、一番よくない選択肢を選んでしまった。

(『フザケンな、そんなはっきりしねえ野郎に俺達の○○ちゃんを任せられるか!』『そうだそうだ、この腑抜け野郎をやっちまえ!』と襲い掛かってくるこいつらの顔が目に浮かぶぜ……!ごめんルイズ、皆! 俺、もう帰れそうにない)

 死を覚悟する才人の前で、マリコルヌが背中を向けたまま問いかけてくる。

「その答えに、偽りはないな」
「ああ」

 今更否定する訳にもいかず、才人は大きく頷いた。煮るなり焼くなり好きにしろ、という気持ちである。
 しかし、予想に反して、振り返ったマリコルヌの顔には、先程以上の素晴らしい笑みが浮かんでいた。

「よく言ってくれた、サイト!」
「は」

 何を言われたのか分からず、才人はぽかんと口を開く。それと同時に、周囲で歓声が爆発した。男たちの野太い叫びがいくつも重なり合って地下室を揺らし、彼らの手から放たれた絵や人形などが次々と宙を舞う。

「万歳」
「万歳、シュヴァリエ万歳」
「これで我らは救われるぞ」

 男たちは口々にそんなことを叫んでいる。
 意味不明な展開に困惑する才人の肩を、マリコルヌが労うようにポンポン叩いた。

「本当によかった。これで僕らも安心できるというものだ」
「どういうことなんだ、マリコルヌ。俺の考えは、自分で言うのもなんだけど、あまり常識的じゃないような」

 さすがにこのままにしておくことも出来ず、サイトは恐る恐る言う。だが、マリコルヌは笑みを崩さずにゆっくりと首を横に振った。

「分かってないなサイト。確かに、君の考えは非常識だ。だが」
「だが?」
「だから、いいんじゃあないか」
「意味が分からん」
「いいかい、君が全員物にすると誓ったということはだ。僕らは、互いの利益を損ねることなく、自分が愛する女の子の多彩な表情を、これからも、いや、これまで以上に楽しむことが出来るという訳だよ」
「そ、そういうもんか?」
「そういうもんだ」
「……そういうもんか」
「そういうもんさ」
「そうだな。そういうもんだよな!」

 ついに、才人も考えるのを止めた。デルフリンガーを放り出し、周囲の男たちとひたすら肩を叩きあう。

「いや、よく言ってくれたよシュヴァリエ」
「シエスタちゃんのこと、よろしく頼むぜ!」
「タバサさまも可愛がってやれよ!」
「おうおう分かってる分かってる、全員俺に任しとけよ」

 半ばヤケクソになりつつ、才人は周囲の男たちにそう宣言する。
 あまり誠実とは言えない結果になってしまったが、ここまで喜ばれると、これはこれでよかったというような気にもなってくる。

(それにまあ、全員選ぶ、なんてことをルイズたちが承知するとも思えんし。どうせ最後には一人選んで常識的なところに収まるだろう)

 そんな楽観的なことを考えていた才人に、ふとマリコルヌが言葉をかける。

「そうそう、サイト。言い忘れていたが」
「なんだ」
「君は今、全員物にすると誓ったんだ」
「ああ」
「つまり、僕らに対して、あの子たち全員を漏れなく幸せにする義務を負った訳だよ、君は」
「……ん?」

 上手く理解できず、才人は首を傾げる。

(今何か、とんでもないことを言われたような)

 なかなか頭が回らない才人に、マリコルヌが笑みを崩さぬまま言葉を続ける。

「これで、もしも僕らの愛する女の子達の内一人でも、君のせいで不幸になったり涙を流す結果に終わったりしたら」

 才人の背中がぞくりと震える。マリコルヌも、周囲の男たちも、皆笑顔のままである。
 その笑顔が、何故かとても恐ろしい。

「僕らは君を八つ裂きにして肉をオーク鬼に食わせ骨をトロルにしゃぶらせ、目玉を竜の餌にして脳味噌がウジ虫だらけになるまで地べたにさらしてやる。そのことを、ゆめゆめ忘れないようにな。なに、僕らだって、彼女らの幸せのためなら努力は惜しまないつもりさ」
「そうだとも」
「タバサのためなら死ねる」
「ルイズの幸せのためならエルフの大群にだって突っ込んでみせらあ」
「アン様万歳!」
「面倒ごとは俺達に全部任せて、あんたは彼女らを幸せにすることだけ考えてくれ」
「そうだとも。あの子らのためなら何だってやれんぜ、俺ら」
「たとえこの世界の秩序を歪めてでもな!」
「まあ、あの子ら不幸にしたら地獄の果てまであんたを追い落とすけどな!」

 周囲の男たちが、めいめい好き勝手なことを口々に喚き出す。
 こうして、才人は周囲の少女達全員を幸福にする義務を負ったのであった。



「ねえサイト、サイトってば」
「ん。なんだ、ルイズ」
「何やってんのよあんた。黙っちゃって。寝てたの?」
「いや。ちょっと昔のこと思い出してたのさ」

 黙々と数年前のことを回顧していた才人は、ルイズの声で現実に引き戻された。
 目の前には、地球にいたころSF映画などで見たような、宇宙船のブリッジがある。
 才人はそのブリッジの中でも一番高い、艦長席に座っているのである。

(冗談みてえな状況だ)

 だが、冗談ではないのだった。

「いよいよ出発ですわね、サイト様」

 微笑みながら才人の左腕に両腕を絡めてくるのは、数年前までトリステイン女王だったアンリエッタである。今はその肩書きも外れて、ただ一人のアンリエッタとしてここにいるのだが。
 左腕にアンリエッタの腕と乳房の柔らかさを感じながらも、才人は内心冷や汗を流していた。アンリエッタと同じく彼の傍らに控えている他の少女たちのことが、気になって仕方がない。

(あんまり不機嫌そうな顔するのは止めてくれよ、皆)

 才人の傍らには、アンリエッタとルイズだけではなく、シエスタにタバサ、それにティファニアもいた。今や皆、才人と「恋人同士」という関係である。
 ともすれば羨ましくも思える状況であるが、才人にしてみれば嬉しかったり楽しかったりよりも、恐ろしかったり苦しかったりという感情の方が大きい。
 何せ、マリコルヌらとあの盟約を交わして以来、才人は常に「誰も悲しませたり怒らせたりしないように、皆といっぺんに幸せになる」ということばかり考えて生きてきたのだから。
 故に、この数年間は、常に細い糸の上で綱渡りをしているかのような生活であった。誰かに優しくしすぎたり、逆にそっけなくしたりするだけで、物陰から銃弾やら魔法やらが飛んでくるのだ。それも、少女たちの見ていないところで。

(頑張りすぎだぜ、お前ら)

 呆れるほどの情念に恐怖を覚えながら、才人は必死でここまでやってきた。おかげで、当初は不可能に思われた「皆とまとめて幸せになる」という状況も、ここまで何とか保ててきている。少女たち一人一人の性格を考えてみれば、まさに奇跡としか言いようのない状況である。

(それにしても)

 ハルケギニア製とはとても思えない宇宙船のブリッジを見回しながら、才人は嘆息する。
 この船、船名「オストラントⅦ世」号は、アンリエストたちが総力を結集して作り上げた宇宙船である。
 サイトが寝物語に宇宙の話なんかを語ったのが始まりで、

「私、サイトさまと一緒に星の海を飛んでみたいです」

 などとアンリエッタが言い出したものだから、「アン様の望みを叶えてやろうぜ!」とアンリエストたちが燃えに燃えたのである。
 まさか本当に本物の宇宙船を作ってしまうなどとは思いもしなかったが、ここ数年はずっとこんな感じであった。
 アンリエッタが女王という立場に苦しんでいると知れば、スムーズかつ平和裏に王政を崩壊させて彼女を自由の身にし、ティファニアが母の故郷に行きたがっていると知れば、「オストラント」号に改造を施してエルフの軍勢をレーザー兵器でなぎ払ったりする。
 タバサの復讐もタバシストらの暗躍により実に華麗に片付き、母親の心も容易く元に戻してみせる。
 ルイズやシエスタらの場合も同様で、彼女らの望みはそれぞれの信者の尽力でことごとく叶えられているのであった。

(一体あのキモヲタどもは何者なんだ)

 物理法則とか文明レベルとかそういう類の決まりごとを、猛る情念と少女達への愛でことごとく突破していく男たち。
 その凄まじい勢いに薄ら寒さすら感じる才人ではあるが、もはやそんなことを考えても仕方がない。

「まああれだよ相棒。仮に相棒が物語の主人公だとすりゃ、あの連中は読者だったのさ。紙の上の人間は、それを読んでる人間には勝てんわな」

 などと、デルフリンガーは分かるような分からないようなことを嘯いたりしている。

「さてサイト、出発の号令を頼むよ」

 少し離れた場所にある副官席に座ったマリコルヌが、こちらを振り返ってまぶしそうに目を細める。才人の傍らのルイズを見ているのであろうことは、いちいち確かめなくても分かる。

「分かったよ。じゃ、オストラントⅦ世、星の海へ向けて出発」

 才人の命令を受けて、船内の各所から応答の声が上がる。少し経って船体が細かく振動し始め、ブリッジから見える景色がゆっくりと上昇していく。

「大丈夫でしょうか。なんだか少し怖い」

 傍らに立っていたシエスタが、怯えたように呟く。才人は笑って彼女を抱き寄せた。

「大丈夫だよ。何があったって、俺がついてる」
「サイトさん」

 腕の中のシエスタが、頬を赤らめる。船内各所でこの様子をモニターしているのであろうシエスタンたちが歓声を上げる様子が、目に浮かぶようだった。

(ま、これからどうなるかは分からんが)

 後で他の娘達にも何かかにかしてやってバランスを取らなきゃならん、と頭の隅で考えつつ、才人は肩を竦めた。

(俺は、この子らが不幸にならんように、ずっと頑張っていかなくちゃならねえんだろうな)

 外の景色が星の海に切り替わるのを眺めながら、才人は再び長く長く嘆息するのであった。



 この後も才人は五人の美少女と彼女らを信奉する男たちを引き連れて、宇宙やら別次元やらを次々と旅していくことになる。
 その過程で彼女らに別々の星を与えたやら別々の宇宙を与えたやら、そういうぶっ飛んだ逸話をいくつか残したらしいが、話の規模があまりにも馬鹿馬鹿しすぎて、どれが真実なのかはいまいち分からないのである。

 <了>
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