【ゼロ魔SS】俺のパンツを履いてくれ

昔某所に投稿したゼロの使い魔のSSです。
原作1桁巻の頃に書いたので設定が古いです。
 


『俺のパンツを履いてくれ』



 友人たちと愚にもつかない会話をしながら歩いている途中、才人は目を細めた。向こうの方に見える火の塔の影に、何か小さなものが落ちているのが見える。

「どうしたんだね」

 問うギーシュに、「なんか落ちてる」とだけ答え、才人は大股に歩いてその物体に近寄った。近づくにつれて、その物体が非常に懐かしい形をしているのが分かってきた。すぐそばで屈みこみ、取っ手の部分を持って持ち上げてみる。それは、地球では珍しくも何ともない、肩に下げるタイプのスポーツバッグであった。

「何だねそりゃ」
「変わった袋だな」
「ずいぶんと見慣れない形だけど」

 ギーシュとマリコルヌとレイナールが、スポーツバッグを覗き込んで口々に感想を言う。

(これ、どう見ても地球のもんだよな。ってことは、これも俺と同じで召喚されたのか?)

 周囲を見回してみるが、儀式の痕跡等は何も見当たらない。どうやら、これも過去の軍人や地球の物品などのように、何か偶然の作用が働いてハルケギニアに辿りついた品のようである。才人が地球へ帰る手がかりにはならなそうだ。
 少しだけ落胆しながら、何気なくバッグ中央部のジッパーを開く。その途端、周囲の三人が「おや」「おお」「うん?」と三者三様の声を上げた。驚きと興奮と疑問。だが、才人は声を上げることもなく、ただ目を見開いてバッグの中身を見つめていることしか出来なかった。



「で、結局何なんだねこれは」

 テーブルの上に置かれた黒い物体を指差して、ギーシュは顔をしかめた。ゼロ戦の格納庫の片隅である。拾ったバッグの中身の処置に困り、とりあえずいつもの溜まり場に持ち込んで取り出してみたのだった。
 才人はバッグの中身の一つである黒い物体を手に取り、懐かしさに目を細めながら説明した。

「ポラロイドカメラだよ」
「ポラ、なんだって? というか、君はこれのことを知ってるのかいサイト」
「ああ、使い方だって分かるさ。こうやって、こうだ」

 ポラロイドカメラを構えて、シャッターを押す。テーブルの上にある他の物品に手を伸ばしかけていたマリコルヌが、フラッシュの光に驚き、悲鳴を上げて手を引っ込めた。慌てて周囲を見回す。

「なんだ、雷か? でも外は晴れてたはずじゃ」
「雷じゃねえって。それより、見ろよこれ」

 才人は笑いながら、ポラロイドカメラから吐き出された写真をテーブルの上に放った。そこには、先程の情景が鮮明に映し出されている。テーブルの上に山と積もった物にこそこそと手を伸ばすマリコルヌ。ギーシュとレイナールが呆れた視線を飛ばす。

「マリコルヌ」
「いくらモテないからって、そこまで」
「違うよ、実際どんなものなのかと興味があっただけで」
「いやむしろ悲しいぞその言い訳」

 笑う才人の横で、「しかし」と呟いたレイナールが、興味深げに写真を手に取った。

「凄いなこれは。こんなに精密な模写が出来る画家は国中探したっていないかもしれないぜ」
「その黒い奴の中には絵が得意な妖精でも閉じ込めてあるのかね。そうか、さっき言ってたポラなんとかっていうのは妖精の名前だな」
「ちげーよ、これは絵じゃなくて写真だ、写真」
「この絵の名前か」
「いや、絵じゃねえんだって。まあ、説明すんのは難しいよ。俺だってカメラの仕組みが全部分かってる訳じゃねえしな」
「それはそうだな。こんなに絵の得意な妖精とそれを閉じ込めて自在に操る方法が知れ渡ったら、国中の画家がお払い箱になってしまう」
「カメラとやらのギルドのみに伝えられる秘伝の方法という訳か。すごいな、サイトは東方の出身だと言うけど、東方にはこんな凄いものがあるのか」
「いや、まあ、そうだな」

 感心しきった様子のギーシュたちが言っていることは、もちろん真実ではない。だがいちいち説明するのも面倒だったので、才人は黙っておいた。

「で、どうやって使うんだねこれは」
「ああ、まずそこの」
「あのさ」

 才人がカメラの使い方を説明しようとしたとき、マリコルヌが思い切ったような口調で言った。

「それも凄いけど、こっちも十分問題じゃないか、なあ」

 躊躇うように、マリコルヌがテーブルの上に乗っている他の物品を指差す。才人たちは顔を見合わせて、ため息を吐いた。
 バッグに入っていたのは、カメラだけではなかった。それと一緒に、大量の布きれが収まっていたのである。布きれには一般的な名称がついていて、その名称は才人たちというか健康な男子全般の胸に嬉しいような困ったような、そんな複雑な感情を呼び起こすものであった。
 女性用下着。すなわち、パンツである。
 テーブルの上に山盛りになったパンツの山を見下ろして、四人は難しい顔で腕組みをした。

「どうするんだ、これ」
「どうするったって、持ち主に返さないと」
「誰だよ持ち主って。大体、こんなの返されたらむしろ恥ずかしいんじゃないのかね」
「それにしても、何でパンツだけこんなに入ってるんだ」
「そりゃ着替えだろう」
「着替えなら他の服だって入っていなきゃならんだろう。パンツだけというのはおかしい」
「いや待て。ひょっとしたら東方には男も女もパンツだけで生活するという民族がいるのじゃあるまいか」
「そんな馬鹿な。いやしかしそれでなくては説明がつかないか」
「ということは、この辺りにパンツ一丁で歩き回っている女性がいると」
「ごめん僕ちょっとトイレに」
「君は実に分かりやすい奴だなマリコルヌ」

 あーでもねーこーでもねーと言い合っているギーシュたちを尻目に、才人は考え込む。

(間違いなく下着ドロのバッグだよなこれ。何でわざわざ戦利品を全部バッグに詰め込んでんのか分かんねーけど。まあ多分そういう性癖の持ち主だったんだろう。深く考えても仕方ねえからそれで納得しておこう。カメラも入ってたってことは盗撮癖があったのかそれとも下調べのためか。どっちでもいいか。そんなことより問題は、これをどうするかだな。持ち主に返すのは無理だし、返せたって下着ドロに盗んだ下着返す訳にはいかねえし。となると、これはどうにかして処分しなけりゃいけねえよな。売るか? いや無理だ。男ばっかりでこんなもん売りに行ったら間違いなくこっちが下着ドロ扱いされる。配るか? いやそれも同じか。参ったな、捨てて誰かに拾われるってのも何か嫌だし。埋めるか燃やすかするしかねえか。でもなんかもったいねえよな)

 パンツの山の処理法方に悩み続ける才人の横で、話し合いが一段落したらしいレイナールが、「それにしても」と無造作な手つきでパンツを一枚手に取って、しげしげと眺めた。

「変わったデザインの下着ばっかりだな」

 別段何でもなさそうな口調でそんなことを言う。レイナールが持っているやけに布地の少ない下着を見ながら才人も頷いた。

「ああ、確かに過激なのが多いみたいだけど」

 そこまで言いかけたとき、不意にマリコルヌが口を挟んできた。

「ちょっと待った」
「なんだい」

 マリコルヌは探るような眼差しでレイナールを見ながら、慎重に問うた。

「君、『普通の下着』がどんなのかなんて詳しく知ってるのか」

 当たり前だろそんなの、と突っ込みかけて、才人は留まった。

(ここは地球じゃないんだった。ハルケギニアには写真なんかねえから当然実写のエロ本も置いてねえだろうし、下着自体貴族しか使えないような高いもんらしいから、『普通の下着』がどんな物か詳しく知ろうとしたら、当然直接間近で見るしかない訳で)

 絵の春本の類ならあるかもしれないが、それではとても正確に知ることはできまい。増してや彼らはまだ子供と大人の境目とも言うべき学生身分で、その上貴族のお坊ちゃん。街に出かける機会自体がそんなにないことも加味すれば、女物の下着などまじまじと見る機会などそうないはずだ。マリコルヌが興味津々にこのパンツの山に手を伸ばしていたのも、劣情をそそられたと言うよりは実際それらが珍しかったせいなのだろう。彼らにとって、女物の下着とは非常に興味をそそられながらもなかなか実態を知ることができない、未知の物体なのだ。
 だが、例外もいるらしい。その例外の代表らしいレイナールは、妙に緊張した様子のマリコルヌを見て不思議そうに頷いた。

「そりゃ知ってるさ。この年になれば当たり前だろう」
「ちょっと待て貴様」

 マリコルヌが唐突に剣呑な気配を発し始めた。

「それはつまり生で見たことがあるということですか」
「ないのかい」

 レイナールは不思議そうに聞き返した。馬鹿にするような雰囲気ではなく、本当に、心の底から不思議でならないという顔つきである。
 だが言われた本人にとっては逆にその方が気に障ったらしい。マリコルヌはおもむろに杖を取り出した。

「レイナール、君との友情も今日までだ。どうやら僕は君に決闘を挑まなければならなくなったらしい」
「どうしたんだい急に」
「うるさい、いいから杖を取るんだこの眼鏡野郎め。貴様いかにも女には興味がありませんって顔して抜け駆けしやがって。言えよ、一体いつ済ませたんだ。まさか入学する前からじゃないだろうな」
「そんなの覚えてる訳がないだろう。ええと、五年以上前だったのは確かだけど」
「ごねっ、貴様、そんな昔から女ったらしだったのか」
「いや、別に大して興味はないけど。貴族たるもの、やり方を知らなければ困るだろう将来」
「何だその事務的と言うか合理的な考え方。っつーか相手は誰だ相手は」
「どうだったかな。何人かいた、と思う。数は覚えてない」
「そんなふしだらな。好きでもない女をとっかえひっかえ」
「人聞きが悪いなあ。婚約者とうまくいかなくて世継ぎが出来なかったら困るんだし、あらかじめうまいやり方を教えてもらうのは貴族として当然の義務じゃないか」
「義務って。それに、婚約者って、そんなんいるのかよ!」
「ああ。ここを卒業して貴族として一人前になったら結婚する予定だけど。いないのかい、婚約者。普通いるだろ、貴族なら」

 マリコルヌががくりと膝を突く。手から杖が滑り落ちた。重傷である。ギーシュが慌てて駆け寄り、白目を剥いているマリコルヌの頬を何発か張り飛ばして無理矢理意識を取り戻させた。

「しっかりしろマリコルヌ、傷は浅いぞ」
「ああ、ギーシュ。僕はもう駄目だ」

 腫れ上がった頬に涙の筋を作りながら、マリコルヌは掠れた声で嘆く。

「貴族なら当然。そりゃそうだよな、貴族ならさ。でも僕婚約者いないんだ。貴族のはずなのに。おかしいよねギーシュ。僕って貴族じゃなかったのかな。貴族の夢見てる豚だったのかな」
「気をしっかり持てよマリコルヌ。確かに君は豚かもしれないが、貴族は貴族だよ。きっと。多分。たまに自信がなくなるけど。それにほら、僕だって婚約者はいないし」
「慰めはよしてくれよギーシュ。君にはモンモランシーがいるじゃないか。最近は特に急接近していると評判なんだ、もう済ませているしパンツも拝見済みなんだろう。ああ、僕は一人ぼっちだ」

 この世の不幸を一身に背負ったような顔つきで、マリコルヌは泣き崩れる。ギーシュはうつむき、少しの間何かを考えていたが、やがて決然とした表情で顔を上げた。

「君は誤解しているぞ、マリコルヌ」
「なにが」
「まだなんだ」
「だから、なにがさ」
「僕はまだ、モンモランシーとはそういうことをしていない!」

 その叫びは格納庫の壁を揺り動かした。おそらく学院中に響いているに違いない。呆然と目を見開くマリコルヌに、ギーシュは爽やかな笑顔を見せた。

「だから彼女のパンツを見たことなんて一度もないんだ。安心しろよマリコルヌ。僕も君の仲間さ」
「おお、ギーシュ。すまない、僕は誤解していたようだ」
「いいんだよマリコルヌ。僕と君の友情は始まったばかりさ」
「ギーシュ」
「マリコルヌ」

 三枚目とデブが涙を流しながらがしっと抱き合う。「友情って素晴らしいな」と棒読みで呟きながら、才人はレイナールに問うた。

「どうすりゃいいかな、これ」
「さてね。持ち主に返せれば、それが一番いいんだろうけど」
「そりゃ多分、いや確実に無理だと思う」
「だったらお手上げだな」

 パンツの山を見下ろしながら、レイナールは肩をすくめた。

「大体にして、女性の下着ってのは高価なもので、貴族の持ち物なんだよ。東方ではそうじゃなかったのかい」

 才人が頷くと、レイナールは眼鏡を指で押し上げながら解説した。

「金銭的な余裕のない平民じゃ、たとえ古着屋にあったって買いやしないさ。だからって貴族の奥方やお嬢様方が、他人のお古なんか使う訳もない」
「要するに、こいつの使い道はないってことか」
「まあね。ああ、いや、才人、君なら有効に使えるんじゃないか」
「どういうことよ」

 才人が眉をひそめると、レイナールはいかにも名案を思いついたと言いたげな晴れがましい笑顔で答えた。

「君のご主人様かあのメイドに新品だと偽ってプレゼントすればいい。喜ばれるんじゃないかな」
「喜ばれる訳ねえだろ。馬鹿なこと言うねお前も」

 てっきり冗談だと思って才人が苦笑すると、レイナールは驚いたように目を丸くした。

「どうして。大丈夫だろ、君は好かれてるみたいだし、贈り物をすればきっと喜んでくれるよ」
「いやそうじゃなくてな。男から下着贈るって、なんかアレじゃないか。何を要求してるか見え見えっぽいっつーか」
「何を要求って、『喜んでほしい』ってことだろ。プレゼントするんだし」
「いやでもパンツだぜパンツ」
「服をプレゼントするのはそんなに変なことじゃないだろう」

 才人は天を仰いだ。格納庫の天井の汚れを何秒か数えた後、おもむろに視線を戻す。レイナールは大真面目な顔をしていた。

(俺が変なのか? 女に下着を贈るってのは、この世界じゃ一般的なことなのか?)

 そうであると仮定して、想像してみた。

「なあルイズ」
「なによ犬」
「これ、俺からのプレゼント。日頃の感謝を込めて」
「わあ、可愛いパンツ」
「一生懸命選んだぜ。ルイズに似合うと思ってさ」
「ありがとうサイト、早速履いてみるね。どう、似合う?」
「ああ、似合うよ。いや全く、ルイズは俺の女神様だなあ」
「やだもうサイトったら、人をおだてるのが上手なんだから」
「あははは」
「うふふふ」

 想像終了。
 才人は一つ頷いた。

(あり得ねえな。っつーかこんなこと考える自分が悲しくなるぜ)

 才人は再びレイナールに目を戻した。やはり、大真面目な顔である。自分がおかしなことを言っているとは微塵にも思っていないらしい。

(婚約者がいる、とか言ってたっけ。俺らが女のことで騒いでるときも興味なさげな顔してたし、元々性欲とか薄い奴なのかもしれねえな。で、そういう条件が重なってますます女のことなんか考えなくなった結果、こうなったと)

 一人で納得しつつ、才人は首を横に振ってみせた。

「そのアイディアは没だぜレイナール」
「どうしてだい」
「それが分かったとき、お前は人間として一歩成長することになるだろう」
「よく分からないが」
「そこをよく考えるんだ。考えれば女にパンツをプレゼントなんて馬鹿な発想は」

 教師のような口調で諭していたそのとき、才人の頭の片隅に強烈な閃きが走った。その強烈なエネルギーを糧として、ずっと前から久しく使われていなかった脳味噌のある部位が急激に活動を再開する。
 ルイズ。プレゼント。カメラ。そして、パンツ。これらにマリコルヌとシルフィードを加えれば。多くの不揃いなパーツが才人の脳の中で次々に加工され、急速に一つの形に組み上げられていく。

「いける」
「何が」

 確信を持って呟く才人に、不思議そうな顔のレイナールが問いかける。才人は自信に満ちた笑みを浮かべた。

「資金確保のチャンスだぞ、レイナール」



 ルイズは疲れていた。その日の授業の内容が、少し発展した錬金の実習だったためである。虚無系統の魔法に目覚めたと言っても、他の系統の魔法が使えるようになった訳ではない。だから、実習の授業は相変わらずルイズにとっては苦難の場なのであった。いや、努力しても他の系統の魔法が使える訳ではないとはっきり分かった今となっては、むしろ前より苦痛が増している。
 それでも努力を怠らないルイズは、今日も今日とてシュヴルーズがやんわり止めるのを振り切って錬金に挑戦し、何回目になるか分からない教室爆破回数の記録を更新したのであった。ド・エレーヌが「これで~回目だぜ」とか笑っていたので後で爆発頭にしてやろうと思っている。
 そういった諸々のことで疲れ果てていたルイズは、部屋に帰ったら夕飯まで何もせずのんびり休んでいようと考えていた。だが、彼女は部屋の前で言葉もなく立ち尽くすこととなった。

「すまねえ、ルイズ」

 部屋の中でうなだれている才人が、申し訳なさそうにそう言ってくる。隣には困惑した様子のシエスタが立って、こちらの反応を窺っている。ルイズは二人には何も答えず、ふらふらと部屋の中に足を踏み入れた。そして、絶叫。

「なんなのよこれは」

 ルイズの部屋は滅茶苦茶に荒らされていた。荒らされていた、と言っても誰かが暴れて物が壊されているという意味ではない。机の引き出しが根こそぎ引き抜かれ、クローゼットも中身がごっそりと無くなっている。他にもそこそこ値打ちのある物が数点無くなっているようであった。物取りに荒らされたらしいことは明らかだ。
 予想出来るはずもなかった部屋の惨状に、数秒ほども頭が真っ白になる。が、やがて幾分か事態が飲み込めてくると、腹の底からふつふつと怒りが湧いてきた。ルイズは申し訳なさそうにうなだれている才人に向き直り、思い切り怒鳴りつけた。

「あんた、ご主人様の部屋が好き勝手に荒らされてたってのに、どこで何やってたのよ」
「すまねえ、ゼロ戦の調子を見ようと思って少し部屋を空けてる間に入り込まれたみたいで。でもホントにちょっとの間だけで」

 そこまで言いかけて、才人は不意に口を噤んだ。

「いや、言い訳にはならねえよな。すまんルイズ、俺の責任だ」
「よく分かってんじゃないの」
「とりあえず早く犯人を捜して盗まれた物を取り返すことにするよ」
「当然でしょ。ま、お仕置きはそれまで待ってあげるわ。どうやらあんた用の鞭も盗まれてるみたいだし」

 ルイズがちらりと部屋の片隅、すなわちいつも鞭が置いてある場所に目をやると、才人は顔を引きつらせて身震いした。これで脅しは十分だろう。そのとき、話が一段落したのを好機と見て取ったか、シエスタが遠慮がちに口を挟んできた。

「あの、ミス・ヴァリエール。今夜はどういたしましょう。服、ほとんど盗まれちゃってるみたいなんですけど」
「え、本当?」
「はい。特に下着類は根こそぎ」
「うええ、気持ち悪い」

 ルイズは顔をしかめた。犯人は変質者なのかもしれない。今頃自分の服がどんな風に扱われているか想像すると、取り返したいという気持ち自体が萎えてくる。
 だが、今はそのことよりも今夜のことを考えるべきだろう。ルイズは腕組みして唸った。

「どうしようかしらね。さすがに制服のまま寝るっていうのは嫌だし」
「わたしの服でよければお貸ししますけど」
「それは嫌」

 ルイズが即答すると、シエスタもすぐに「そうですよね」と笑顔で応じた。

「余っちゃいますもんね、どことは言いませんけど、一部分が」
「あんた最初からわたしの答えを想定して言ったでしょ」

 余裕の笑みを返そうとしたら頬が引きつった。そうしていつもどおり不穏な空気が生まれようとしたところで、不意に才人が二人の間に割って入った。

「服のことなんだけどさ」
「なによ」
「困るだろうと思ったから、街までひとっ走りして買ってきたんだけど」

 ルイズは眉を上げた。

「あんたにしちゃ随分気が利いてるじゃない」
「今回のことは明らかに俺の責任だしな。そのぐらいはするよ」

 才人は部屋の隅から小さな櫃を引っ張り出してきた。どうやら、既に部屋に運び込んでおいて、出すタイミングを窺っていたようである。蓋を開けて中を覗き込むと、大して高価には見えないもののそれほど見苦しくもない服がニ、三着ほど畳んでしまいこまれていた。

「へえ。あんたのことだからまたいやらしい服でも買ってきたんじゃないかと思ったけど」
「だから反省してるんだよ俺も」
「どうかしらね。ま、お仕置きのほうは少し軽めにしてあげても」

 試しに一番上の服を引っ張り出したルイズは、その下にあったものを見て硬直した。上にニ、三着服が置かれていたために見えなかったが、その下には見慣れないデザインの下着が何枚か畳まれていたのであった。ルイズは無言で服を戻すと、きょとんとしている才人の襟首を引っつかんだ。

「前言撤回。どうやらあんたには今まで以上にきっついお仕置きをしてあげなくちゃならないみたいね」
「ちょ、待ってくれよルイズ。俺、なんかまずいことしたのか」

 才人は何故自分が主人を怒らせているのかまるで分かっていない様子である。それがますます怒りを煽り立てる。ルイズは目の前の阿呆の顔を何発殴ったら謝罪の言葉が引き出せるだろうかと計算し始めた。その計算が終わる前に、シエスタが背後で叫んだ。

「まあ、なんですかこれ」

 振り向くと、シエスタが例の見慣れない下着を何枚か手に取っていた。顔が赤いのは、その下着の布地が明らかに少なすぎたり、あるいは無闇に透ける生地で作られているせいだろう。

「なにって、パンツだけど」

 才人がさらりと答える。シエスタの慌てぶりとは対照的に、いたって平静というかほとんどとぼけているようにしか見えない。

(殴ろう)

 ルイズは拳を固めて腕を振り上げた。蒼ざめた才人が両手で頭を庇う。

「だから待てって。せめて俺が殴られるべき正当な理由を教えてくれよ」
「あんたね、あんな物買ってきといて白切ろうとはいい度胸じゃないの」
「あんな物って、俺が買ってきた服になんか問題があったのか」

 才人はまるで訳が分からないという様子で、少なくともこちらが怒っているのを見て楽しんでいるようには見えなかった。

「あの、ミス・ヴァリエール」

 シエスタが背中を突いたので、ルイズは仕方なく才人を解放した。急き込む彼のことは放っておいて、メイドの少女と顔を突き合わせる。

「ひょっとして、サイトさん本当に分かっていらっしゃらないんじゃないでしょうか」
「どういうことよ」
「ほら、サイトさんって他の世界の人なんでしょう。ひょっとしたら、サイトさんの世界ではこういう布地の少ない下着が一般的なのかも」
「そんな馬鹿な話がある訳ないでしょうが」
「分かりませんよそんなこと。だって、あの『竜の羽衣』だって、わたしたちの常識では考えられないものだったじゃないですか。それに、サイトさんの世界とわたしたちの世界じゃ、服装だって随分違うみたいですし」

 ルイズはちらりと才人を見る。確かに、彼がいつも着ている「パーカー」というらしい服は、これまで見てきたどんな服とも違っていた。素材はもちろん、その構造や外見もである。今は慣れたが、最初の頃はずいぶん珍妙に見えたものだ。だが、才人の世界ではそれはごく一般的な服装であるという。

「だからって、あんないやらしい下着が普通だなんて」
「サイトさんにとっては特にいやらしくもない下着なんじゃないですか。だって、もしもそうだとしたら、あのサイトさんがあんな平静に振舞えるはずありませんよ。絶対にやけるとか顔が赤くなるか目をそらすとか、そういう風になるはずです」
「そりゃ、そうかもしれないけど」

 才人は嘘を吐くのがあまり上手くない。ルイズ自身察しがいい訳ではないが、彼が嘘を吐くときはどこかしら様子がおかしいと感じていたものである。だが、今の才人には特におかしなところなど感じられない。

(ってことは、あいつ、本当にこの下着に対して変な感情は持ってないっていうの)

 ルイズは改めて才人を凝視した。何故自分がこうも疑われているのか、全く理解できていない表情。どれだけ見つめていようが、その表情が崩れることはない。どうやら本当に、下心はないらしい。だがどうにも納得できかねたので、ルイズはいくつか質問してみることにした。

「サイト、あんた、これどこで買ってきたの」
「どこって、そりゃ古着屋だよ」

 そう言ってから、才人は慌てたように腕を振った。

「いや、そこに関しては怒んないでくれよ。俺の手持ちの金じゃ新品の服なんてとても高くて手が出せなかったんだからさ。ほとんど全財産はたいて、ようやっとそれだけ揃えたんだぜ」
「それはまあ別にいいわ。本当は大いに問題ありだけど、仕方ないから我慢してあげる。それより、これ買うとき変な目で見られたりしなかったでしょうね」
「そうだなあ」

 才人は腕組みしてしばらく考えたあと、困ったように首を傾げた。

「別に、変なことなんてなかったと思うけど。普通に金出して、普通に服買っただけだぜ」
「本当でしょうね」
「ああ。あ、でも、なんか特別な品だとは言ってたな、それ。服何着か買いたいけど金がなくて困ってるって言ったら、誰も買ってくれなくて処分に困ってる服があるから安く譲ってやるとかなんとか」

 ルイズはため息を吐いた。

(要するに、こんなはしたないデザインの下着なんか誰も買ってくれなくて売れ残ってたところに、のこのこカモがやってきたから『捨てるよりゃマシだ』って言って売りつけた訳ね)

 だが、まだ完全に納得することはできない。ルイズは櫃の中に手を突っ込んで、特にきわどい外見の下着を数枚取り出すと、才人の眼前に突きつけてみた。

「あんた、これ見てどう思う」
「どうって」

 才人は目の前の下着をしげしげと眺めた後、こちらがどういうリアクションを期待しているのか全く分かっていない自信なさげな表情で、ぽつりと呟いた。

「パンツだなあ、と」
「そうね、パンツね。パンツよね。パンツだわ」

 ルイズは歯噛みした。どうやらこの男はこういうデザインの下着が非常にいやらしくて履くのも躊躇うようなデザインだということが本気で分かっていないらしかった。いっそ「これわたしが履いたらどんな感じになるか想像してみなさい」だとか言って、自分が買ってきた物体を再評価させてやりたい気分になったが、こっちも恥ずかしくなりそうなので実行するのは躊躇われる。
 シエスタがまた背中を突いてきた。

「ミス・ヴァリエール。あんまり怒るとサイトさんが可哀想ですよ」
「でも」
「サイトさん、本当に分かってないみたいですし。ミス・ヴァリエールのことを考えてしたことなんですから、許してあげましょうよ」

 そう言われると、うまく怒りを発散できなくなってしまうルイズである。確かに、買ってきた下着に問題があるという点を除けば、才人の行動は主人のことを一番に考えてのことだとも言える。「代わりの服を買う前に犯人を捜せ」と言いたいところではあるが、目の前で神妙な顔をしている使い魔を見ると、そうする気もまた萎えてくるのだ。
 煩悶の末にとうとう観念し、ルイズは深いため息を吐き出した。

「分かったわ。とりあえず、あんたは犯人を捜して出来る限り早くわたしの持ち物を取り返すこと。部屋の片付けはシエスタにやってもらうから」
「おう。任しといてくれ。泥棒に入られた責任、きっちり取ってみせるぜ」

 真剣な表情で頷いた才人が出て行ったあとで、「それにしても」とシエスタが下着を一枚つまんで、また頬を染めた。

「すごいですねこれ。もうほとんど下着じゃないですよ。むしろ紐というか」
「誰が考えたのかしらねこんなの」
「さあ。だけど」

 シエスタは先程よりも更に頬を染めると、ちらりと探るような視線を送ってきた。

「あの。これ、一枚頂いてもいいですか」
「何を企んでるのかしら、あんたは」

 じろりと睨むと、シエスタは恥らうように視線をそらした。

「企んでるだなんてそんな、人聞きの悪い。わたしはただ、サイトさんにこの世界の常識について学んでいただきたいなあと」
「要するにそれ履いてサイトを誘惑しようって訳ね。なんていやらしいのかしら。あんたの頭の中は相変わらず春真っ盛りみたいね」
「だって、これ履くんでしょうミス・ヴァリエールは」
「履かないわよ」
「え、履かないんですか」
「別に、下着なんて一日ぐらい換えなくたって」
「不潔」

 シエスタの眼差しにじっとりとした軽蔑の念が宿る。ルイズの口元が引きつった。

「ごめん、よく聞こえなかったわ。もういっぺん言ってみてくれる」
「不潔。不衛生。ばっちいです」
「あんたね」
「わたしのような村娘ならともかく、貴族であるミス・ヴァリエールが下着も換えないなんて。不潔です。サイトさんも幻滅するだろうなあ」

 それを言われると弱いルイズである。こんな奇抜すぎるデザインの下着を履くのは躊躇われるが、さすがに誰かに下着を借りるというのもどうも躊躇われる訳で。

「まあ、あいつが犯人捕まえて服取り返すまでの間だけだし」

 結局、ルイズは妥協することにした。すると、シエスタもいい笑顔を見せて下着を一枚掻っ攫う。

「じゃあ、わたしもこれ頂きますね。ミス・ヴァリエール一人に恥ずかしい思いをさせる訳にはいきませんし」
「あらありがとうシエスタ。わたしあなたの友情に感動して涙が出ちゃいそうだわ」
「いえいえそれ程のことでも」

 互いを牽制するように視線をぶつけ合いながら、二人はしばらくの間笑い続けた。



 ルイズの部屋を飛び出した才人は、その勢いを衰えさせないまま階段を駆け下り、黄昏時の広場を一気に駆け抜けてゼロ戦格納庫の中に飛び込んだ。隅っこのテーブルに集まっていた仲間たちが一斉に振り返る。才人は彼らのすぐそばまで走り抜け、固唾を飲む仲間たちに向かって親指を立ててみせた。

「成功だ。後は撮るだけだぜ」

 ギーシュとマリコルヌが歓声を上げる。レイナールも「やれやれ」と呟きながら肩を竦めた。

「大丈夫なんだろうな、サイト。ばれたらひどいことになるぜ、君」
「安心しろよ。この日のために何日も準備してきたんだぜ。ルイズは俺があのパンツのことを何にも思ってないと信じ込んでるはずさ」
「それならいいけどね」
「で、そっちの準備は大丈夫なんだろうな」
「任しておいてくれよ」

 ギーシュがカメラを、マリコルヌが杖を構えて自信ありげに笑う。レイナールも頷いた。

「こっちも何とかなった。彼女のお眼鏡に適う肉を用意するのには骨が折れたけどね。何も言わずに協力してくれるそうだよ」
「よし。それじゃ、決行は明日だ。いいか皆、しくじるんじゃねえぞ」
「おうとも」
「任せてくれ」
「心配はいらないさ」

 才人の声に、他の三人がそれぞれの声音で応じた。
 翌日の昼時、ゼロ戦の格納庫の前に立った才人は、午前の授業が終わったことを告げる鐘の音を、やや緊張しながら聞いていた。間もなく、犯人捜しの進展を聞きにルイズがやって来るはずである。そのときが、彼らの決戦のときだった。
 上空を見上げて目を細める。こちらからぎりぎり見えるか見えないかの高度に、小さな点のようなものが見える。遥か上空で滞空しているシルフィードである。レイナールの言ったとおり、最上級の肉につられて嬉々としてこちらに協力しているものらしい。その背には、カメラを持ったギーシュと、杖を構えたマリコルヌが乗っているはずだった。
 格納庫の中に目をやると、壁のそばに控えたレイナールが頷き返してきた。外からでは見えない位置である。その手には、やはり杖が握られている。

(頼むぜ、皆)

 そのとき、広場の向こう側に小柄なシルエットが現れた。ルイズである。少し周囲を見ましてこちらに気付いたらしく、小走りに駆けてくる。才人は彼女に向かって大きく手を振った。それが、作戦開始の合図だった。



 大地から遠く離れた空の上、地上とは比較にならない勢いで吹き荒れる風になぶられながら、シルフィードの背に跨ったギーシュとマリコルヌは、ただじっと時を待っていた。カメラを手にしたギーシュが普段はタバサの定位置である背びれの辺りに陣取り、マリコルヌはそのすぐ後ろで杖を構えている。「遠見」の魔法で、眼下の格納庫付近の様子を観察しているのである。

「もうすぐだな」

 マリコルヌの呟きに、ギーシュは無言で頷き返した。このときのために、直前の授業をさぼってまでこんなところにいるのである。気合は十分だった。十分すぎると言ってもいい。カメラを握る手にも力が入る。

(そうだ。僕は、今日こそ)

 今日こそ、何なのだろう。ギーシュは心の中で苦笑した。気合が入りすぎて意味のないことを力いっぱい考えてしまっているようだ。

「しかし、意外だったな」

 おかしそうな声に振り返ると、マリコルヌがこちらを見て笑っていた。

「まさか、ギーシュほどの男がパンツを見たことがないだなんて。何人もの女の子と交際していたじゃあないか。どうしてだい」

 一瞬答えが浮かばずに、ギーシュは気まずくなって目をそらす。少し考えてから、友人に笑いかけた。

「ほら、僕は紳士だからね。本当に愛している女の子以外に、そういうことはしたくなかったのさ」
「ちぇ、選択肢のある奴は羨ましいよ、全く」

 ひがむように口を尖らせたあと、マリコルヌは「まあいいさ」と唇をつり上げた。

「今日ばかりはそういう発言もどうでもいい。なんたって、パンツが見られるんだからね。それも、ただのパンツじゃない。ルイズのパンツだ。しかもあんな大胆かつ過激な。ああ駄目だ。想像しただけで鼻が熱くなってくるよ」

 マリコルヌの顔がどんどんにやけていく。そのしまりのない表情を見て、何故かギーシュは羨ましいと感じた。

「ねえねえ」

 不意にシルフィードが会話に割り込んできた。

「何のお話してるの。パンツがどうしたの。シルフィにもお話して。きゅいきゅい」
「悪いがこれは男同士の話なんだ。女性は黙っていてくれたまえ」

 やたらと尊大な口調で言い返した後、マリコルヌは不意に目を鋭くして叫んだ。

「ギーシュ、合図が来たぞ」

 ギーシュも口を引き結んで頷き返す。

「きゅいきゅい。合図って何なの、何なの」

 ただ一人、詳しい事情を知らないシルフィードが、首を動かしてこちらを覗き込んでくる。ギーシュは苦笑混じりに答えた。

「後で教えてあげるとも。それより、段取りは分かっているね」
「んーと、ギーシュさまが『今だ』って言ったら広場全体に上に吹き上がる風を起こせばいいのよね。それでお肉がたくさんもらえるんだったらお安い御用なの。きゅいきゅい」
「うむ、頼むよ。マリコルヌ、まだかい」
「そろそろだ。ルイズが近づいてきた。ギーシュ、カメラの用意を」
「了解だ」

 ギーシュは少し上半身を乗り出して、手に持ったポラロイドカメラを下に向けた。とは言え、ここは空の上である。覗き窓の中に写るのは、ほとんど玩具のようにしか見えないほど小さくなった学院の全景と、その周囲に広がる緑豊かな大地だけだ。それを撮るのもそれはそれで趣があるかもしれないが、もちろん今の彼らの目的はそれではない。ギーシュは一度ファインダーから目を離し、肩越し
にマリコルヌを振り返る。

「いいぞ、マリコルヌ。接続を開始してくれ」
「分かった」

 普段の彼からでは想像もつかないほど真剣な表情で頷いたマリコルヌは、すっと目を瞑って静かに詠唱を始めた。「遠見」の魔法である。本来、この魔法は先ほどマリコルヌがやっていたように、自分が遠くのものを見るために用いる。だが、魔法を知らぬ才人が提案した「遠見」の活用法は、その本来の使用法とは全く異なるものであった。

「カメラに『遠見』をかけて、遠くのものを写すことはできないのか」

 誰も試したことのない方法だった。そもそもカメラというもの自体、ギーシュたちにとっては未知の物体である。だが、試しにやってみたところ、ファインダーは遥か遠くの梢に止まっていた小鳥の姿を鮮明に写し出した。こうして実験は成功し、作戦は実行可能となったのである。
 詠唱を終えたマリコルヌが、杖の先をカメラに向ける。ギーシュは再びファインダーを覗き込んだ。
 すると、草の間を縫うように行進する蟻の姿が映し出された。

「近すぎるぞマリコルヌ」
「分かった」

 ファインダーの中の風景が遠ざかる。隅に写っているベンチの大きさからするに、もう少し近づけなければ目当てのものは捉えきれないはずである。
「マリコルヌ、あともう少し近づけてくれ。ああ、ダメだ、近すぎる。もう少し……今度は離れすぎだ」

 細かすぎる要求に従って、風景が近づいたり遠ざかったりする。ファインダーに釘付けになっているギーシュには見えないが、今マリコルヌは全身全霊をかけて「遠見」の魔法を使っているはずである。だが、それでもなかなか適正な距離にならない。この数日間、自由な時間をほぼ「遠見」の魔法の練習に費やしてきた彼だったが、やはりベストな位置に視界を持っていくのはなかなか難しいらしい。だが、やってもらわなければ困るのだ。
 そのとき、四角く区切られた視界の隅に、小走りに駆けるルイズの後頭部が映りこんだ。ギーシュは息を飲み、慎重にカメラの角度を微調整する。視界がルイズのマントの上をゆっくりと滑り、ついに尻の辺りを中央に捉えた。
 だが、それだけではまだ足りない。この数日間死に物狂いで鍛えぬいた腕を発揮して、ファインダー越しに走るルイズの尻を追う。完璧なカメラワークだ。これならば、作戦の遂行は容易いに違いない。
 だと言うのに、何故「今だ」と声を上げられないのか。

(どうした、早くするんだギーシュ・ド・グラモン。お前がしっかりしないと全てが台無しになってしまうんだぞ)

 手の平に汗が滲む。腕の震えが四角い世界をぐらつかせる。呼吸が荒くなり、痛いほどに喉が渇く。求め続けた獲物をファインダーの中に追いつめたというのに、どうしても合図の声を上げることができない。体のどこかから発生した鈍い痛みが、ゆっくりと全身に広がっていく。ギーシュは動けなくなった。

(緊張しているのか。違う、僕は怖がっているんだ)

 急に寒くなってきた。四肢の感覚が消え失せてしまうほどの凄まじい悪寒が、全身の至るところで暴れまわる。ギーシュは心の中で悲鳴を上げた。

(何を怖がる。何を恐れているんだギーシュ・ド・グラモン。お前はモテる男のはずだろ。今までだって何人もの女の子と親しい関係になってきたじゃないか。自信を持つんだ、僕ならやれる)

 しかし心は定まらない。荒れ狂う嵐の真ん中に放り出された木の葉のように、ただただ恐怖に翻弄されるばかり。

(駄目だ、怖い。どうしてだ。何故なんだ。僕は何を恐れているんだ)

 何度も必死で問いかける内に、胸の奥から何かが浮き上がってきた。初めて自覚したその感情に、ギーシュは驚愕する。

(いや、違う。僕は、この感情を知っている。ただ、今まで目をそらしていただけだ)

 それは、心の奥底に深く沈められていた、ギーシュの本当の気持ちだった。それを覆い隠し、押し留めていた虚勢という名の膜は、極限状態で破れてしまった。遮るものもなく真っ直ぐに、生々しいべたついた感情がギーシュの意識に飛び込んでくる。

(僕はパンツを見るのが怖い。僕にとってパンツというのが未知の存在だからだ。僕はパンツを見たことがない。見ようとしたこともない。怖かったからだ。キスまではうまくやれても、それから先のことをうまくやる自信がなかったんだ。だって、パンツなんだぞ。パンツを見たらもう最後なんだ。最後までやらなくちゃならないんだ。それを知っていたからこそ、僕はあえてパンツを見たいとは思わないようにしていた。『僕は紳士だから』なんて言って誤魔化していたけど、違ったんだ。僕は怖かったんだ。ただ怖かっただけなんだ。僕は、パンツを見るのが怖い)

 鎧が剥がされ、吹き飛ばされていく。今やすっかり無防備となった心に、風は容赦なく吹きつける。

(そうだ、僕はパンツを見るのが怖かった。だから出来る限りパンツを見ないで、それでいてプレイボーイとしての面目が保てるように、必死で取り繕ってきたんだ。でも、それも今となっては不可能になってしまった)

 ギーシュの脳裏に、一人の少女の姿が浮かび上がる。見事な巻き毛の、金髪少女。愛しいモンモランシー。

(僕はモンモランシーが大好きだ! 愛していると言ってもいい。彼女を思い切り抱きしめたい。と言うか抱きたい。でも自信がない。うまくやれなくてモンモランシーに幻滅されたら、僕はおしまいだ。色男の仮面は剥がれ落ちて、残るのはパンツも見れない情けない男だけだ。だから、まだ他の女の子に気がある振りをしたり、折角のいい雰囲気を間抜けな言動でぶち壊したりしてきた。そうすることで、顔はいいけどお間抜けなギーシュ・ド・グラモンの仮面を守り続けてきた。でももうそんなのは嫌だった。モンモランシーを抱きたかった。だから、僕はこの計画に参加して、自分が恐れずにパンツを見ることができる男だと証明したかった。自信が欲しかったんだ)

 極限状態に置かれて、ギーシュはようやく己の本心に気付くことができた。
 だが、もう遅い。暴かれた本当の気持ちは、目の前の現実に対してあまりにも無力だった。パンツを見るのを恐れていては、作戦の遂行など幻想に過ぎない。
 こみ上げてくる涙を拭うことも出来ずに、ただぎゅっと目を閉じた。

「ギーシュ、まだなのか、早くしてくれ」
「ねえねえ、まだなのギーシュさま。きゅいきゅい」

 マリコルヌとシルフィードの喚き声が、じょじょに遠ざかっていく。



(駄目だ、僕には無理だ! 助けて、誰か、助けてくれ!)

 気がつけば、ギーシュは暗闇の中で泣きわめていた。無力感で胸が張り裂けそうだった。

(ああ、駄目だった。やっぱり僕は、優秀な兄さんたちとは違う。貴族の風上にも置けない落ちこぼれだったんだ。プレイボーイを自認しておきながら女の子のパンツ一枚見ることができないだなんて、色男揃いと名高いグラモン家の恥さらしだ)

 そんな風に嘆いていたとき、懐かしい誰かが、ふとギーシュの耳元で囁いた。

「何だ、まためそめそ泣いているのか、ギーシュ」

 顔を上げると、兄がいた。軍人らしくない、気さくな微笑みを浮かべた三番目の兄。
 驚いて周りを見回すと、そこはもう暗闇ではなく、懐かしいグラモン邸の中庭の片隅であった。咲き誇る薔薇の香に囲まれたそこで、子供の頃のギーシュはよく泣いていたのだ。

「どうした、また誰かに『口だけの弱虫』とかっていじめられたのか」

 兄が隣に腰掛ける。ギーシュはしゃくり上げながら首を振った。

「違うのか。じゃ、どうしたんだ」
「兄さん」

 ギーシュは兄の顔を見上げた。自分とよく似て、線が細い、整った顔立ち。だが兄が自分と違うのは、やることなすこと何もかもが様になって見えるところだった。色素の薄い唇は穏やかな微笑を浮かべ、人の心に染み入る詩を澱みなく謳い上げる。細く繊細な指先は軽やかにリュートを爪弾き、優雅に髪をかき上げる。見る者全てをはっとさせるような所作の一つ一つが、多くの女性の心を捉えて離さないのだ。
 彼ならば、自分の疑問に対する答えを持っているかもしれない。ギーシュは兄の瞳を真っ向から見据え、決死の覚悟で問うた。

「パンツとは、何ですか」

 兄は一瞬驚いたように目を見開いたあと、感慨深げな微笑を浮かべ、じっとギーシュの顔を見つめ返した。

「そうか。お前も、もうそんな年か」

 しみじみと呟いたあと、ふと遠い目で彼方を見やる。その視線を追って振り向くと、ずっと向こうの地平線に沈みゆく夕日が見えた。彼らはいつしか、穏やかな風の吹く夕暮れの草原に佇んでいたのだ。

「パンツ。パンツか」

 どう答えたものかと考えるように、兄は細い指で顎を撫でた。長い金髪を風に遊ばせながらしばし熟考した後、「ふむ」と一つ頷いて答える。

「そうだな。言うなれば、甘き蜜溢るる至高の楽園へと続く、最後の扉といったところかな」

 その言葉は、圧倒的な余韻を持ってギーシュの胸に浸透した。
 甘き蜜溢るる至高の楽園へと続く、最後の扉。

(なんて詩的なんだ。やっぱり兄さんは凄い。誰もが認める最高の色男だ)

 感動に体を震わせるギーシュに、兄は警告するような視線を送ってくる。

「だが間違えてはいけないぞ、ギーシュ。この扉には頑丈な鍵が取り付けられているんだ」
「鍵、ですか」
「そうだ」

 兄は重々しく頷き、再び地平線の向こうに目を移す。端正な横顔が、黄昏の光に赤く染まった。

「特別な鍵だ。偽物では開くことができないし、かと言って無理矢理こじ開ければ、待っているのは甘き蜜溢るる至高の楽園どころか、雑草がぼうぼうに生い茂っているだけの乾いた荒野だ。人間はそんなところでは幸せになれない。鍵が必要なんだよ、ギーシュ。最後の扉を開くための、この世にただ一つしかない鍵がね」
「その鍵は、一体どこにあるのですか。教えてください兄さん」

 必死に問いかけるギーシュに、兄は謎めいた微笑を浮かべてみせる。

「教えることなんてできないさ、ギーシュ。いや、教える必要なんてないんだ」
「どういうことですか」
「聞くなよ。聞く必要だってないはずだぜ。お前はもう、その鍵がどこにあるのかよく知っているはずだ。もっとも、お前が真に楽園への鍵を手に入れることを望んでいるというのなら、だが」

 ギーシュは苦悩した。兄の言わんとしていることが、どうしても理解できない。
 そんな弟を見て、兄は「やれやれ」と呟き、苦笑した。

「仕方ないな。まあ、教えてやることは出来ないが、助言なら出来るかもしれん。ギーシュ、心を静かにしろ。雑念を捨てて振り返るんだ。その先に、答えはある」

 兄の教えに従い、ギーシュはまず目を閉じた。ニ度、三度と深呼吸を重ねる。徐々に気持ちが静まっていく。昂ぶりも恐れも、何もかもが風のように吹きすぎていく。そうして訪れた沈黙の中、不意に一つの音が響き渡った。それは、一滴の水が水面に落ちる、高く澄んだ音だった。
 ギーシュは振り返り、カッと目を見開いた。
 最初に見えたのは、風に舞い散る薔薇の花びらだった。赤、白、黄。とても判別できないほど色とりどりの花びらが、澄み渡った蒼穹で渦を巻いている。目が痛くなるほど過剰に色づいた光景のはずなのに、不思議と不快感を感じない。むしろ、様々な表情を見せる花びらの渦が楽しく、同時に何故だか誇らしかった。
 その中心に、彼女がいる。金髪巻き毛の、愛しい少女。

「モンモランシー」

 薔薇の花びらが風に舞ってその色合いを変えるたびに、モンモランシーの表情もくるくると移り変わる。
 ムッとした怒り顔。
 つんと上向くすまし顔。
 鼻高々の得意げな微笑。
 己の未熟さを責める悔しげな顔。
 ほっと息をつく和らいだ笑顔。
 そのどれもが魅力的で、どうしようもなくギーシュの心を惹きつける。移り気だったはずの自分が、気がつけば彼女のことばかり見つめている。
 ギーシュの胸が熱くなる。気付くと、花の渦の中心に向かって、そっと囁いていた。

「僕は君が好きだ。愛しているよ、モンモランシー」

 今まで何度も口にしてきた言葉だが、何故か今になって初めて口にしたような気がする。
 そして同時に理解し、実感する。これこそが、全ての答えなのだと。
 花びらの海の向こうで、彼女が微笑んだ。



 ギーシュははっとして目を開いた。いつの間にやら、周囲の風景が様変わりしている。真っ青な空、吹き荒れる風、そして怒鳴るマリコルヌ。

「おいギーシュ、一体どうしたんだよ、そろそろ限界だぞ」

 その声に一瞬で状況を把握し直し、ギーシュは慌ててカメラを持ち直し、ファインダーを覗き込む。だが、四角い窓の中に写るのは丈の短い芝生だけだ。

(見失ったか。いや、まだだ)

 一瞬絶望しかけながらも、ギーシュはカメラを動かして獲物を探した。何故か、すぐに見つかるような確信があった。そして、実際に見つけた。手を振る才人に向かって小走りに駆けていく、ルイズの背中を。

(ようやく気持ちが定まったよ、兄さん。僕は鍵を見つけてみせる。いや、鍵はもう見つかっているんだ)

 ギーシュはカメラを持つ手に力を込めた。焦らず慎重に、その上で素早く角度を微調整。先程よりも良好な位置に視界を固定したまま、ファインダー越しにルイズの尻を追う。

(今か。いや、まだだ)

 甘き蜜溢るる至高の楽園へと続く、最後の扉。その姿を完全に捉えることの出来る好機を、ただただじっと待つ。

「おい、ギーシュ、いい加減にしろよ。早くしないと僕のパンツが」

 急かすマリコルヌの声が急速に遠ざかっていく。ギーシュはただひたすらに、覗き窓の向こうに全神経を集中させた。徐々に感覚が研ぎ澄まされていくのが分かる。走るルイズの速度、シルフィードの魔法が発動するまでのタイム・ラグ、シャッターを切るときの微妙な手のブレ。様々な情報が一瞬で収束し、分析されていく。そして弾き出された究極のタイミングが、

「今だ!」

 ギーシュの叫びに応じて、シルフィードが魔法を解き放つ。眼下の草原に凄まじい突風が吹き荒れた。四角く区切られた視界の中で、前屈みになったルイズが必死にマントとスカートを抑えようとしている。だが、無駄な抵抗だ。

(モンモランシー、僕はもうパンツのことを恐れない。その向こう側にあるものを手に入れたいと、心の底から思うんだ。心の底から力が湧いてくるんだ。甘き蜜溢るる至高の楽園へと続く最後の扉を、恐れずに開け放つための力が。僕は今こそ、君という至高の楽園へと続く鍵を手に入れてみせる)

 そしてついに、ルイズのスカートがマントごと風に捲り上げられた。ほんの一瞬の好機を逃さず、ギーシュは全身全霊をかけてシャッターボタンを押し込んだ。
 じょじょに風が止み、周囲に静寂が戻ってくる。

「ねえねえどうなったのどうなったの、何がどうなったの」

 無邪気に問いかけるシルフィードに、ギーシュとマリコルヌは何も答えなかった。ただただ固唾を呑んで、ポラロイドカメラが小さな音を立てるのを見守った。
 そして、カメラの下部から一枚の写真が吐き出される。
 そこには、こちらに向かって突き出された小ぶりな尻と、その大切な部分を覆い隠す魅惑の布きれが鮮明に焼き付けられていた。
 二人の人間の気狂いじみた歓声を浴びたシルフィードは、「きゅいきゅい。変なの、変なの」と呟いた。



 突風が止んで恐る恐る目を開けると、少し離れたところに立っている才人が、驚いたように空を見上げているのが見えた。

「凄い風だったなあ。びっくりした」

 そんなことを呟いている。ルイズはじっと彼の顔を凝視した。「え、なに、どうした」と気圧されたように若干身を引きながら喋るその表情からは、何かを隠しているような気配は微塵も感じられない。
 ルイズはほっと息を吐いた。突風が吹いていた間中、スカートが完全に捲れ上がってしまっていたのだ。あまりに風が強かったために目を開けていることすら出来なかったのだが、どうやらそれは才人も同様だったようである。つまり、スカートの中身を見られてはいない、ということだ。

(誰かに見られてたような気がしたんだけど、気のせいだったみたいね。よかった、今履いてるパンツなんか見られた日には)

 ルイズは顔が熱くなるのを自覚した。そんなことになったら目の前の男を十回ぐらい殴り殺してしまっていたことだろう。

「どうした、ルイズ」

 主人の内心を知ってか知らずか、才人はとぼけた顔つきで首を傾げている。「なんでもないわよ」と答えてから、ルイズは腰に両手を当てて使い魔を睨みつけた。

「そんなことより、犯人探しはどうなってんのよ」
「いやあ、それがあんまり思わしくなくてなあ」
「つまり、まだ見つかってない訳ね」
「悪い、もうちょっと待っててくれよ」

 才人は両手を合わせて頭を下げる。
 調査の進展自体は不満だが、いつものようにあれこれと愚痴っぽく文句を言ったりしない態度には好感が持てる。

「仕方ないわね、もっと気合入れて頑張りなさいよ」

 ルイズがほんの少し気をよくしながら言ったとき、不意に強い風が吹きつけてきた。先ほどのような奇妙な突風ではないが、身を切るように冷たい風だ。
 体を震わせながらマントをかき合わせたとき、ルイズの口から小さなくしゃみが飛び出した。

「寒いのか」

 気遣うように眉尻を下げながら、才人が言ってくる。主への心配が滲み出ているようなその表情に胸が温かくなるのを感じながら、ルイズは鼻を啜り上げた。

「ま、あんたが服を取り返したら、せいぜい着込んで暖かくしようかしらね」



 ルイズが去り、学院の授業も終了した深夜、密かに寮を抜け出した才人たちはゼロ戦格納庫に集合していた。
 いつものテーブルに陣取り、顔を突き合わせる。ランプの明りは最小限に抑えているため、見つかる心配はないはずである。

「で、結果はどうだったんだ」

 緊張しながら問う才人に、得意げに笑ったマリコルヌが一枚の写真を放ってみせる。そこには、小ぶりで可愛らしいお尻が一つ、鮮明に焼き付けられていた。

「おお、ルイズがこんなやらしいパンツを」

 才人は感動に胸を高鳴らせながら、震える両手で写真をつかむ。ぼんやりとしたランプの明りの下、浮かび上がった尻が身に付けているのは、白いパンツである。だが、もちろん普通のデザインではない。布地全体にメッシュ加工が施された、透過性の高い下着だ。要するに、

「スケスケパンツ……!」

 才人は目を極限まで見開いてルイズの尻に見入った。メッシュの向こう側に存在する、小さな谷間。胸の谷間など望むべくもない彼女の体にも、こんなにも狂おしく欲情を掻き立てる楽園が存在するのである。写真に頬を摺り寄せたい気分になってきたが、さすがに仲間の前でそれはまずかろうと思ったので自重していおいた。

「ま、何にしても作戦は成功という訳だな」

 写真そのものにはさして興味もなさそうな表情で、レイナールが肩を竦めた。

「これをあれこれと利用すれば、確かにいい資金稼ぎにはなりそうだよ。世の中にはそういうものを必要としている諸兄も多い訳だし」
「言っとくが、これはやんねーぞ」

 才人は仲間たちの視線から遠ざけるために、写真を手の中に隠す。レイナールは苦笑した。

「分かっているとも。今回はあくまでも、果たしてこういうことが成功するか否かを見極めるための試験みたいなものだからね。シルフィードへの肉代は高くついたが、これ以降の作戦が成功すれば十分利益になるだろう」
「レイナール」

 興奮だか恥じらいだかいまいち判断がつきかねる具合に顔を赤くしながら、マリコルヌが友人の肩を叩いた。

「次の標的は是非とも僕に決めさせてもらいたいんだけど」
「ああ、いいとも」

 レイナールは実に爽やかな笑みを浮かべて頷いた。

「この中では、君が一番こういうものを欲しがるような男たちの思考を理解しているだろうからね。是非とも高く値がつきそうな娘を紹介してくれたまえよ」
「おお、任せておけ。そうだな、とりあえずは」

 マリコルヌは息を荒げながら次々と少女たちの名前を挙げ始める。才人としては生温かい目で見守るしかない。
 そのときふと、隣に腰掛けたギーシュが感慨深げな表情で自分の手の平を見つめているのに気付いた。

「どうした、ギーシュ。手、怪我でもしたのか」
「いや、違う。むしろ、長年の傷が治ったというべきか」

 やたらと深みのある微笑と共に、ギーシュは首を振った。

「サイト、ありがとう。今回のことで、僕は一つの壁を乗り越えたんだ。これで楽園への最後の扉を開けることができる」
「扉が、なんだって」
「詳しい話はまた後日するよ。今日の僕の勇姿をその目に焼き付けておいてくれたまえ。では、さらばだ。僕は決戦の場へと向かう。この心に鍵を携えて」

 意味不明なことをやたらと芝居がかった口調で言いつつ、ギーシュはマントを翻して格納庫を出ていく。その背中は、何故だかやたらと煤けて見えた。



 まだ会議を続けているマリコルヌとレイナールを残して、才人は格納庫の外に出た。月明かりの下を歩きながら、ルイズの尻写真をうっとりと眺める。

「全くいい仕事だぜギーシュ、マリコルヌ。いくら眺めてたって飽きねえな」

 尻とパンツの芸術的なコラボレーションを鑑賞するのは実に楽しいことだったが、実際にいつまでも眺めている訳にはいかない。
 そもそもにして、これをルイズに発見されでもしたら一転して天国から地獄である。何が何でも、絶対に見つからないように気を配らなければならない。

(って言っても、隠し場所なんかすぐには思いつかねえしな。しばらくは大切に持っておくしかねえか)

 そうして火の塔のそばを通りかけた才人は、暗い視界の片隅に異物を見つけたような気がして、足を止めた。
 妙な予感にとらわれながら、闇の中に横たわる小さな物体に近づく。

「おいおい、マジかよ」

 それは、先日拾ったものと全く同じ種類のバッグであった。震える手を伸ばして外側から押してみると、柔らかい感触が返ってきた。間違いなく、布製の何かが中に入っている。

「一体誰なんだ、こんな頻繁に下着ドロなんかやってる奴は」

 周囲を見回してみる。やはり前回同様、これがどこからどうやって現れたものかは分からない。才人が元の世界に戻る手がかりにはならないということだ。だが、実際にはもはやそんなものはどうでもよくなっていた。

「どうするかな、これ」

 もう一度何とかしてルイズに着てもらおうかとも考えたが、着せたところでそれを直に見る方法が思いつかない。さすがに今回と全く同じ口実でいくのは不審に思われるだろうし。

(ま、これの扱いも後で考えるとするか)

 とりあえず中身を確認しておこうと、才人がバッグ中央のジッパーに手をかけたとき、

「サイト、それはまさか」

 と、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。やけに震えているその声に嫌な予感を覚えながら振り返ると、そこには呆然と目を見開いたマリコルヌが、小太りな体を震わせながら立ちすくんでいた。

「サイト、それは、ひょっとして前のと同じ」

 マリコルヌがこちらに近寄りながら言ってくる。才人は仕方なく、正直に頷いた。

「ああ、そうだと思うぜ。まだ中身は見てないけどな」
「それじゃ、すぐに確認しないと」

 マリコルヌが息を弾ませながら突っ込んでくる。才人はさっと身をかわした。マリコルヌは悲鳴を上げて顔面から塔の壁に激突する。

「何をするんだ」
「その前に、一つ聞かせてくれ」

 鼻血を流しながら抗議してくるマリコルヌに、慎重に問いかける。

「お前、この中身のパンツをどうするつもりなんだ」
「それはもちろん、僕が知ってる可愛い女の子に着てもらって撮影するのさ」
「どうやって着てもらうんだ」
「どうにかするよ。ああ、あの子達のパンツを見られるなんて」

 げへへともぐへへとも表現できない下品な笑いを漏らすマリコルヌを見て、才人は内心舌打ちをした。
 パンツを一度も生で見たこともないマリコルヌのこと、今回のことで味を占めて調子に乗ってしまうのではないかと、警戒してはいたのだ。

(こいつにこのバッグを渡したら、興奮のあまり穴だらけの手段で女の子たちに迫りかねねえ)

 そうなったら、いずれ今回のことがルイズに露見してしまうに違いない。

(そんなことになったら俺は破滅だ)

 なんとしてでもバッグを死守せねば。そんな才人の決意が、マリコルヌにも伝わったらしい。鼻血と擦り傷でボロボロになった顔に、怒り狂った猪のような危険な表情が浮かんだ。

「サイトよお。まさか君、僕の邪魔をしようってんじゃあないだろうねえ」
「なに粋がってんだこの豚野郎。テメエこそせっかく上手くいった計画を台無しにする前に引き下がるんだな」
「誰のおかげで今回の計画が成功したと思ってるんだ」
「俺が発案しなけりゃそもそも思いつきもしなかっただろうが」

 マリコルヌが杖を取り出し、才人がデルフリンガーを引き抜く。

「相棒、何だってこういう状況になるまで俺に喋らせてくんねーのよ」
「黙れデルフ。野郎の嫉妬パワーを侮る訳にはいかねえ。全力で叩きのめすぜ」
「それはこっちの台詞だぞサイト。大人しくパンツを渡さないのなら、僕は見たくもない君の裸体を拝まなければならなくなるじゃあないか」

 風魔法でこちらを切り刻むつもりらしいマリコルヌが、早口に詠唱を開始する。
 才人は決死の覚悟で一歩踏み出した。



 結果から言うと、マリコルヌとの勝負は才人の辛勝であった。
 乱れ飛ぶ風魔法をデルフリンガーで吸収しながら、嫉妬パワーによってやけに行動速度を上げたマリコルヌを必死で追い回し、やっとのことで気絶させて逃げてきたのである。

「ま、あいつも明日になりゃちょっとは冷静になってるだろう」

 ルイズの部屋の扉の前で、才人は小さく息を吐いた。胸には例のバッグを抱えている。本当はこの部屋になど持ち込みたくはなかったのだが、他にいい隠し場所を思いつかない以上、何とかしてここに隠すしかない。

(ま、ルイズもシエスタもこの時間じゃ寝てるだろうし、隠すの自体はそれほど難しくはないだろう)

 そんなことを考えていたとき、唐突に目の前の扉が開いたので、才人は危うく悲鳴を上げそうになった。

「あれ、何やってるんですかサイトさん」

 眠たげに目を擦りながら、シエスタが問いかけてくる。予期せぬ少女の登場に動揺しつつも、才人は何とか取り繕った。

「いや、トイレだよトイレ。シエスタこそどうしたんだ」

 シエスタはぼんやりと突っ立ったまま少しの間目を瞬かせたあと、ゆっくりと首を傾げた。

「なんだか、サイトさんが外にいるような気がして」
(どういう勘の良さだよオイ)

 内心冷や汗を垂らす才人の前で、シエスタはおもむろに視線を落とした。

「ところで、それなんですか」

 その視線を追って、才人はぎょっとした。動揺のあまり、持ってきたバッグを隠すのをすっかり忘れていたのだ。

「これはほら、えーと、あれだよ」

 上手い言い訳が思いつかずにひたすら歯切れ悪くなってしまった才人を、シエスタは相変わらず眠そうな表情でじっと見つめていたが、やがて「ああ」と、無垢な笑みを浮かべて手を打った。

「サイトさん、また服を買ってきてくださったんですね。ありがとうございます、嬉しいです」

 シエスタは大きく頭を下げる。さっきトイレだと説明を受けたにしては納得の仕方がおかしかったが、多分寝惚けているんだろうと胸を撫で下ろし、才人は何度も頷いた。

「え、ああ、そう、そうなんだよ。あれだけだと足りなくなるかなあと思ってさ」
「そんなにお気になさらなくても結構ですのに。ミス・ヴァリエールだってご自分で仰るほどには困っていないんですよ」
「いやまあ、これはなんつーか、俺の気持ちっつーかさ」

 そのとき、不意にシエスタがくしゃみをして、「ごめんなさい」と恥ずかしそうに鼻を啜り上げた。

「ほら、いつまでもこんなとこに突っ立ってると風邪引いちまうよ」

 体を抱いて身震いする彼女を、才人はここぞとばかりに部屋の中に導いた。先にシエスタを寝台に入れて、自分はその隣に横になる。

「おやすみ、シエスタ」
「はい、おやすみなさい、サイトさん」

 眠たげな声でそう言ったシエスタが健やかな寝息を立て始めるまで、さほど時間はかからなかった。

「シエスタ、シエスタ」

 何度か小声で呼びかけても反応がないことを確認した才人は、こっそりと寝台から抜け出し、その下にバッグを隠した。

(明日、ルイズとシエスタがいなくなったらゼロ戦の格納庫で中身を確認するとしよう)

 心の中でそう決めつつ、才人もまた深い眠りの中へと落ちていった。



 広場で突風に襲われた翌日の朝、ルイズは何となく落ち着かない気分で着替えをしていた。
 いつもどおり、才人は部屋から追い出してある。だから今部屋の中にいるのは彼女自身とシエスタだけな訳で、どれだけ下着がいやらしかろうと特に恥ずかしがる必要はないはずなのである。
 だと言うのに、何故だか気分が乱される。その原因を捜し求めて部屋の中を見回すと、背後に控えていたシエスタと目が合った。

「どうしたんですか、ミス・ヴァリエール」

 どことなくぎこちない微笑を浮かべて、シエスタが首を傾げる。

(怪しい)

 ルイズは眉をひくつかせる。しかし、ここで問い詰めたところで、このメイドの少女が口を割る可能性は少ないように思えた。だから、別段何にも気付いていない風を装って、首を振った。

「別に、なんでもないわ。じゃ、いつもどおり部屋の掃除よろしくね」
「はい、分かりました。それじゃ、行ってらっしゃいませ」

 頭を下げるシエスタに見送られて、部屋の外に出る。待っていた才人とは、寮の出口で別れた。

「じゃ、俺は犯人探しを続けるから」
「ええ。さっさと見つけなさいよ」

 才人の姿が広場の方に消えたのを見届けてから、ルイズは駆け足で塔の中に戻った。途中ですれ違ったキュルケが「どうしたの、忘れ物」と聞いてくるのへ「そんなとこ」と適当に返事をしつつ、階段を駆け上がる。忍び足で廊下を進み、自分の部屋の扉を前置きなしに開け放った。ちょうど寝台の下に手を突っ込んでいたシエスタが、悲鳴を上げて振り返った。

「なんだ、ミス・ヴァリエールですか。脅かさないでください」

 メイドの少女は、誤魔化すような笑みを浮かべて立ち上がった。ルイズは無言でシエスタの前に立ち、両手に腰を当てて彼女をにらみつけた。

「あんた、なんか隠してるでしょ」
「いえ、別に何も」

 シエスタは気まずそうに目をそらす。ルイズはそんな彼女をしばしの間睨みつけてから、出し抜けにしゃがみこんで、寝台の下を覗き込んだ。

「あっ、ダメですミス・ヴァリエール」

 慌てて止める声など気にもせず、暗がりに目を凝らす。何か、見慣れないものが寝台の下にある。

「何よこれは」
「いえ、別に、下らないものですから」
「じゃあわたしが見たって問題はないわよね」

 寝台の下に手を突っ込んで、その物体を取り出す。見慣れないものだと思っていたが、引っ張り出してみてもやっぱり見慣れないものとしか言いようがなかった。中に何か詰まっているので、どうやら袋のようなものらしいということだけは分かる。

「何これ」
「中に服が入ってるんだそうです。昨日、サイトさんが持ってきてくださったんですよ」

 ため息混じりに、シエスタが答える。ルイズの目元が引きつった。

「つまりなに、あんたあの馬鹿が買ってきた服を独り占めしようとしてた訳」
「いえ、独り占めだなんて。ただ、出来ればミス・ヴァリエールよりも先にゆっくり見ておきたいなあ、なんて」
「呆れた。まあいいわ。あの馬鹿、今度はどんだけやらしい物買いこんできたのかしら」
「あ、やっぱり気になりますよねそういうの。開けてみましょうよ」

 とは言え、見慣れない物体はやはり見慣れない物体なので、どこをどうやったら中身が取り出せるのか、少しの間悩むことになった。結局、中央にある銀色の金具を引っ張ると口が開くのだと理解するまで、少々時を浪費することになってしまった。
 そして、開いて中身を取り出してからも、二人はただひたすら困惑して、顔を見合わせることになる。

「何でしょうね、これ」

 中にあったものの一つをしげしげと眺めながら、シエスタが首を傾げる。

「分かんないわよ。やらしい下着でないことだけは確かだけど」

 ルイズもまた、他のものを一つ手にとって、眉をひそめるしかない。
 見慣れないものの中に入っていたものは、やはり見慣れない物体だったのである。
 いや、服であるらしいのは分かるのだが、どうも女性の衣服には見えないと言うか。
 二人はまたしばしの間どうしようかと悩んでいたが、やがてシエスタが意を決したように服を脱ぎ始めた。

「え、これ着るのあんた」

 ルイズがぎょっとして問いかけると、シエスタは覚悟を決めた表情で頷いた。

「だって、サイトさんがわざわざ選んで買ってきて下さったんですよ。前と違って時間もかけてるはずですし、つまりわたしたちに似合うものだと思ったんですよ」
「ええ、これが」

 手の中にあるものを見て顔をしかめるルイズに、シエスタは「甘いですね」と言わんばかりに鼻を鳴らしてみせた。

「前にサイトさんが持ってきた、水兵さんの服を考えてみてくださいよ。サイトさんがいた世界では、こういった装いの女性こそが魅力的なのかもしれませんよ」
「いや、どう考えても違うと思うんだけど」
「じゃ、着なければいいじゃありませんか」

 そう言われると、ルイズの心に迷いが生まれた。
 確かに、才人は自分たちがいやらしいと思うデザインの下着には何ら興味を示さない様子であった。ということは、目の前にある奇妙な服が彼の欲情を掻き立てるのだとしても、特におかしなことではない、のかもしれない。
 そうやってルイズが悩んでいる内に、シエスタが着替えを終えた。

「どうですか」

 と言って優雅に回転して見せるが、やはり奇妙な装いにしか感じられない。

(でも、もしもサイトがこういうの好きなんだとしたら)

 そう考えると、やはりシエスタ一人にだけ着替えさせておく訳にはいかないルイズであった。



 ゼロ戦格納庫でしばらく待機していた才人は、頃合を見計らって寮の中に戻った。
 いつもならば、この時間ルイズの部屋には誰もいなくなるはずなのである。

(鬼のいぬ間に、ってね)

 それでも最大限注意を払いつつ、才人はするすると寮の中を進んだ。ルイズの部屋の前に立ち、一応用心して扉に耳を押し付けてみる。
 すると、予想外なことに、部屋の中から聞き慣れた少女二人の声が聞こえてきた。

「やっぱり変だと思うんだけど、これ」
「そうですよねえ」

 ルイズとシエスタだ。

(シエスタはともかく、なんで授業中のはずのルイズが)

 困惑しつつも、才人は耳に神経を集中する。

「あいつ、本当にこういうのが好きなのかしらね」
「でもでも、見ようによっては魅力的、かもしれませんよ」
「男の感覚ってのは分かんないわね」
「それ以前にサイトさん別の世界の人ですもの」
「じゃ、やっぱりこういうのの方がやらしく見えてるんだ、あいつには」

 会話の内容から察するに、昨日隠しておいたバッグは見つかってしまったらしい。そして、彼女たちはその中身を試着しているようだ。

(おいおいおいおい、これって千載一遇のチャンスってやつなんじゃ)

 仮に、二人が中で下着姿になっていたとすれば。この扉を開けた先には、理想郷が広がっているはずである。

(行くか、行っちゃうか、俺)

 無論、下着姿なんぞ見られたルイズは怒り狂って普段の数倍以上のお仕置きを喰らわせてくるに違いない。だが、そんなものを恐れていては男のロマンは完成しないのだ。才人は胸の奥から湧き上がる恐怖を、意志と欲望の力で無理矢理ねじ伏せた。

(覚悟を決めろ、平賀才人。死して屍拾う者なしだ)

 強い決意と共に、才人はドアノブに手をかける。その直後、妙な会話が聞こえてきた。

「でもこれ、すっごく暖かいですよね」
「まあね。最近寒かったし、あいつらしくなくちょっと気を遣ったのかも」
(暖かい? 下着が?)

 才人の脳が激しい混乱状態に陥る。しかしもはや止まることも出来ず、彼は扉を押し開けてしまった。
 半ばつんのめるようにして踏み込んだ先には、やはり見慣れた二人の少女が立っていた。
 だが、その格好は。

「え、サイトさん」

 驚くシエスタ。

「ちょ、なんであんたこんなところにいるのよ」

 焦るルイズ。
 だが才人は、目の前の二人以上の衝撃を受けて立ちすくんでいた。
 見慣れた二人は、見慣れない格好をしていた。

「あの、サイトさん。どうですか、これ」

 自分の姿を見下ろしたあと、上目遣いでこちらの表情を窺ってくるシエスタ。

「わたしはこんなのなんとも思わないけど、あんたこういうのが好きみたいだし、ね。一応、感想を聞いておきたいんだけど」

 そっぽを向いて顔を赤くしながらも、何かを期待するようにちらちらとこちらを見てくるルイズ。
 実に可愛らしい仕草である。二人がもしもいつもどおりだったなら、才人は今頃胸がときめきすぎて頭がおかしくなっていたかもしれない。
 しかし、そうなるためには、二人の装いはあまりにも致命的過ぎた。
 見慣れない格好、というのは正確ではなかったかもしれない。才人にとっては、長年親しんできた服装ですらある。
 だが、目の前の少女たちがそんなものを着ているところなど、一度も見たくなかったというのが偽りなき本心だった。
 才人は泣きながら逃げ出した。



 その日、授業を終えたレイナールがいつもの通りゼロ戦格納庫に顔を出すと、隅っこのテーブルに誰かが突っ伏しているのが見えた。
 近づいてみるとそれは才人で、テーブルの上に置いた酒を遠慮なしに飲みながら、うわ言のようにぶつぶつと呟いているのであった。

「腹巻、股引、ジャージ」

 もちろん、レイナールには何のことやらさっぱり分からなかった。



 さて、今回の事件には、いくつか追記しておくべきことがある。
 この前日の夜にモンモランシーの部屋を訪れたギーシュが、「君のパンツを見せてくれ」と叫んだ結果素晴らしく芸術的な拳打を喰らって、彼が望むものとは別の楽園に旅立ったことがまず一つ。
 マリコルヌをうまく御したレイナールが、ポラロイドカメラが使えなくなるまで撮影を続け、少々変質的ながらも有力な貴族たちとの間に太いパイプを何本か作ったことが一つ。
 そして、「暖かいし動きやすいから」という理由で、ルイズとシエスタがしばらくの間例の服を着続けたことが一つである。
 彼女らがその習慣を続けている間中、夜中の格納庫で飲んだくれた才人が、

「そんなんじゃなくて、パンツを履いてくれ。俺が用意した、俺のパンツを履いてくれぇぇぇぇぇぇ!」

 と叫ぶ光景が、しばしば目撃されていたそうだ。

 <了>
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