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【東方SS】さすがアリス、わたしの三歩先を行く女だぜ……!

2009年8月10日に東方創想話に投稿したSSです。
 


『さすがアリス、わたしの三歩先を行く女だぜ……!』



 やっぱりこいつはわたしの三歩は先を行ってるよな、と、魔理沙はアリスを見るたび思わずにはいられない。
 いや、本当のところは三歩どころか十歩も百歩も先だろう。でもそこまで離れていると思ってしまうのは悔しいので、三歩先ということにしておいている。
 コソ泥行為を恥とも思わぬ魔理沙にだって、ちっぽけながらプライドぐらいはあるのだ。
 だから霊夢といるとき同様、アリスといるときもまた、心の奥深くに蠢く劣等感をじくじくと刺激されてたまらないのである。

「それでもなおここに来ちまうのは」

 昼なお暗い魔法の森の中、場違いなほどにカラフルなマーガトロイド邸を見上げながら、魔理沙はため息を吐く。

「結局、ここが割と居心地いいから、なんだろうな」

 そのことを癪に思いながら、ドアノブに手をかけた。

「邪魔するぜ」

 そう言うなり返事も聞かずに扉を開け、無遠慮に中へと入り込む。リビングルームを覗き込むと、アリスはいつものようにテーブルの前に座り、何か針仕事をしていた。その周囲にはたくさんの人形が浮遊し、本を運んだり雑巾を手に掃除したり、各々の作業に従事している。それらの人形には全て名前がついていて、今己の針仕事に没頭しているように見えるアリスが、全く同時に操作しているのだ。相変わらずにわかには信じがたい光景である。

「いらっしゃい。紅茶でいいかしら」
「おう」

 手元から顔を上げずに問いかけてくるアリスに短く答え、魔理沙はテーブルを挟んだ反対側の椅子に腰を下した。すかさず、一体の人形が帽子掛けを持ってくる。魔理沙は無言で帽子を脱ぎ、箒と一緒に人形に預ける。人形はそれらを持って部屋の片隅へと飛んでいく。

「相変わらず、アリスさんは気が利いていらっしゃる」

 少々皮肉っぽい口調で言う。アリスは特に反応しない。気のせいか、先ほどよりも針仕事の指さばきが早くなったような気がする程度だ。
 そうして向かい合って座ったまま、二人は無言。いつものことながら、アリスの方からは何も言ってこない。本人からして「他人のすることなどどうでもいい」と常日頃から口にしている通り、向こうから話題を振ってくることはあまりないのだ。だからいつもなら、大概魔理沙が好き勝手に喋って、アリスが呆れ半分に相槌を打つ、という形の会話になる。
 しかし、今日は魔理沙の方でも何も喋らなかった。何か言いたい気分ではなかったのだ。
 何があったのかと言うと単純な話で、魔法の研究が行き詰ったのである。割と長期間、無数に実験を重ねていたテーマで、しかも行き詰った原因は研究の初期段階における考察不足。要するに自分の間抜けな見落としのせいで、この何ヶ月間かの努力がほとんどパーになったのだ。もちろん実験のデータは残っているから全くの無駄にはならないだろうが、それでもこのテーマに関しては大失敗と言う他ない散々な結果だ。
 そういったわけで、今の魔理沙は不機嫌だった。自己嫌悪のどん底とでも言うべき気分である。自分に大して才能がないのはとっくの昔に分かり切っているし、こういった失敗をするのも初めてのことではないが、それでも気分が落ち込むのはどうしようもない。
 それで、家の中にいると憂鬱が募るばかりだと思い、気晴らしに出かけることにしたのだ。しかしこういう日に限って、ストレス解消の相手に出来そうな知り合いには出会わないものである。空を飛んでいるのは鳥ぐらいのもので、妖怪など影も形も見当たらなかった。
 博麗神社に行こうかとも思ったが、止めた。あそこにいる巫女は、魔理沙にとっては永遠のライバルである。こちらが勝手に決めつけているだけだとしても、そうなのだ。こんな気分のときにあの才能溢れる巫女様の能天気なご尊顔を拝見しようものなら、いよいよ気分の落ち込みに歯止めが利かなくなる。できればそれは避けたかった。
 霊夢に弱気な顔は見せたくない、というのは、ずっと昔から変わらぬ魔理沙の意地なのだ。
 そうして魔理沙は、フラフラと当てもなく飛び回った末に、結局このマーガトロイド邸にやって来た。アリス相手に世間話でもすれば少しは気が紛れるかもしれない、という実に単純な理由だ。彼女が基本的に他人に無関心だから、あれこれと気を煩わされることもないだろう、という期待もある。
 しかし、今こうしてアリスと向かい合わせに座っていて、魔理沙はここに来たことを早くも後悔し始めていた。何故かと言うと、ここに座っているだけでいろいろと思い知らされてしまうからである。

(……相変わらず)

 テーブルの向こうで黙々と針仕事を続けているアリスの澄まし顔を見て、魔理沙は相手に聞こえないように小さく舌打ちをした。
 彼女から目をそらし、眼前を見る。またテーブルクロスが新しくなっている。今回のものは真っ白い絹地で、複雑かつ精緻で美しいレース模様が、煩雑に見えない程度に上手く組み合わされている。それがアリスの手によって編み込まれたものであることを、魔理沙はよく知っている。実際に編んでいるところを何度も目にしたことがあるからだ。
 左を見ると、大きな出窓の向こうに鬱蒼とした魔法の森が広がっている。自分の家の窓から見える景色と大して変わらないはずなのに、どこか暖かくのどかに見えるのは、窓際に飾られた小さな鉢植えや、そこにかけられた柔らかいカーテンのせいだろうか。
 右を見れば、戸棚を開けた人形がグラスを一つ一つ丁寧に磨いている。その隣には革張りの洋書が詰まった小さな本棚があり、今、色とりどりの反物を抱えた妖精がそのそばを通り過ぎたところだ。
 床に目を落とせば赤いカーペットが敷かれているのが見え、部屋の隅にある暖炉の前では、一体の人形が首を傾げながら火の調節をしているところ。
 それら全てを見回したあとでもう一度アリスに目を戻すと、相変わらず針仕事を続けている。その手つきは澱みなく、目の前の仕事に集中しきっているようにしか見えない。

(かなわねえなあ)

 魔理沙はまた、相手には気付かれないように小さくため息を吐いた。
 今改めて、アリスのセンスがずば抜けているのを痛感しているところである。
 この部屋は、ブラウンを基調とした木目調の色でほぼ統一されている。カーテンやカーペットなどを見れば黄や赤系統の多少明るい色もあるのだが、配置が絶妙なために色彩の調和を少しも乱していない。そう思ってもう一度見てみると、戸棚に並んだグラスや小さな本棚に並べられた本の背表紙までもが、完璧な計算の下に配置されているように見える。
 そして、その中心にいるのがアリスだ。今、テーブルの前にゆったりと腰掛け、澱みない手つきで針仕事を続けている少女。なんとも言えず、家庭的な光景だ。
 空気を作るというのはこういうことを言うのだろうな、と魔理沙は思う。意図するところは帰るべき我が家、だろうか。全てが計算づくで配置されていると分かっていてもなお、つい安らぎを覚えずにはいられない奇妙なほどの暖かさが、この部屋にはある。ぱちぱちと爆ぜる暖炉の火の音を聞きながら、うたた寝でもしていたい気分になってしまうのだ。
 他人のスペースにいてこれほど居心地の良さを感じるのは、ここを除けば博麗神社や香霖堂ぐらいのものだ。後者の場合は単に魔理沙が通い慣れているせいだろうから、どちらかと言うと、ここは前者に似ているのかもしれない。本来神社など鬼門であるはずの妖怪ですらだらだらと居座りたくなる、あの博麗神社に。
 ただ、霊夢の場合は天性の素質で自然にあの居心地の良さを作っているのに対して、アリスの場合はあくまでも彼女自身の意志によって、こういった空間を形成しているのだ。
 どちらが凄いかと言えば、どちらも凄い。
 少なくとも、魔理沙にとってはそうである。
 魔法の威力比べや弾幕ごっこでならともかく、事こういった分野に関して、彼女はアリスの足下にも及ばない。

(多芸っていうか多趣味っていうか。器用な奴だよな、ホント)

 なんとなく面白くないものを感じながら、魔理沙はおもむろに口を開く。

「なあ」
「なに」
「人形どもは、今それぞれに何をやってるんだ」

 問うと、答えはすらすらと返って来る。

「仏蘭西人形は料理、オルレアン人形は外で薪割り、露西亜人形は蔵書の整理、倫敦人形は暖炉の調整、西蔵人形は裏の畑の手入れ、蓬莱人形は地下倉庫の整理中、京人形は窓拭き、上海人形は」
「分かった、もういい」
「そう」

 魔理沙がうんざりして手を振ると、アリスはあっさりと喋るのを止めた。ちなみにその間も、針仕事の手は少しも止めていない。そうしながら、さっき言ったような作業をそれぞれの人形にやらせているわけだ。ちなみに、部屋の中で作業中の人形を見る限り、彼女らの仕事は完璧そのものと言ってもよく、雑にこなしている人形や誤作動を起こしている人形などは一つも見当たらない。

(どういう脳味噌してんだこいつは)

 テーブルの向こうの澄まし顔にげっそりしながら、魔理沙は面白くない気分でテーブルに頬杖を突く。
 そこへ、見慣れた一体の人形がティーカップの乗ったソーサーを持って飛んできて、「シャンハーイ」と言いながら魔理沙に向かってそっと差し出した。
 その動作があまりに自然だったため、受取りながら、

「サンキュー、上海」

 ついついそう言ってから、しまった、と魔理沙は思う。
 今、目の前でお辞儀している上海人形はアリスが操っているのであって、自分の意思をもっているわけではないのだ。なのに彼女に対してお礼を言うというのは、幼子がお気に入りの人形に話しかけているのと全く変わらぬ行為である。
 飛び去る上海人形を横目に、どうしようもない気恥ずかしさを覚えながら、ちらりとテーブルの向こうを見る。しかしアリスは別段こちらを笑うでもなく、相変わらず休みなく針仕事を続けている。自ら「他人のすることなどどうでもいい」と言うだけのことはある。
 それでもなんだかからかわれたような気分が拭えず、魔理沙はふてくされた表情でティーカップに口をつけ、次の瞬間口中に広がった奇妙な味わいに、新鮮な驚きを感じた。
 思わず目を丸くしてテーブルの向こうを見ると、やはり針仕事を止めないまま、アリスが、

「ハーブティーよ」
「なんでだよ。いつものと違うじゃないか」
「いつもよりも不機嫌そうだったもの、あなた。そういう気持ちを和らげてくれる効能があるのよ、それ」

 その口調は実に淡々としたもので、こちらを馬鹿にしたような気配は全くない。
 魔理沙は顔をしかめてハーブティーとやらを啜る。そして、その香りや味わいが体に染み入ってくるにつれて、本当に気分が落ち着いてくるのを自覚し、ため息を吐きたくなった。
 常日頃から「他人のすることなどどうでもいい」と言いつつ、目の前に誰かがいればやたらと世話を焼きたがるというのが、アリス・マーガトロイドという女なのだ。矛盾しているようだが、その口癖を「他人のすることなどどうでもいいが、観察はしっかりとする。しっかり観察しつつ、相手が何をやっていても気にしない、口を出さない。でも自分に出来ることがあるなら遠慮なくする」という風にでも解釈すれば、実際は言動不一致というほどでもない。

(何十体もの人形を同時に操って別々の作業をこなさせつつ、自分の針仕事も完璧にやって、なおかつ客人の相手をしつつ気まで遣ってみせる、と)

 それでいて、格別そのことを誇ったり、自慢したりする様子はない。魔法使いとしての彼女の目標はあくまでも自律人形の作成であって、他のことではないからだろう。だから、その目標以外のことでどれだけ凄い芸当が出来たとしても、それがあくまでも途中経過に過ぎないのだということを、アリスはよく理解して行動しているわけだ。

(要するにどこまでもクールなんだよな、こいつは。クソッ)

 心の中で悪態を吐きつつも、認めずにはいられない。

(さすがアリス、わたしの三歩先を行く女だぜ……!)

 今現在己の研究に行き詰っているからこそ、尚更彼女の才能に圧倒されるのである。
 だが、それを口に出してアリスを称賛しようという気はさらさらなかった。
 自分に彼女ほどの才能がないと分かっていても、魔理沙にだってちっぽけながらプライドぐらいはあるのだ。

(なに、別にいいさ。パワーと弾幕ごっこの戦績でなら、わたしの方がちょっと上……のはずだし)

 やや自信がなくなってきたのを誤魔化すように小さく首を振り、魔理沙はふと、改めてアリスの方に目を向けた。今までのように彼女の顔を見るのではなく、手元を見る。
 アリスは魔理沙がこの部屋に入って来て以降、少しの休みもなく針仕事を続けているが、そうして作っているのは人形の服らしかった。少女趣味が基本の彼女らしい、柔らかな生地にたくさんのフリルがあしらわれた小さな服だ。傍らにかぎ針などの道具があるのを見る限り、幾重にも折り重なったスカートの裾にはレースも使う方針らしい。
 先程までは主にアリスの高度な魔法技術に圧倒されていたわけだが、彼女の凄さはそれだけに留まるものではない。今魔理沙の目の前で行われているような、針糸を使った裁縫の技術もまた、他者の追随を許さない程の腕前である。
 アリス自身は、やはりそのことを誇りはしない。しかし、彼女以外の者であれば誰であっても、その仕事を目にしたら感嘆せずにはいられないだろう。今の魔理沙もそうである。頬杖を突いた姿勢のまま、ハーブティーを飲むのも忘れて彼女の神業に目を奪われている。
 魔理沙だって元は道具屋の娘であるし、一人暮らしをしている以上、簡単な繕い物をこなすことぐらいは出来る。だからこそなおさら、アリスの仕事の素晴らしさが理解できるのだ。
 彼女の細くしなやかな指には、全く迷いがない。布を裁断するときもそれらを縫い合わせるときもそれは変わらず、少しの躊躇もなく鋏を滑らせ、針糸を通していくのである。傍から見るとほとんど無造作に見える指使いだが、その実布の切れ目は真っ直ぐ、糸の縫い目は繊細かつ精緻であり、わずかの乱れもない。瞬き一つするたびに、ただの布が至高の芸術品へと形作られていくのである。
 とても幻想的で、それこそ魔法のような光景だ。ときどき、本当にこれをただで見ていてもいいものなのだろうか、と不安になってしまうぐらい。

(悔しいけど、見てて全然飽きないんだよなあ、こいつの仕事は)

 魔理沙自身は少女趣味などとっくの昔に卒業した、今の自分はうふうふ笑っていた頃の自分とは違う、と自負しているが、それでも一応は立派な乙女である。アリスの手による作品が出来上がっていくのを見つめるのは、嫌いではなかった。

(ま、いいやな。今日はここでこいつの指でも見ながらのんびり休むとしようか)

 そんなことを考えながらぼんやりと見つめ続けていたとき、不意にアリスの指がぴたりと止まった。人形用のブラウスに小さなフリルを縫いつけている途中だったので、かなり唐突な停止である。
 驚いて顔を上げると、無表情にこちらを見ているアリスと目が合った。それこそ人形めいたその表情に、魔理沙は思わず息を呑む。
 そうして予期せず見つめ合ったまま、二人はしばらく無言でいた。部屋で仕事中だった人形達は、特に何事もなく作業を続けている。
 だから、アリスの身に何か異常なことが起きたわけではない、と思うのだが。

(じゃあなんで途中で仕事を中断してるんだ? さっぱり分かんないぜ)

 魔理沙が内心首を傾げたとき、ふと、

「ねえ」

 アリスが声をかけてきた。別段いつもと変わらぬ、ただ若干不思議そうな感じのある声音である。
 急に声をかけられたことに少々驚きつつ、しかし魔理沙は努めて平静に返事をする。

「ああ、なんだ?」
「なんだ、はこっちの台詞なんだけど」

 アリスはかすかに眉をひそめる。

「あんた、さっきからずっとこっち見てるじゃない。どうしたの。ハーブティが口に合わなかった? でも、いつもだったらそういうのは遠慮なく言うわよね? まさか、わたしに文句も言えないほど気落ちしてるわけじゃないでしょうし」

 澱みない口調でそんなことを言われたので、魔理沙は言葉に詰まった。
 さて面倒なことになったぞ、と思いながら、軽く唇を舐める。
 何故見ていたのか、と言われれば、それはもちろんアリスの仕事に感心していたからだ。もっと言うなら、見惚れていた。
 しかし、それを口にするのは物凄く癪である。耐え難いと言ってしまってもいい程だ。
 才能では他の誰かに遠く及ばないとしても、せめて心意気や態度では横に並び立っていたい、と。
 それが、ずっと昔から魔理沙が抱き続けているちっぽけなプライドの根本にある感情である。
 だからこそ、アリスの質問に対して正直に答える気はさらさらない。
 だが、「別に見てないぜ」などというバレバレの嘘を吐くつもりもなかった。
 何故かと言うに、「他人のすることなどどうでもいい」と言っておきながらやたらと他人をよく見ている、この矛盾した少女に対して下手な嘘は命取りになるからだ。表情や声音などですぐにばれてしまうに決まっている。
 だからこういうときは、嘘を吐かない代わりに表現を変えるか、もしくは若干の真実を織り交ぜた嘘を吐くのがいい、と魔理沙は経験上よく知っていた。
 そうすれば、不思議と表面に出る影響が小さくなるのだ。

(今回の場合は……別のことで褒める、ってところか?)

 できれば、技術以外のこと。アリスの努力や才覚などは大して関係ないことを褒めるべし。
 その方針でちょっと考えて、何を言うべきか決める。なに、口から出まかせを言うのは慣れている。きっと大丈夫だ、と軽く心に言い聞かせつつ、魔理沙はからかうように笑った。

「ああ、確かに見てたぜ」
「でしょうね。で、なに? やっぱり不味かった、それ?」
「いや、ハーブティーは関係ないぜ。わたしが見てたのはな、お前の指だ」
「指?」

 アリスは作りかけの服と針糸をそっとテーブルに置くと、自分の両手を広げて見下ろし、不思議そうに首を傾げた。

「わたしの指が、どうかしたの?」
「いや、なに。見惚れてたんだよ」
「は?」
「お前の指が、あんまり綺麗だったもんでな」

 突然窓が割れて外から斧が飛び込んできたかと思うとくるくる回転しながら露西亜人形に突き刺さって彼女の手からたくさんの本をぶちまけさせその内の一冊が暖炉を調整中だった倫敦人形の背中に命中して彼女の体を火の中にダイブさせその衝撃で彼女の手から勢いよく飛び出した火かき棒が通りすがりの上海人形の腹部に突き刺さったために彼女は台所まで吹っ飛ばされて料理中だった仏蘭西人形にぶつかり二体は仲良く鍋の中にぼちゃんと落下する。
 そんなことが、ほんの一瞬の間に起こった。
 そこから先はもうまるで災害現場さながらである。背中から斧を生やした露西亜人形が上手く飛べずに戸棚に突っ込んで整理されたばかりのグラスの列を滅茶苦茶にしているかと思うと、暖炉にダイブして火だるまになった倫敦人形が「ロォォン! ドォォン! ブリィィッジ!」と叫びながら部屋の中を縦横無尽に飛び回ってそこら中に火の粉を撒き散らし、ようやく鍋から這い出してきたスープ塗れの上海人形と仏蘭西人形がこりゃ大変だとばかりに桶に入った水を持ってきて倫敦人形にぶっかけたと思ったら実はその中身が油で火の勢いがますます強くなってしまったり。割れた窓の外では薪割り中だったはずのオルレアン人形が気まずそうに頭を掻いている。
 突然巻き起こったそんな騒ぎを前に、魔理沙はわけが分からず呆然とするばかりだったが、一方でアリスは相変わらず落ち着いたものである。
 きれいな布でしきりに自分の指を拭きながら、至極冷静な声で一言、

「ドリフよ」

 魔理沙はぎこちなくアリスの方を向いて、

「……ドリフ?」
「そう、ドリフ」

 きゅっきゅっ、と指を拭きながら、アリスが頷く。彼女の背後では、燃え盛る倫敦人形が「ダイ! エイ! ハクブツカァァァァァン!」と叫びながら悶え苦しんでいる。
 周囲の状況に比べてテーブルの向こうの人形遣いがあまりにも冷静だったために、魔理沙も次第に落ち着きを取り戻してきた。
 とても恥ずかしいことをしてしまったような気分になりつつ、椅子に座ったまま居住まいを正す。何かを誤魔化すように「あー」と呟きながら、きゅっきゅっ、と指を拭いているアリスに問いかけた。

「ドリフ、か」
「ドリフよ」
「それは、なんだ?」

 アリスはきゅっきゅっ、と指を拭きながら、淡々とした声で答える。

「外の世界で流行した喜劇の一形態。ダイナミズム溢れる舞台配置の転換や観客に役者同士の位置関係を指摘させる斬新な手法を基盤としつつ、日本古来の雷神伝承をモチーフにした衣装を取り入れるなど、伝統文化の継承者としての側面をも持ち合わせる。近年では世界を滅亡させるほど多量の火薬を用いた過激な演出も各方面から絶賛を浴びている。それが……」

 きゅっきゅっ。

「ドリフよ」
「そうなのか」
「そうなのよ」

 平然と答えつつ、きゅっきゅっ、と指を拭きながらアリスが頷く。
 魔理沙は黙ったまま横を見て、今現在部屋中で展開されているスラップスティックを眺めた。
 なるほど、確かにそう言われてみれば頷ける部分もなくはない。あまりにも唐突に始まったが故に少々混乱してしまったが、確かにこれが舞台の上の出来事ならば、なかなか笑える一場面としてよく仕上がっているような気がする。慌てふためいて火だるまになったまま飛び回る倫敦人形なんか、小さな子供が笑い転げそうな出来だ。

「つまり、その喜劇の手法を自分の人形劇に取り入れようとしているわけだ、お前は」
「ええそうよ。そういうことなの」

 きゅっきゅっ、と指を拭きながら、アリスが頷く。
 魔理沙は心の中で唸った。今まで魔理沙は人形劇など所詮子供を喜ばすためのものに過ぎない、としか思っていなかったが、アリスはそうではなかったらしい。まさか外の世界の文化にまで知識の幅を広げ、己の芸術を向上させようとしているとは。

(さすがアリス、わたしの三歩先を行く女だぜ……!)

 何故今それを唐突に披露したのかはよく分からないが、とにかく凄い。魔理沙の中でアリスに対する評価点がまた一つ上昇し、同時に自分に対する評価点は一つ下降する。
 こいつがこうしてたゆまぬ努力を続けているというのに、一体自分は何をやっているのか、と。
 きゅっきゅっ、と指を拭くアリスの前で、魔理沙は一人恥じ入った。
 きゅっきゅっ。きゅっきゅっ。

「……ところでお前、さっきからなんでそんな熱心に指拭いてるんだ?」
「ん。いや、別に意味はないわ。そうね、指ね、指」

 アリスは一人でぶつぶつ呟き、そばを通りかかった倫敦人形に布を投げ渡す。消化はとっくに終わっていたらしく、倫敦人形は見事なアフロヘアーになっている。

「あれはあのままでいいのか」
「後で直してあげるわ」
「舞台のたびに直さなけりゃならんとは。ドリフを取り入れるのも大変だな」
「そうね。ところで」

 アリスがこちらをじっと見つめて言う。

「さっきの話、なんだけど」
「え? さっきのって?」
「ほら、ちょっと前の」

 アリスはちらちらとテーブルの上に目を落としながら言う。そこで組まれた彼女の両手が、せわしなく指を組み換えている。
 それを見ながら、はてなんだっただろうか、と魔理沙は首を傾げた。何分騒ぎのインパクトが強すぎて、その直前まで何を話していたのかほとんど覚えていない。

「なんか、大事なことでも話してたっけ?」

 魔理沙が正直にそう言うと、アリスがぴたりと指を組み換えるのを止めた。一瞬ちらりと魔理沙の顔を見て、それからすっと視線をそらし、

「……いえ、覚えていないなら、いいのよ。別に、大したことじゃないし」
「そうか」

 頷いた魔理沙が、少し冷めたハーブティーに口をつける間に、上海人形がいくつかの反物を抱えてそばを通りすぎた。何やらじっと自分の指を見つめていたアリスがそれを受け取り、傍らに置く。
 何を始める気か、と思って何気なく見ていると、アリスはおもむろにいくつかの反物を手に取り、巻かれた生地を引き出して迷いなく裁断した。先ほど同様、型紙などないのに躊躇なく鋏を入れ、布地の形を整えていく。そうして最終的に、彼女の前にいくつかの服のパーツと思しきものが並べられた。ここから見ても、なかなか上等な生地ばかりだと分かる。
 しかし、彼女が何をするつもりなのかは見当もつかなかった。今裁断した布地は、人形用の服を作るにしては大きすぎる気がするのだが。
 眉をひそめる魔理沙の前で、アリスは無言のまま針糸を手に取った。
 そして小さく息を吸ったかと思うと、物凄い速度で布地に針を通し始めた。

(速っ……!?)

 魔理沙は絶句した。
 今、目の前で行われているのは裁縫という行為のはずである。しかし、それにしてはあまりにも速い。比喩表現ではなくて、本当にアリスの指が見えないほどのスピードである。まるで、彼女の周囲でだけ時が加速しているかのような光景だ。
 ひょっとしたら、その見方は正しいのかもしれない。今のアリスは、間違いなく魔法による肉体強化等を応用して指の動きを速めている。そうでなければ、いかに種族魔法使いという妖怪だからと言って、これほどの速度で裁縫が出来るはずもない。
 そうして、眼前であれよあれよという間に一着の見事なドレスが仕上がっていくのを目にして、魔理沙はごくりと唾を飲む。

(これがアリスの真の力……! 凄い……凄すぎるぜ、EXアリス……!)

 服飾を司る神の手による奇跡を見ているかのような光景である。今この場に居合わせた幸運を、運命とかそういう大きなものに対して感謝したくなるほどだ。
 だがしかし。

(なんでこいつはいきなりこんなことを始めたんだ? さっぱり分からん……!)

 理解に苦しむ魔理沙をよそに、アリスの動きは一瞬たりとも止まらない。その場で波立つフリルを作って縫いつけ、人智を超えた速度でレースを編上げ、いよいよ以てドレスを完成へと近付けていく。
 しかし、考えれば考えるほど奇妙であった。魔理沙は服作りになどほとんど縁がないが、普通は専用の作業場なんかで仕立てるものなのではないのだろうか。この家の中にそういう場所があることは一応知っている。何故、大した設備もなくて不便極まりないこの場でやるのか。全く理解できない。
 だが、魔理沙がその疑問を口にすることはない。口にする余裕もないぐらいに圧倒されている。それほどまでに凄まじく、素晴らしいのだ。
 今目の前で一種の美しい生き物の如く優雅かつ繊細にドレスを作り上げていく、アリスのその、

「指」
「なに」

 思わず漏らした小さな呟きに、アリスが即座に反応した。
 ぎょっとする魔理沙を見つめ、静かに問いかけてくる。

「今、何か言わなかったかしら」
「え、いや、その」

 突然話しかけられたために、魔理沙はすっかり混乱してしまった。何か言わなかったか、と聞かれれば、そりゃ言ったが。作業に集中し切っていたはずのアリスが、なぜそんなことを気にするのか。

「わたしの気のせいでなければ」
「お、おう」
「指、とか聞こえた気がするんだけど」

 ちらっ、と魔理沙を見ながら、

「わたしの指が、どうかしたのかしら?」
「いや、別に」

 魔理沙は言い淀む。ああまで見惚れてしまってなお、アリスの技術を口に出して褒めるのはなんとなく嫌なのである。
 そんな自分の小ささにまた自己嫌悪を抱きつつ、それでもかろうじて、

「ただ、お前の指がよく見えなかったからさ」

 遠回しに褒めると、アリスはぴくりと眉を震わせ、

「見えない」
「ああ。見えなかったんだ」
「そう。見えないのね」

 アリスは呟きながら椅子の上で姿勢を正し、またドレスの製作を再開した。
 ただし、今度は先ほどのような凄まじい速さではない。むしろ実に遅々とした動きだ。それ故、丁寧に通される針が、完璧な均整を持った縫い目を作っていくのがよく見える。改めて見ると、よくまあミシンも使わず手縫いでこれ程の精緻な縫い方が出来るものだ、と感心してしまう。
 感心してしまうが故に、訳が分からなかった。

(なんだ……? なにがしたいんだ、こいつは……?)

 黙々と裁縫を続けるアリスを前に、魔理沙は悩みに悩んだ。
 そうして数分間も悶々と悩み続けてようやく、

(まさか、こいつ……!)

 はっとして顔を上げた途端、たまたま様子を窺うようにこちらを見ていたアリスと目が合った。魔理沙がそう気付いた途端、人形遣いはすっと目をそらす。
 だが、もう遅い。魔理沙は先ほどの一瞬を余すことなく脳裏に収め、それ故に確信したのだ。

(やっぱり、そうだ)

 テーブルの下で、ぎゅっと拳を握り締める。

(アリス……! お前、気づいていやがるな! わたしの胸に渦巻く、この凄まじい劣等感に!)

 考えてみれば、分かり切った話だ。
 最初にハーブティーを出された時点で気付くべきだった。あのとき既に、アリスはこちらに対してメッセージを発していたのだ。

 ――あなたの気持ちなんて、わたしにはまるっとお見通しよ。

 アリスは全て分かっていたに違いない。魔理沙が激しい劣等感に苛まれていることも、才能溢れる人形遣いに嫉妬混じりの羨望の眼差しを送っていたことも、心の中で必死にそれを誤魔化そうとしていたことも。
 分かっていながら、敢えて己の腕を見せつけるような真似をしたのだ。こちらを気遣うような素振りを見せたり、外の世界の文化にも精通していることをほのめかしたり。先ほどなど、わざわざちょっとした魔理沙の呟きを聞きつけて、執拗に己の指さばきを称賛させようとまでしたではないか。

 ――ほら、その汚い口で言ってご覧なさいよ。わたしはアリス様の足元にも及ばない、卑しい田舎魔法使いですって。なんならこの指、舐めさせてあげてもよくってよ? 爪の垢でも飲んでみる? そしたらあなたのお粗末な脳味噌も、少しはマシになるかもしれないものねえ……!

 アリスの冷めた表情の向こうに隠された嘲り笑いが、耳に聞こえるような気がする。
 魔理沙はぎりりと奥歯を噛んだ。

(お人形さんみたいに可愛い顔して、なんて残酷な女だ……! まるで分別のつかない幼子が、捕まえた蝶の羽を嬉々としてむしるが如きの振舞い! サディストめ……!)

 心の中で慄きながら、これはまずいことになったぞ、と魔理沙は全身に緊張を漲らせる。
 何せ、ここはマーガトロイド邸。いわば敵の本拠地だ。今の自分はおいしいチーズにつられて自ら罠に突っ込んできた、薄汚いドブネズミのようなもの。その上今日改めて思い知らされたアリスの美的センスに圧倒されてもいる。
 状況は、極めて不利。
 このままでは圧倒的すぎる才能の差をこれでもかと言うほど見せつけられ、骨の髄まで精神を擦り減らされてしまうに違いない。徹底的に自尊心を破壊された自分は、空っぽになった心をアリスに蹂躙され、彼女の奴隷となり下がってしまうだろう。
 ああ、目を閉じれば見える気がする。アリスの膝に縋りつき、猫なで声で甘えている自分の姿が。
 アリスおねえさまあ、とかなんとか言って、膝に頬を擦り寄せちゃったりして。

(冗談じゃねえ! アリス好みのフリフリドレスなんか着せられてたまるかよ!)

 そうなってしまったら、自分はもうお終いだ。
 いや、気付かなければ知らず知らずの内に誘導され、そうなってしまっていたに違いない。人の心を操るアリスの手管は見事としか言いようがない。

(さすがアリス、わたしの三歩先を行く女だぜ……!)

 しかし、まだ手遅れではない。そうなる前に、気づくことが出来たのだから。
 勝負はここからだぜ、という意思を込めてアリスを見ると、それに気づいた彼女がわずかに身じろぎして、軽く目をそらした。

「なに?」
「ん。いや、別に」

 白々しい奴め、と心の中で笑いながら、魔理沙は手元にあるティーカップを手に取る。腕がかすかに震えているのに気がつき、落ち着け、と自分に言い聞かせた。

(これはいわば、互いの魔法使いとしてのプライドをかけた真剣勝負……! アリスがわたしを屈伏させるか、それともわたしが耐え切るか……二つに一つ、だ)

 目を閉じ、すっかり冷め切ったハーブティーを最後の一滴まで啜った瞬間、今はもういない師の笑顔が心の中に浮かんだ。

 ――いやいや。あたしゃここにいるから。

(分かってるぜ、魅魔様)

 目を閉じたまま、魔理沙は自信に満ちた微笑みを浮かべた。

(この勝負、相手に呑まれた方が負ける! 決め手になるのは精神力だ。魔力でなら絶対に敵わないだろうが、意地の張り合いでなら負けないぞ、アリス……!)

 自分に気合を入れ、魔理沙はソーサーの上にティーカップを置いた。自然と、口元に獰猛な微笑みが浮かぶ。
 来るなら来やがれ。お楽しみはこれからだ……!

「なに笑ってるの?」
「いや、なに」

 答えながら、魔理沙は頭の中で素早く戦術を組み立てる。
 先ほどまでは絶対にアリスの技術を褒めたくないと思っていたが、その方針は取り止めだ。何せこの人形遣いは、己を称賛させて、魔理沙自らの口で才能の差を認めさせたいと考えているのだ。
 意地を張ってアリスを褒めまいとして、心の中で葛藤すればすればするほど、それが何かしら態度に表れて、相手を喜ばせることになる。
 ならばどうするか。
 答えは簡単。逆のことをすればいいのだ。
 魔理沙は余裕のある笑みを浮かべ、真っ直ぐにアリスを見た。途端にそっと目をそらす彼女に向かって、ゆっくりと語りかける。

「ちょっとな。感心してたのさ」
「感心? なにに?」
「ほら、さっきわたし、言ったろ。指、って」
「ああ、うん」

 相変わらず裁縫を続けている自分の手元をちらっと見下ろし、アリスは小さく頷いた。

「言ったような、気もするわね」
「言ったんだよ。まあつまりな、度肝を抜かれちまったのさ」
「え?」
「お前の指さばきが、あまりにも凄すぎてな」

 近くを通りかかったアフロの倫敦人形が、突如「ジェントルメン!」と奇声を上げた。

「今のは」
「ドリフよ」
「そうか」

 ほれ見ろ、どんなときでも自分の教養高さを見せつけることを忘れない。やはりアリスはこちらを嬲りつくすつもりのようだ。
 しかし、今の魔理沙はその程度で動じはしない。むしろますます笑みを深め、アリスに称賛を浴びせかける。わたしは少しも羨ましがってなんかいないぞ、と言うように。

「いやホント、凄いよお前は。こんなに速く服を仕立てられるなんてな。並の職人じゃあ出来ないことだぜ」
「別に、そんな凄いことじゃないわよ。むしろ急いだ分ちょっと雑になったって反省してるぐらいで」
「いやいや、とても雑には見えないよ。見事な出来栄えだと思うね。さすがアリスだ」
「そんなに言われるほどのことじゃ」
「なにせわたし、さっきお前の指が見えないぐらいだったからな。そのぐらい速くて精密だったぜ」
「え?」

 アリスがちょっと目を見張り、それから安心したように微笑みながら、

「ああ、そう。指が見えないって、そういう」
「なに?」
「ううん、なんでもない」

 素っ気なく言いつつも、アリスは少し顔を伏せる。その頬にかすかな朱が走ったのを、魔理沙は見逃さなかった。
 アリスめ、自分の思惑通りこちらが悔しがらなかったものだから、少々怒り気味らしい。

(第一ラウンドはからくもわたしの勝利、ってところか……!)

 小さく息を吐きながら、魔理沙はすぐに気を引き締める。
 勝負は終わってなどいない。むしろ、ここからが本番なのだから。
 アリスは上海人形をそばに呼び寄せ、仕立て終わったらしいドレスを手渡した。彼女にしてはフリル控え目な、黒サテンドレスだ。作品としてどこかのクローゼットにでも納めておくのかもしれない。
 ドレスを持って去る上海人形と入れ替わりに、露西亜人形が毛糸玉と編み棒を持ってやってきた。
 アリスはそれを受け取りながらちらちらとこちらを見て、

「まあ、そうね」

 編み棒を手に取りながら、小さく頷いた。

「見ていて楽しいものだとも思えないけど。見たいのなら、好きなだけ見ればいいと思うわ」
「いやいや、楽しいぜ。お前が手芸やってるところはさ、いくら見てたって飽きが来ないよ」

 突然空中で急加速した倫敦人形が、壁に激突してアフロの弾力でぽーんと跳ね返って来た。

「ドリフか」
「ドリフよ」

 短く答えながら、アリスは編み物を開始する。やはり凄まじい速さで編み上げながら、ちらちらとこちらを窺ってくる。

 ――どう、この指さばき。あんたじゃあ及びもつかないでしょう?

 そんな得意げな声が聞こえてきそうである。
 だが、今の魔理沙はそんなものでは毛ほども揺らがない。
 むしろ余裕の微笑みを浮かべて、編み物を続けるアリスから目を逸らすことなく見つめ続ける。
 フラフラと飛んできた仏蘭西人形が、窓際の鉢植えをつかんで狂ったように振り回し始めた。
 ドリフらしい。

「無茶苦茶土が飛び散ってるんだが。掃除とか大変じゃないのか、あれ」
「別に。他の人形にやらせるから」

 アリスは凄まじい速さで編み棒を交差させながら、早口に答える。

 ――わたしにかかれば掃除なんて造作もないわ。あんたとは違うのよ、あんたとは。

 静かな瞳の奥に潜む軽蔑の色が、今の魔理沙にははっきりと見えている。

(フン。舐めやがって)

 しかしそんな内心はおくびにも出さず、魔理沙は微笑みを崩さない。アリスが小さく唇を噛むのが見えた気がした。
 そのとき、

「出来た」

 小さく呟いたアリスが、編み棒をテーブルの上に置く。見ると、彼女の手の中に柔らかな水色のマフラーがあった。

「もう出来たのか。やっぱり速いな」
「うん。まあ、ね」

 ややぎこちない口調で、アリスが答える。こちらが悔しがらないものだから、少し焦っているように見えた。

(フフン。そう何度も同じ手に引っかかるかよ)

 魔理沙は得意になって来た。アリスの腕前を褒めるのも、段々と慣れてきた気がする。
 この分で行けば勝負は間違いなくわたしの勝ちだな、という確信が、心の中に広がっていく。
 そんな魔理沙の前で、アリスは何事か考え込む様子だった。迷っているようにも見える。
 なんだろう、と訝ったとき、アリスは何か決意したかのように一つ頷く。
 それから少し経って、上海が重そうなスーツケースを持ってよろよろと飛びながらやって来た。アリスはそれを受け取ると、テーブルの上で開き、出来上がったばかりのマフラーを中に入れる。
 そのスーツケースを閉じて横倒しにすると、テーブルの上を滑らせるようにしてこちらに押し出してきた。

「え、なんだ?」
「あげる」

 短い答え。驚いてアリスを見ると、何やら強張った表情で、

「ああ。別に、大した意味はないのよ。ただ、何となく作った服が溜まってきちゃってね。お手入れはちゃんとしてるから、着るのに不自由はないはずだし」
「そうか」

 アリスの意図が読めないために、魔理沙としてはそう返すしかない。
 何か罠でも仕掛けてあるんじゃないか、と警戒しながら、スーツケースを開く。しかし予想に反して、それは普通のスーツケースのようだった。たとえば開いた瞬間中に潜んでいた人形のアーティフルサクリファイスが発動して大爆発を起こすとか、そんなこともない。
 中には、先程のマフラーの他にも、何色かのドレスが綺麗に畳んで収められていた。さっき出来たばかりの黒サテンドレスもある。手入れをしている、というのは本当のことらしく、見たところ皺は一つもない。どれもこれも、いかにもアリスらしい可愛らしいドレスである。無茶なデザインで恥をかかせようという意図でもないようだ。

(分からんな……なにが狙いだ……?)

 警戒しながら、魔理沙はスーツケースの中を入念に調べる。だがやはり、トラップらしきものは見つからない。

「……着るのに不自由はない、と言ったが」
「ええ」
「サイズとかは、どうなんだ? わたしに合うのか?」
「ピッタリのはずよ。あんた、わたしと最初に会ってからほとんど体型変わってないし」
「何故分かる? 採寸させた覚えはないぜ」
「知人関係の体型はほとんど把握しているわ。一目見れば大体分かるから」

 なんでもないことのように、さらりと言う。
 それも人形遣いとしての観察眼、ということだろうか。文字通り、人間業ではない。もっとも、そのぐらいでなければ何もないところから瞬時に一着の服を仕立て上げるような離れ業は絶対に出来ないだろうが。
 つまり、また己の腕を誇示するのが狙いだろうか。だが先ほどまでの流れで、そういった攻撃がもはやこちらにほとんど意味をなさないということは多少なりとも分かったはずだ。
 魔理沙が訝ったとき、不意にアリスが、

「別に、気にしなくてもいいのよ」

 しなやかな指先でせわしなく髪の毛を弄りながら言った。

「なんて言うか、手持ち無沙汰でね。本当に、なんとなく作ったものなの。別に張り切って作ったものだとか、そういうわけじゃないから。着てほしいとも言わないわ、ええ。箪笥の肥やしにするのでもいいから、受け取ってくれれば有難いなって。そういう感じなの、ええ」
「ほう」

 ようやくアリスの意図が読めたために、魔理沙は内心渋面を作りながら言った。

「つまり、あれか。用途もなく廃棄処分する予定だったものを、せっかくだからわたしにあげようと。そういうことか」
「ああ。ええ、そう。そういうことなのよ。だから、別に遠慮とかしなくてもいいのよ」
「そうか。よく分かったぜ。ありがたく頂いておくよ」
「うん。きっと、あなたに似合うと思うわ」

 微笑んで頷くアリスに笑い返しながら、魔理沙はスーツケースを閉じてテーブルの下に置いた。顔では笑っているが、心の中では激しい怒りが渦を巻いている。

 ――あんたにはわたしが暇つぶしに作って捨てる予定だった服がお似合いよ、この田舎魔法使い……!

 そんなアリスの悪意が、今はっきりと読み取れたからだ。

(ククッ……なかなか痛烈な皮肉を浴びせてくれるじゃあないか……! どうやら第二ラウンドは引き分けのようだな、アリス……!)

 だがまだ負けんぞ、という意図を込めてじっと見つめると、アリスはまたそっと視線をそらした。さっきから、いつもと違ってやたらと目をそらしたがるのは、あんたとは目を合わせる価値すらないわ、という意味だろうか。

(上等。それならどこまでだって付き合ってやるぜ)

 魔理沙は椅子に座り直すと、「あー」と言いながらおもむろに腹をさすった。

「そういやあ、そろそろ夕飯の時間だな。今日は何を食べさせてくれるんだ?」
「え?」

 アリスは目を丸くした。

「ここで食べていくつもりなの?」
「ああ、そうだが。いつものようにご馳走してくれるんだろ?」
「ええ。ええ、まあ、いいけど」

 アリスは何か戸惑っている様子だった。観察眼の鋭い彼女は、こちらの考えはある程度察しているはず。だからこそ、なぜわざわざ勝ち目のない戦いを挑もうとするのか、と訝っているのだろう。

(そうだな。確かにお前は多分野に渡って洗練された能力を持つ都会魔法使いさ。わたしには万に一つの勝ち目もねえだろう)

 心の中でそう認めつつ、だが、と魔理沙は思う。

(だからって、ここまで来て退けるかよ……! 意地があんだろ、女の子には!)

 魔法使いとしての、否、人間としてのプライドをかけて、全身全霊この女に挑むつもりなのである。
 挨拶代わりに、魔理沙は余裕の笑みを浮かべた。

「そうか、ご馳走してくれるのか。そいつは良かった」

 下手なもの食わせてくれたら容赦はしないぜ、という意図を込めて、

「アリスの料理は凄く美味いからな! 楽しみだぜ!」

 アフロの倫敦人形が突然永江衣玖のようなポーズを取って「フィーバー!」と叫び始めた。
 まだドリフをやりやがるのか、と魔理沙は少々うんざりする。どうやらアリスは、あくまでも自分とこちらとの才能の差を誇示する方針らしい。
 一方の本人は、テーブルの向こうでぴくりとも動かない。どうやらわたしの余裕ある態度に驚いているらしいな、と魔理沙は内心で会心の笑みを浮かべ、追撃に移る。

「どうした、アリス。固まっちまって」
「え。ああ、ううん」

 アリスはぎこちなく笑いながら、

「そんなに楽しみにしてもらってるなんてね。光栄だわ」
「ああ、もちろんだとも。アリスの料理の腕はわたしらの中でもぴか一だからな。期待させてもらうぜ」

 さり気なくプレッシャーをかける。アリスは小さく俯いた。
 勝負が自分有利に展開していることを確信し、魔理沙は満足して頷いた。
 あとはこのペースを保ったまま、度肝を抜かれたり悔しがる様子を見せたりせず、余裕を持った対等の態度で振舞えればこちらの勝ちである。

(見ていやがれ、アリス……!)

 もちろん眼力で負けるつもりもない。視線はテーブルの向こう側にいるアリスに固定である。
 人形遣いは落ち着きなく身じろぎをしている。たまにこちらの様子を窺うようにちらちらと見てきては、居心地悪そうに目をそらす。

(フフフ……どうやら状況が分かってきたらしいな。アリスの奴、自分が不利になりつつあることを自覚してきたらしいぜ)

 このまま押し切ってやる、と魔理沙が内心で獣の笑みを浮かべたとき、コック帽を被った上海人形と仏蘭西人形がふわふわと飛んできた。上海人形がサラダの盛りつけられた深皿を、仏蘭西人形が食前酒のワインが入ったバスケットを持っている。
 前菜、ということだろうか。いつもはアリスだってそんなものにはこだわっていないというのに、随分な張り切りようだ。

(どうやらアリスも本気になったらしいな。上等だ、こんなもので気圧されるわたしじゃあないってことを思い知らせてやる)

 注がれたワインを飲み干した後、魔理沙はアフロの倫敦人形が置いて言ったナイフとフォークを手に取り、目の前に並べられたサラダに挑みかかる。
 まず手始めに、半月形にカットされた瑞々しいトマトにフォークを突き刺す。それを口に入れた瞬間、魔理沙は目を見開いた。

(これは……!)

 思わず、そのままの姿勢で硬直してしまう。
 そんな魔理沙を見て、アリスが問いかけてきた。

「どうしたの」
「え」
「口に、合わなかったかしら」

 俯き加減に漏らされたその言葉を聞いて、魔理沙は寸でのところで持ち直した。
 慎重にトマトを咀嚼しながら、その新鮮さと並はずれた糖度とを噛みしめる。
 飲み込んでから、問いかけた。

「……アリスよ」
「なに?」
「これは、どこで手に入れたんだ? 人里なんかで手に入るものとは訳が違うぜ」
「ああ、それはそうね」

 アリスはあっさりと頷き、

「それ、うちの裏にある畑で採れたものだから」
「畑、だと……!?」
「ええ。ああ、畑なんて言い方は大げさかしら。ちょっとした家庭菜園みたいなものなんだけど」

 そう言えばさっき、そんなことを言っていたような気がする。西蔵人形は裏の畑の手入れ中、とかなんとか。

「こんな瘴気が蔓延する森で、まともな野菜が育つもんなのか。キノコとかならともかく」
「魔法で地質と空気を改良したのよ。畑の周囲に魔法石を埋め込んで、小さな結界を常時展開しておけば、極端な環境の変化は防げるから」

 ごくあっさりとした説明に、魔理沙は強い衝撃を受ける。
 人形に関連ある分野ならともかく、そんな明らかに専門外のことにまで精通しているとは……!

「なんで、そんなもん研究してるんだ?」
「え? ああ、ううん、研究、とかじゃなくてね」

 アリスは少し声を落として、

「こういうこと、あんまり話したくないんだけど。わたし、魔界では結構いいものばっかり食べさせられてたから、どうも、幻想郷のお店で売ってる野菜とか果物とかが口に合わなくて。我ながら贅沢だとは思うんだけど」
「なるほど、な」
「えっと。それで、どうかしら?」

 アリスは小さく首を傾げる。

「フォークが止まってるみたいだけど。やっぱり、口に合わない?」
「ああいや、そんなことはないぜ」

 魔理沙は慌てて、レタスやキュウリの輪切りなどを次々口に詰め込んだ。

「いや、美味い美味い。人形だけじゃなくて野菜まで作れるとはな。さすがアリスだぜ」
「何を言ってるのよ」

 アリスは小さく顔を伏せる。その口元に微笑みが浮かんだのを、魔理沙は見逃さなかった。

(クソッ! この女、勝ち誇っていやがる……!)

 だが、仕方がない。先ほど口に合わないか、と問われたとき、

 ――所詮あなたの貧乏舌ではその野菜の都会的な味は分からないでしょうよ、この田舎魔法使い……!

 そんな嘲り笑いが、声の奥に潜んでいたような気がする。
 そもそも、本当ならば何でもないようにごく普通に食べて、ごく普通に感想を言うべきだったのだ。最初にフォークを止めてしまった時点で、自分の負けは決まっていた。アリスの野菜に圧倒されてしまった、というのを自分から宣言したようなものだから。
 そうなってしまえば、食べてもあちらの勝ち。食べなくても、あちらの勝ちだ。

(さすがアリス、わたしの三歩先を行く女だぜ……!)

 レタス一枚残さずサラダを食べ終わり、魔理沙は気を引き締める。
 どうやら食事中も一切気は抜けないらしい、と。

「いや、美味かったよ」
「そう、良かった。こういうのって素材の味が全てで、料理の腕では誤魔化しきれないから」
「ん。ところで、裏の畑では野菜だけを育ててるのか?」
「ううん。他にも果物とか、花とか……あと、麻とか綿花とか、蚕とかも育ててるわね」
「蚕?」
「ええ。ほら、服の素材用にね。畑ごとに結界を張って、それぞれに内部の環境を調整して。ああ、他にも蜂蜜用に蜜蜂も飼っていてね。近々家畜小屋を作って鶏とか牛とかも飼ってみようかな、なんて」
「なるほど、ねえ」

 どこか嬉しそうに話すアリスの前で、魔理沙は内心歯軋りしていた。
 全く。話せば話すほど、アリスの超人ぶりに圧倒されるばかりだ。
 世間話ですら勝てそうもないぜ、と判断して、魔理沙は早々に話を打ち切る。

「ところで、飯はいつ来るんだ?」
「そんなにお腹空いたの?」

 アリスは微笑み、

「今、人形たちに作らせているところだから。もうちょっと待ってて」
「おう。いや、楽しみだぜ」
「本当に?」

 アリスは探るような視線を向けてくる。
 どうやら、どうしても魔理沙に自分を称賛させたくて仕方がないらしい。そしてこちらが内心の悔しさを押し殺しているのを肴に美酒を味わう心づもりなのだろう。
 このサディストめ、と内心悪態を吐きながら、魔理沙は余裕の笑みを作った。

「本当だとも。正直な、わたしは紅魔館なんかのパーティで出される料理よりも、アリスが作ったやつの方が美味いとすら思ってるんだ」
「それは言いすぎよ」
「本当だって。それに、宴会ならともかく、さ。普通の食事に関しては大人数よりもこういう雰囲気の方が落ち着くし」
「こういう雰囲気って?」
「ほら。二人きりじゃん、今」

 背後からびたんびたんという怪音が聞こえてきたので驚きながら振り向くと、京人形が凄い速さで上下に飛んで、天井と床とに激しく自分の体を叩きつけていた。

「ドリフか」
「ええ。気にしないで」

 こんなときにも見せつけてくれるぜ、全く。魔理沙はため息を吐きたくなった。
 そうして不意に、奇妙な沈黙が部屋に下りた。二人とも、何も言わない。魔理沙は一歩も引かない覚悟の下にアリスから目をそらさず、一方のアリスもそれを受け止めて微動だにしない。
 まるで嵐の前の静けさだな、と魔理沙は心の中で汗を拭う。
 見よ、この神経の高ぶりを。妖怪退治に出かけるときだって、これほどまでに緊張することは滅多にない。
 そのときふと、アリスがわずかに目をそらした。

「なんだか、落ち着かないわ」
「いや? わたしはそうでもないぜ」

 実際は緊張しっぱなしなのだが、魔理沙は敢えて余裕を見せつける。何せ相手は残虐非道のマーガトロイドさんだ。どこからどう付け込まれるのか分かったものではない。油断したら精神の鎧をバリバリとかみ砕かれて、あっという間に骨抜きにされてしまうだろう。
 アリスはそんな魔理沙の言葉を聞いて、「そう。慣れてるのね」と小さく呟いたかと思うと、ふと部屋の入口に目を向けた。
 しばらくすると、小さな楽器を持った人形達が連れ立って入って来た。

「なんだ?」
「料理が出来上がるまで、もう少しかかりそうだから。暇つぶしも兼ねて、演奏でも楽しんでもらおうかな、って」
「へえ。至れり尽くせりだな」
「あんまり、大したものじゃないんだけどね」

 会話する二人が座るテーブルの近く、邪魔にならない程度の位置に、人形達が控え目に浮遊する。
 小さな指揮棒を持った人形がおり、小さなヴァイオリンを持った人形がおり、小さなヴィオラを持った人形がおり、小さなフルートを持った人形がおり。他にも、小さくも精密な楽器を持った人形達が勢ぞろいだ。あんな玩具みたいな楽器からまともな音が出るのか、と魔理沙は訝ったが、おそらく出るのだろう。アリスのことだからあれらの楽器も全て自作で、何らかの魔法が施してあるに違いない。
 果たして、指揮者人形が小さくお辞儀をした次の瞬間から始まった演奏は、予想通り圧倒的なものであった。澱みなく、優雅な旋律が部屋を満たす。モーツァルトだかショパンだかチャイコフスキーだか高橋竹山だか。ともかく、情緒のある見事な演奏である。ここは一体どこの舞踏会場ですか、とつい尋ねたくなってしまうほどだ。

 ――あなたは所詮わたしの手の平の上。さあ、無様に哀れに、踊り狂ってみせなさい、この田舎魔法使い……!

 そういうアリスのメッセージであると、魔理沙は受け取った。
 心の中では劣等感と嫉妬が渦巻いて、今にも吐きそうな気分だ。そのぐらい、目の前にいる少女の才能は圧倒的で、否が応にも自分の非才を思い知らせてくれる。
 だが、魔理沙は逃げない。たとえ無様な負け戦だとしても、最後まで毅然と顔を上げ続ける覚悟で、じっとテーブルの向こうのアリスに視線を注ぎ続ける。一方のアリスももはや目をそらすことなく、二人は情熱的な音楽が流れる部屋の中で、しばらくの間無言のままに見つめ合った。
 やがて演奏が次の曲目に移ろうかと言うとき、上海人形と仏蘭西人形を先頭にして、たくさんの人形達が手に手に料理の皿を持って部屋に入って来た。

(来たな……!?)

 魔理沙は絶句した。予想以上に、人形の……否、料理の数が多い。品目の幅も多岐に渡っており、フレンチがあるかと思えばイタリアンがあり、中華まで完備している。カナッペに杏仁豆腐にプリンに。デザートも豊富のようだ。手に持つバスケットに、たくさんの酒瓶を詰め込んだ人形もいる。
 コース料理でこちらのテーブルマナーを試すつもりだろう、と見ていただけに、この圧倒的物量による大攻勢は完全に予想外である。
 虚を突かれた魔理沙だったが、今がまだ勝負の最中だったことを思い出し、はっと正気に立ち返った。呆然としているところを見られたか、と思ってアリスに目を向けたが、彼女も何やら俯いていて、こちらのことなど見てもいない。
 どうやらまだ大丈夫らしい、とほっと息を吐き、目の前に次々と料理が並べられていくのを見ながら、魔理沙は慎重に問いかけた。

「どうしたんだ、アリス。いつもよりも、ずいぶん数が多い気がするんだが」
「えっと。その」

 アリスは何やら言い淀んだあと、にっこりと笑って。

「なんて言うか、ね。楽しみにしてもらってたみたいだし、せっかくだから、いろいろと食べてもらおうと思って」
「そうなのか」
「ええ。決して、つい張り切りすぎちゃったとかそういうわけではないのよ。いつも通りよ、いつも通り」

 ――わたしにとってはいつも通りのメニューだけど、あなたにとっては生まれて初めてお目にかかるような豪華な食卓でしょうよ。せいぜい卑しい豚のようにむしゃぶりつくがいいわ、この田舎魔法使い……!

(言ってくれるじゃねえか……! さすがアリス、わたしの三歩先を行く女だぜ……!)

 ますます激しさを増すアリスの皮肉に、魔理沙はぎりりと歯を噛みしめる。
 だが、まだ勝算はある。並べ終わった料理の数々の中には、和食がほとんど含まれていないのだ。
 勝った、と魔理沙は内心で笑みを浮かべた。

(残念だったな、アリス。わたしは和食党だ。こんな毛唐の料理なんぞで、心を打ち砕かれることはあり得ねえ……!)

 これなら普通に食事を進められそうだ、と若干の余裕を取り戻しつつ、魔理沙はとりあえず手近にあったピッツァに手を伸ばす。
 結果から言えば、その油断が命取りになった。
 熱々のピッツァを一口食べたその瞬間、あまりにも深いその味わいに、魔理沙は一瞬呆然としてしまったのである。
 こんな濃い味など、自分はさして好みではなかったはずなのに。
 どちらかと言えば、さっぱりとした味付けが好きだったはずなのに。
 濃厚なチーズと新鮮なトマト、絶妙な柔らかさを持ったベーコン。その深い味が防ぎようもなく舌に染み入り、一気に脳まで駆け上がって来る。
 気がつくと、物も言わずにピッツァ一枚丸ごと食べ尽くしてしまっていた。
 はっとしたときには、もう遅い。アリスが微笑んでこちらを見ていた。

「満足してもらえたみたいで、良かったわ」
「あ、ああ」

 ほっとしたようなその声を聞いて、魔理沙は頬が引きつるのを堪えられなかった。
 相手の好みの和食で籠絡するのではなく、敢えて好みから外れた洋食による力押しで、強引に屈伏させてくれるとは。

(負けた……! この勝負、わたしの力負けだぜ……!)

 だがそれでも、魔理沙には膝を折るつもりなど毛頭になかった。
 せめて一矢報いてやろう、と気持ちを奮い立たせ、大口開けて笑う。

「いや、スゲー美味いぜこれ! 夢中になっちまったよ!」
「本当?」
「もちろん。なんていうか、さ」

 お前の天職は魔法使いなんかじゃねえよ、というありったけの皮肉を込めて、

「アリスはきっと、いいお嫁さんになるぜ!」

 人形の楽団員たちが各々の楽器を手に壮絶な殴り合いを始めた。
 ドリフである。



 食事を終えてからも次々と歓待を受け、これでもかと言うほどに劣等感を味わわされた後、魔理沙はようやく解放された。
 本当に、長い戦いだった。風呂場でアリスの柔らかな肢体を見せつけられたり、その後の人形たちによる全身マッサージで絶頂に昇らされたり、たくさんのお土産を持たされたり。

 ――あなたは魔法以外のどんな分野でも、決してわたしには勝てないと言うことよ。それを骨の髄まで噛みしめるがいいわ、この田舎魔法使い……!

 アリスの高笑いが脳の奥まで響いてきそうな、圧倒的な攻勢であった。
 まだ蹂躙され尽くしてこそいないものの、魔理沙の心はもう限界である。

(無事に帰れるだけ、良しとするか……)

 魔法の森の深い宵闇の中、入口の扉付近でアリスと向かい合った魔理沙は、内心疲れたため息を吐き出していた。これ以上才能の差を見せつけられたら、アリスの足下に身を投げ出して泣きながら許しを乞うていたことだろう。
 そんな血も涙もない残虐非道なアリス・マーガトロイドは、閉じた扉の前に立って、何かが詰まった小さな袋をそっと魔理沙に差し出してきたところである。

「なんだ、これ?」
「クッキー。あんたのことだから、今日も夜更かしして魔法の研究をするんでしょう? 夜食にでもしてちょうだい」
「ああ、そうか。ありがたく受け取っておくよ」
「あんまり無理しちゃ駄目よ」

 ――どれだけ努力したところであんたはわたしには勝てないんだからね、この田舎魔法使い……!

(ちくしょう。言い返す言葉もねえ……!)

 魔理沙は相手に見えないように強く唇を噛みながら、素直に袋を受け取った。
 右手には例のスーツケースの他にも、たくさんのお土産を抱えている。
 これ程の施しを受けてしまうとは。少々自虐的な気分になって、魔理沙は力なく笑う。

「全く。アリスさんときたら、優しすぎて困っちまうぜ、わたしは」

 アフロの倫敦人形が窓を突き破って飛び出してきたかと思うと、月灯りをスポットライトにノリノリで踊り始めた。

「ドリフよ」

 至極冷静に、アリスが言う。ここまで徹底的に追い打ちをかけるとは。つくづく恐ろしい女だ。正直、さっさと逃げ出してしまいたい。

「じゃあな、アリス。また今度」
「ねえ、魔理沙」

 背中を向けようとした魔理沙を、アリスが呼び止める。まだやるのかよ、と内心泣きそうになりながら魔理沙が振り返ると、アリスは何やら躊躇いがちに、

「わたしね、今日あんたが入って来たとき、なんだか不機嫌そうだな、と思ったのよ」
「ああ。それで?」
「でも、その後の様子を見てると、なんていうか……その」

 絡めた指をせわしなく組み替えながら、

「ねえ。もしかして、何かいいことでもあったの? それで、ああいう……」

 言いかけて口を噤んだアリスを前に、どういう意味だろう、と魔理沙は首を傾げた。ぼんやりと考えて考えて、ようやくアリスの言わんとするところが読み取れてくる。
 なにせ自分は彼女から手渡されたお土産を山ほど抱えているのだ。
 そんな自分に対して、何かいいことでもあったの? と。

(……つまり、お礼を言えと。そういうことか?)

 ここまで無慈悲に打ちのめしておきながら、さらに感謝の言葉まで要求するとは。

(さすがアリス、わたしの三歩先を行く女だぜ……!)

 どうやら、最終ラウンドのゴングが鳴ったようだ。ここで怒ったり、悔しさを見せてはいけない。
 最後の矜持だけは、守らなければ。
 たとえ今の自分が無様な敗残兵に過ぎないとしても、せめて胸を張って堂々と帰るのだ。それが、誇り高き人間というものだ。
 魔理沙はなけなしの気力を振り絞って顔を上げると、力強い微笑みを浮かべていった。

「ああ。いいことなら、あったぜ」
「そう。やっぱり」

 アリスはほんのちょっとだけ蔭りのある微笑みを浮かべた。

「どんなことだったの? やっぱり、霊夢絡み?」
「霊夢? なんでここで霊夢が出てくるんだ?」
「え、違うの?」

 目を丸くするアリスに、魔理沙は言ってやる。

「わたしが言ってるいいことってのはな」

 じっとアリスを見つめながら、

「ご親切でお優しいどこぞの人形遣いさんが、たくさん優しくしてくれて、たくさんお土産をくださったことだぜ」

 裏の畑を手入れ中だったはずの西蔵人形が物凄い勢いで地面を耕しながらやって来たかと思うと、倫敦人形がアフロになった頭から何かの種を取り出してそこら中にばらまき始めた。
 ドリフってのは随分奇抜なんだな、と魔理沙はちょっと場違いな感心を抱く。
 一方、アリスは何やら身を捩ってこちらから背けた顔を、両手で覆い隠してしきりに首を振っている。
 ついに相手に負けを認めさせた恍惚に身悶えしているらしい。
 さすが残虐非道のマーガトロイド。いっそ清々しく思えるぐらいのサディスト振りだ。
 そんなアリスは、やたらと首を振りながらぶつぶつと呟いている。

「やめて。もうホント、勘弁して。お願いだから」

 ――あんまりみっともない意地を張らないでもらえるかしら。笑えて笑えてしょうがないのよ、この田舎魔法使い……!

「分かったよ。今日はもう帰る」

 魔理沙が吐き捨てるように呟くと、アリスははっとしたように顔を上げて、慌てたように言った。

「ああ、ごめんなさい。今のは違うのよ、あの、そういう意味じゃなくって」
「別に、取り繕う必要なんてないぜ」

 魔理沙は肩をすくめて、じっとアリスを見る。

「お前の気持ちは、わたしにはよーっく分かってるつもりなんでな」
「そう、なんだ」

 こちらの滑稽さを嘲笑うのを必死で堪えているためだろうか、アリスは少し顔を赤くして俯く。
 ややあって、ぎこちない微笑みを浮かべながら言ってきた。

「今日はありがとう、魔理沙。わたし、凄く楽しかったわ」
「ああ、そうだろうよ」
「あんまり無理しちゃ駄目よ。ちゃんと睡眠を取って。それから、ちゃんと歯を磨いて寝るのよ」
「なんだよそりゃ。お前はわたしの姉ちゃんか」
「姉ちゃん、か」

 アリスは嬉しそうに笑った。

「わたし末っ子だったから、ずっと妹が欲しいなって思ってたの」
「ふうん。つまりわたしを妹のように思っていると」
「ええ。ふふっ。撫で撫でしてあげましょうか?」
「やめろっつーの」

 魔理沙は顔をしかめる。妹、とはなかなか言ってくれる。

 ――わたしが姉であんたは妹。その関係は覆せない。つまりあんたは一生わたしには勝てないということよ、この田舎魔法使い……!

 最後の最後まで容赦のない攻撃。
 本当に、恐ろしい女だ。

(わたし如きが勝とうって方が、無謀だったってことかな)

 魔理沙は内心ため息をつきながら、両手がほとんど塞がっているために軽く頭を下げた。

「じゃ、アリス。そろそろ」
「ええ。ごめんね、長々と引きとめちゃって」
「いいよ。お前もずいぶん楽しんだみたいだしな」
「ふふ。そうね」
「じゃ、な」

 そう言って、魔理沙が逃げるように身を翻した瞬間。

「おやすみなさい、魔理沙」

 満足げなアリスの声が、魔理沙の胸を貫いた。
 一歩、一歩と歩を進めるたびに、心の疼きが大きくなっていく。
 全身が叫んでいた。
 このままやられっぱなしでいいのか、と。

(いいわけはねえ、が)

 歩きながら、魔理沙は唇を噛みしめる。

(この上、どうしろってんだ……! もう反撃の手段なんて、ひとつも残されて)

 だがそのとき、頭の片隅に閃くものがあった。
 それは、今は亡き師の微笑みである。

 ――いやだから、あたしゃここにいるってば。

(……そうだったな、魅魔様)

 魔理沙は小さく息を吐いた。立ち止まった場所は、奇しくもマーガトロイド邸の明かりがぎりぎり届く、その境界線。目の前には闇が広がるばかりだ。あと一歩進んでいたら、戻れなくなっていたかもしれない。
 両手一杯の荷物を無言で地面に帽子を脱ぎ去る。そのまま、髪も解いてしまう。
 鏡がないからはっきりとは分からないが、今の自分は昔に近い外見になっている、はずだ。
 そう。今は亡き師の腕の中で、うふうふ笑っていたあの頃に。

 ――ここにいるって言ってんのに!

(ありがとう、魅魔様。思い出させてくれて)

 そう。思い出した。
 自分には、最後の武器が残っているではないか。
 確実にアリスに一矢報いることができる、半分自爆に近い必殺の技が。
 魔理沙はくるりと身を翻し、目標に鋭い視線を飛ばす。
 アリスはもう見送りを終えたものと見え、こちらに背を向けて家の中に戻ろうとしているところだった。
 絶好の好機。魔理沙は小走りに駆け、音もなくアリスに向かっていく。
 思い出せ、あの頃のことを。
 自分がどんな風に笑っていたか。どんな風に振舞っていたか。

(そうだ。こいつなら確実にアリスの野郎にトラウマを負わせてやることができる。思い知らせてやるぞ、今日一日でわたしが負った心の傷が、どれだけ深いものかをな……!)

 消されるなこの想い、忘れるな我が痛み。
 魔理沙はドスを突き出すような気分で走り続け、必死に昔の自分を呼び戻す。
 そう、これは必殺技だ。
 かつて宴会の罰ゲームで披露したとき、あの咲夜の笑顔をも引きつらせ、萃香の酔いすら醒めさせた、究極の自爆奥義。

 ――黒史「うふふまりさ」……!

 魔理沙はアリスの背後で立ち止まると、可愛らしく満面の笑みを浮かべ、体をくねらせながら甘ったるい声で言った。

「おやすみなさい、アリスおねえさま!」



 そのとき、アーティフルサクリファイスが発動した。
 地下倉庫にて物品の整理中だった蓬莱人形が大爆発を起こし、偶然近くに積まれていた火薬の箱に引火したのである。
 マーガトロイド邸、大炎上。



 突如、窓という窓が内側から木っ端微塵に吹き飛び、天を突かんばかりに立ち上がった火柱が、高々と屋根を突き破った。アフロの倫敦人形が「ボンバヘェッ!」と叫びながら爆風に飛ばされていくのを横目に、魔理沙は呆然と、目の前で炎上しているマーガトロイド邸を見上げた。
 一体、何が起きたのか。状況がさっぱりつかめない。

(そうだ。アリス、アリスは……!?)

 はっとして周囲を探ると、いた。
 アリスは先程と同じくこちらに背を向け、半ば燃え落ちたドアのノブに手をかけたまま微動だにしない。
 魔理沙は驚愕した。

(こんな状況でも少しも動じていないだと!? 何故……)

 考えて、気づく。

(まさか)

 ごくりと唾を飲み込み、

(これも、ドリフなのか……!)

 いや、考えてみれば当然のことかもしれない。
 芸には芸で返す。実に理に適った行動だ。
 しかし、魔理沙には理解できなかった。
 たかがそれだけのために、自分の家まで吹き飛ばすか?
 一体、何故。
 未だにぴくりとも動じぬアリスの背中を見つめながら、考えに考え抜いた魔理沙は、やがて一つの結論に辿りつく。

(……わたしを好敵手として認めてくれたってことか?)

 アリスはあの一瞬で、魔理沙が放った捨て身の芸に秘められた想いを完璧に理解してみせたのだ。
 それ故に、自分も自分に出来る最大限の芸で答えてみせた、と。
 そうとしか、考えられなかった。

(……負けた、か)

 魔理沙はそっと息を吐いた。
 今度こそ、本当に圧倒された。人形遣いアリスの、器の大きさに。
 才能だけの女ではないのだ。彼女の心には、それにふさわしい覚悟もまた備わっている。
 そういうことを理解できたが故に、完敗したにも関わらず、魔理沙の心は晴れやかであった。
 頭上を見上げれば、暗い夜空に星の明かりが瞬いている。
 いつもは頼りなく見えるその光が、今はやけに目に眩しい。

(負けちまったよ、魅魔様)

 星の海に浮かぶ、今は亡き師の面影に笑いかける。

 ――もういいや。あたしいなくなるわ、うん。

(ありがとう、魅魔様)

 闇の向こうに消えていく師の微笑みに一礼し、さて、と魔理沙は気を取り直す。
 今まで自分は、才能溢れる巫女を永遠のライバルと思い、彼女の背を追いかけて必死に走って来た。
 だが今日で、彼女以外にも追いかけるべき目標が出来た。
 アリス・マーガトロイド。
 その背は今の自分にとっては限りなく遠くにあるが、いつか必ず、追いついてみせる。
 それだけの覚悟を、他ならぬアリス自身に教えられたのだから。
 だから今は、何のこだわりも意地もなく、ただこの偉大な魔法使いを心の底から褒め称えようと思う。

(さすがアリス、わたしの三歩先を行く女だぜ……!)

 立ち尽くすアリスに微笑みを浮かべながら歩み寄り、その肩を叩きながら一言、

「ドリフって、凄いな」

 アリスは何故か真っ赤になった顔を両手で覆い、その場に蹲ってしまった。



 <了>
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コメント

すごく面白かったです!
思わず声を上げて笑ってしまいました。

面白すぎでした。
アリス、可愛いなあ~♪
魔理沙も罪な女ですね。

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