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【東方SS】しゃぶれよ

2009/9/13に東方創想話に投稿したSSです。
 


『しゃぶれよ』



 真昼の空の一点に、光を通さぬ闇の球。
 真夏の炎天下、縁側に座ってお茶を啜っていた霊夢の横に、闇を纏った少女がべたりと落下した。
 
「おなかすいたー」

 闇を解除して昼の世界へと姿を現しながら、ずるずると這い寄って来るのはルーミアである。
 金髪の下の赤い瞳を涙で潤ませながら、霊夢の顔を見上げて懇願する。

「ねー、なんか食べさせてー」
「だめ」

 即答し、霊夢はお茶を啜る。
 ルーミアは唸りながら縁側上に立ち上がり、がばりと口を開いた。
 鋭い犬歯をぎらりと光らせながら、
 
「だったらあんたを食べてやる!」

 ルーミアが叫んだ瞬間、霊夢は即座にお札を投げつけて相手の動きを止め、小さな少女の胸倉つかんで持ち上げると、十発ほどの往復ビンタによる快音を響かせた挙句、お札をぺろっと剥がしつつ無造作に庭に放り出した。
 起き上がったルーミアが、赤く腫れた頬を押さえながら涙目で呻いた。

「いたい」
「当たり前でしょ」
「冗談だったのに」
「だからわたしも冗談で済ませてやったのよ。それとも本気でかかってきて、もっとひもじくて惨めな想いをしたい?」
「うー」

 赤い目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
 それでも霊夢が無関心にお茶を啜っているので、ルーミアはとうとうその場に仰向けになってじたばたと手足をばたつかせ始めた。
 
「おなかすいたおなかすいたー! なんかたべたいー!」
「あーもう、うるさいわねえ」

 霊夢はぼやいてため息を吐き、傍らの盆に湯呑を置いて立ち上がった。
 
「分かった、なら適当になんか食べさせてやるわよ」
「本当!?」

 ルーミアが顔を輝かせて立ち上がる。霊夢は苦笑した。

「今のあんたは妖怪ってよりも単なる腹ぺこの子供だからね。子供にご飯分けてあげられないほど貧しくはないわ」
「おー、そーなのかー!」
「そーなのよ。でもただは駄目よ」
「おかねとか持ってない」
「分かってるわ。ご飯の代わりになんか寄越しなさい。宴会来る連中だって、つまみぐらいは持ってくるんだから」
「そっかー。うーん」

 霊夢がそう言うと、ルーミアは腕を組んでしばらく悩んでいたが、やがて何か思いついたように顔を輝かせた。

「分かった、じゃあご飯の代わりに昼寝しやすくしてあげる!」
「昼寝? ふむ」

 霊夢はじりじりと地を焼くように降り注ぐ夏の日差しを見上げたあと、微笑んで頷いた。
 
「そういうこと。分かった、それでいいでしょう。あ、靴脱いで上がりなさいね」
「はーい! ごっはんごはん、おいしいごはんー。今日は神社でお食事だー」

 調子外れの歌を歌いながら、ルーミアがばたばたと神社の母屋に上がり込もうとするのへ、

「靴を脱ぎ散らかさない」
「はーい」

 ルーミアは霊夢の注意に素直に従い、行儀よく靴を揃えた。

「いやに素直ね」
「ご飯のお礼」
「妖怪を餌付けする巫女ってどうなのかしらね」

 小さく呟き、ルーミアに居間で待っているよう伝えると、霊夢は炊事場へと向かった。
 そうしてしばらくの後、菜っ葉の味噌汁と白米と輪切りの沢庵と魚の干物、それに納豆という至って質素な昼食を盆に載せて居間に戻ってみると、ルーミアはちゃぶ台の前にきちんと正座して大人しく待っていた。
 
「ずいぶん行儀がいいのね」
「ここまで来て退治されるの嫌だもん」
「だから人間の子供に倣ってるって?」
「そう。ね、早く食べさして」
「はいはい」

 霊夢がルーミアの前に盆を置くと、少女はとんでもないご馳走がきたものだと言いたげに、きらきら目を輝かせてご飯の一粒一粒にまで見入った。
 それですぐに食べ始めるのかと思いきや、霊夢が自分の分の食事を運んでくる段になってもまだ、涎を垂らしつつ正座して待っていた。

「食べないの?」
「いただきますしてない」
「よく勉強してるわね」
「人間の子供はおいしそうだからよく見る……おっと」

 ルーミアが慌てて口を手で塞ぎ、ちょっと心配そうにちらちらっと霊夢を見上げる。
 霊夢は苦笑した。
 
「そのぐらいで退治しやしないわよ」
「良かった」

 ほっと息を吐くルーミアの向かい側に座り、霊夢は目を閉じて両手を合わせた。向こうもそれに倣う。
 
「いただきます」
「いただきます!」

 がっつくかと思いきや、ルーミアは案外ゆっくりと味わって食事をした。沢庵をぽりぽりと齧っては幸せそうに笑い、舌舐めずりしながら納豆をかき混ぜ、みそ汁を啜ってはほぅっと息を吐く。
 彼女の箸の使い方が案外達者なのを見て、霊夢は目を瞬いた。

「誰かに習ったの?」
「んーん、見様見真似」
「器用なもんだわ」
「昔は手掴みだったけどね、人間がみんなこれ使って食べてるから、もしかしてこれ使えばご飯がもっとおいしくなるのかもしれないって思って」
「んなわけないでしょ」

 ふ、と、その頃は何を食べていたのかという疑問が頭を過ぎったが、今言うべきことではないと思ったので口には出さずにおいた。
 そんな霊夢を見て、ルーミアは屈託なく笑う。

「でもね、このご飯はおいしいよ」
「そ。良かったわね」

 頷き、霊夢は菜っ葉のみそ汁を啜る。
 いつもよりも美味く出来たな、と思った。



 ルーミアは予想以上に満足したらしく、後片付けまでしっかりと手伝った。
 その後二人はまた居間へと移動し、使い古した座布団を二つに折り畳んで枕にすると、隣り合って畳の上に寝転がった。

「じゃ、よろしく」
「分かった」

 霊夢に半ば密着したルーミアが、闇の球を展開する。途端に視界が真っ暗になり、何も見えなくなった。あれほどぎらぎらと降り注いでいた日差しですら、一欠片もこの闇の中には入り込んで来ない。
 その内、周囲が大分涼しくなってきた。

「便利なもんねえ」
「でしょ。夏はみんなこん中入りたがるよ」
「ふうん。チルノだけじゃなくてあんたも引っ張りだこなのね」
「まあね」

 それきり二人はしばらく無言になった。吹き込んでくる緩やかな涼風が、うるさいほどの蝉しぐれを運んでくる。

「涼しくはなったけど」

 霊夢は苦笑した。

「これじゃ、うるさくて眠れないわね」

 返事はない。
 寝たのかな、と思ったら、
 
「ね、霊夢」

 甘い声で囁きながら、ルーミアがそっと霊夢の右腕を取り、ぐいっと引き寄せた。
 咄嗟に握り締めた右手の甲に、暖かな吐息がかかる。
 かすかに鼻を鳴らしながら、ルーミアはじゃれつくような声で問いかけてきた。
 
「食べてもいい?」
「だめ」

 即答。ルーミアが霊夢の手の甲に顔を押し付けたまま、くすくすと笑った。
 
「冗談なのに」
「冗談でも、よ」

 霊夢は静かに言う。
 
「あんたが人を喰わない妖怪でいるから、わたしは妖怪を退治しない巫女でいるのよ」

 闇の向こうから、夏の昼間の風が緩やかに吹き込んでくる。

「それを崩したくなかったらね、冗談だろうがなんだろうが、境界ははっきりさせておきなさい」

 ややあって、

「分かった」

 素直に言いつつも、ルーミアは握りしめられた霊夢の手を柔らかく解いた。

「こら」
「大丈夫」

 秘密の遊びをするときのような、悪戯っぽい声。
 霊夢は、自分の右手がルーミアの両手で包みこまれたのを感じた。次に柔らかく拳が解かれ、人差し指が立てられる。
 そうして次の瞬間、その人差し指が湿っぽい暖かさで包まれた。肌の表面を、ざらざらとした何かが愛おしげに這い回る感触がある。

「何してるの」

 聞いたら、密かな水音に混じって、

「人喰いごっこ」

 囁くような答えが返って来た。
 霊夢は小さく息を吐き、

「どんな味?」
「渋い」
「微妙な評価だわ」

 少し笑いながら、霊夢はおもむろに手を伸ばした。
 大体この辺かな、と思った辺りで、案の定手の平にひんやりとした柔らかさが伝わる。
 そのまま、ルーミアの頬を軽くつねった。

「なにしてるの?」

 聞かれたので、

「妖怪退治ごっこ」

 答えながら、柔らかな頬肉を指先で捏ね回す。

「どんな感じ?」
「お餅みたい」
「おいしそう」
「そうね、おいしそうだわ」

 二人はしばらくそれぞれのごっこ遊びを楽しんだ後、大体同じ時間に仲良く眠りの中へ入っていった。



 夕暮れに起き出したのも、大体二人同時だった。
 黄昏の中に立ちながら、ルーミアはにっこりと笑う。

「ごちそうさまでした。そろそろ帰るね」
「どこへ?」
「夜へ」
「そ。じゃあね」
「うん。またね」

 夕闇の空を、一際濃い闇の球がふらふらと漂っていく。
 それを中途半端に見送ったあと、霊夢は軽く伸びをしながら母屋の中へ取って返す。
 そして、畳の上に金髪の美女が座っているのを見つけた。

「紫。なんか用?」
「ええ。あのね霊夢」

 こほん、と咳払いしながら、真面目くさった声で、

「なかなかいいものを見させて頂いたわ」
「はあ。何が?」
「妖怪と人間、両者の新たな関わり方。スペルカードルールを創ったあなたならではよね、ええ。とても素敵だったわ」
「そりゃ、どうも。それで?」
「ええ。あのね」

 紫はかすかに顔を赤らめながら、おもむろに右手を伸ばして霊夢の頬をつねった。
 空いた左手を近づけて、人差し指を立ててくる。
 それからもじもじと身じろぎしつつ、

「ど、どうぞ?」
「ふむ」

 紫には珍しく力加減を誤っているのか、つねられている頬が割と痛い。
 霊夢はとりあえず、一発殴り返しておいた。



 <了>
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